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第一章

悩み①

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◇◆◇◆

 イージス卿を護衛騎士に迎えてから、二ヶ月ほど経過した頃────私はある問題に頭を悩ませていた。

「ど、どうしよう……?もうすぐ────ジェラルドからの接触があるわ」

 自室のソファに深く腰掛け、私はギュッと胸元を握り締める。
ここには私とルカ以外誰も居ないため、不安と恐怖を存分に吐き出した。

「そんなの無視すれば、いいんじゃねぇーの?」

「それは無理よ。だって、ジェラルドは────直接屋敷にやってくるんだから」

 訪問そのものを無視することは出来ない。何かしらの対応が必要になるわ。

 前回の記憶を呼び起こしつつ、私は白いクマのぬいぐるみを抱き締める。
こうすると、少し落ち着くから。

「直接屋敷に、ねぇ……来ても、公爵様に追い返されそうだけど」

 『男なら尚更』と言い、ルカは小さく肩を竦めた。
何故そこまで警戒するのか、分からないのだろう。

「残念だけど、お父様は頼れないの……」

「何で?」

 心底不思議そうに首を傾げるルカに対し、私はそっと眉尻を下げる。

「実はそのとき────お父様は遠征中なの。だから、屋敷に居なくて……前回は私自ら対応することになって屋敷に招き入れた、という経緯があるわ」

「なるほど」

 納得したように頷くルカは、どこかスッキリした様子でこちらを見つめた。

「ベアトリスが何で第二皇子と恋に落ちたのか……出会いは何だったのかずっと疑問だったけど、そういうことか」

「え、ええ……まあ、そうね。前回はその訪問を機に、仲良くなって婚約したから」

 意図せず過去の恋愛事情を話すことになり、私は少し口篭る。
危険人物にまんまと騙されて、殺されたことを思うと……なんだか、情けなくて。
『我ながら、危機管理能力が低すぎる……』と猛省していると、ルカが身を乗り出してきた。

「つまり、ジェラルドと接触しないようにしたいんだな?」

「ええ、出来れば」

 まだ子供とはいえ、自分を殺した人物と会うのは勇気が要り……尻込みする。
『会わずに済むなら、それに越したことはない』と考える中、ルカはおもむろに身を起こした。

「分かった。何とかしてみる」

「えっ?出来るの?」

「ああ。と言っても、実際に行動するのは俺じゃないけどな」

 『見ての通り、今は幽霊だから』と肩を竦め、ルカはふと窓の外に視線を向ける。

「ほら、前にも言っただろ?逆行するに当たって、力を合わせた奴らが居るって。そのうちの一人に、第二皇子と関わりのある奴が居てな……頼めば、何とかなると思う」

 皇城のある方角をじっと見つめ、ルカはおもむろに前髪を掻き上げた。
かと思えば、窓辺にふよふよと近づいていく。

「てことで、ちょっくら行ってくるわ。直ぐに戻ってくるから、良い子にしとけよ~」
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