6 / 256
為すべき事
殺すべき敵
しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇
突然の処刑中断。
都民は皆関心がなく、そんな異常事態を『どうでもいい』と流していた。
1人の少女を除いては。
「私にとっては、どうでもいい事でも何でもない。むしろ、自分が殺すべきヒトを見つける事が出来るいい機会だった」
———日ノ國が滅ぶ少し前。
『二千兵戦争』
記録にもあまり残されていない戦争。
日ノ國という一国がなぜ2000人もの兵を挙げ、誰を討伐しようとしたのかすら謎に包まれている。
2000もの兵は、一体誰と戦ったのか。
後に国を滅ぼした白髪の少年だろうか。
それとも、過去に幕府に逆らう勢力を1人で皆殺しにした、何度斬られても蘇るという伝説上の男「雪斬宗呪羅」だろうか。
いずれにせよ、私の母は白髪の少年「人斬り白郎」に殺され、私の父はこの戦争で亡くなった。
初めて父の訃報を聞いた時、私は今後の生活の不安や、殺した者に対する怒りよりも、恐れを一番実感した。
何者かを殺害する為に挙げられた兵は、1人を除き全て、その何者かに斬り殺されているからだ。
現場にて積み上げられたのは1999人の死体。
1人は行方不明。
その1人が見つからないまま、国の解体は始まった。
ある1人の白髪の少年が幕府の城を攻め落とした後、日ノ國各地で暴動が発生。
あんなにも活気良く、明るすぎて眩しかった私の故郷は、たった一晩のうちにその歴史に終わりを告げた。
日ノ國崩壊後、王都に流れ込んだ日ノ國の民は『難民』と呼ばれた。悪いイメージしか持たないかもしれないが、難民になれただけでも運がいい方だ。
日ノ國崩壊後、日ノ國はどこかしらの国から魔術的猛攻をくらい続けていた。
国内では内乱、国外からは攻撃が続いていたが、日ノ國の一部の民は日ノ國の貿易用の船を使って逃げ出す事に成功した。私も、そのうちの1人だった。
船は海を旅するうちに3隻づつ別れ、私はすぐ横の大陸の最西端と思われる部分に上陸した。そこで待っていたのは……一言で言うと地獄だった。
上陸して西に歩いてすぐ、とても人間とは思えない異形の怪物に遭遇した。40人くらいか、悲鳴を上げてその怪物に食べられていった。
最初は人の血を見るだけで身震いしていたが、私の友人が目の前で身体を真っ二つに引き裂かれた時は、流石に身震いするよりも生存本能が勝ってしまった。
そんな事もあり、国を出る前は1000人を超えていた集団は、いつの間にかたったの16人になっていた。
そして砂漠で脱水症状を起こし、オアシスに辿り着く前に13人が息を引き取り、残る日ノ國の民は私を含めたったの3人になっていた。
道中、あの怪物と魔術で戦っている人間たちとの戦いに巻き込まれ、爆裂魔術が仲間の1人に直撃。
当たった1人はそのまま爆散し、残ったもう1人の女の子は、私を庇うようにして背中に大火傷を負い、ついに息絶えた。
私も腕が1本吹き飛んだが、むしろそれはまだ幸運だった方だろう。先に死んでいった仲間達に比べれば。
……いいや、実は物凄く不幸なのかもしれない。
仲間があれだけ傷付く姿を見せられ、腕が1本持ってかれ、それでもなお、まだ息は続いている。
もし、もしこの世界に神様がいるとしたら、一体神様は何を望んでおられるのか。
私にこのような、生きる活力を全て奪い、それでも尚足りない位の責め苦を与える事か?
それとも。もし私に何かをしてほしいのだとしたら。
私に出来る事をやり遂げろ、などと言うくだらないお告げなのだとしたら、ならば、私に出来る事はただ1つ。
日ノ國を滅ぼした少年を。二千兵戦争の標的を。人斬り白郎を。
この3人を皆殺しにする事、ただそれだけだ。
3月22日
レイ・ゲッタルグルト、ここに記す。
突然の処刑中断。
都民は皆関心がなく、そんな異常事態を『どうでもいい』と流していた。
1人の少女を除いては。
「私にとっては、どうでもいい事でも何でもない。むしろ、自分が殺すべきヒトを見つける事が出来るいい機会だった」
———日ノ國が滅ぶ少し前。
『二千兵戦争』
記録にもあまり残されていない戦争。
日ノ國という一国がなぜ2000人もの兵を挙げ、誰を討伐しようとしたのかすら謎に包まれている。
2000もの兵は、一体誰と戦ったのか。
後に国を滅ぼした白髪の少年だろうか。
それとも、過去に幕府に逆らう勢力を1人で皆殺しにした、何度斬られても蘇るという伝説上の男「雪斬宗呪羅」だろうか。
いずれにせよ、私の母は白髪の少年「人斬り白郎」に殺され、私の父はこの戦争で亡くなった。
初めて父の訃報を聞いた時、私は今後の生活の不安や、殺した者に対する怒りよりも、恐れを一番実感した。
何者かを殺害する為に挙げられた兵は、1人を除き全て、その何者かに斬り殺されているからだ。
現場にて積み上げられたのは1999人の死体。
1人は行方不明。
その1人が見つからないまま、国の解体は始まった。
ある1人の白髪の少年が幕府の城を攻め落とした後、日ノ國各地で暴動が発生。
あんなにも活気良く、明るすぎて眩しかった私の故郷は、たった一晩のうちにその歴史に終わりを告げた。
日ノ國崩壊後、王都に流れ込んだ日ノ國の民は『難民』と呼ばれた。悪いイメージしか持たないかもしれないが、難民になれただけでも運がいい方だ。
日ノ國崩壊後、日ノ國はどこかしらの国から魔術的猛攻をくらい続けていた。
国内では内乱、国外からは攻撃が続いていたが、日ノ國の一部の民は日ノ國の貿易用の船を使って逃げ出す事に成功した。私も、そのうちの1人だった。
船は海を旅するうちに3隻づつ別れ、私はすぐ横の大陸の最西端と思われる部分に上陸した。そこで待っていたのは……一言で言うと地獄だった。
上陸して西に歩いてすぐ、とても人間とは思えない異形の怪物に遭遇した。40人くらいか、悲鳴を上げてその怪物に食べられていった。
最初は人の血を見るだけで身震いしていたが、私の友人が目の前で身体を真っ二つに引き裂かれた時は、流石に身震いするよりも生存本能が勝ってしまった。
そんな事もあり、国を出る前は1000人を超えていた集団は、いつの間にかたったの16人になっていた。
そして砂漠で脱水症状を起こし、オアシスに辿り着く前に13人が息を引き取り、残る日ノ國の民は私を含めたったの3人になっていた。
道中、あの怪物と魔術で戦っている人間たちとの戦いに巻き込まれ、爆裂魔術が仲間の1人に直撃。
当たった1人はそのまま爆散し、残ったもう1人の女の子は、私を庇うようにして背中に大火傷を負い、ついに息絶えた。
私も腕が1本吹き飛んだが、むしろそれはまだ幸運だった方だろう。先に死んでいった仲間達に比べれば。
……いいや、実は物凄く不幸なのかもしれない。
仲間があれだけ傷付く姿を見せられ、腕が1本持ってかれ、それでもなお、まだ息は続いている。
もし、もしこの世界に神様がいるとしたら、一体神様は何を望んでおられるのか。
私にこのような、生きる活力を全て奪い、それでも尚足りない位の責め苦を与える事か?
それとも。もし私に何かをしてほしいのだとしたら。
私に出来る事をやり遂げろ、などと言うくだらないお告げなのだとしたら、ならば、私に出来る事はただ1つ。
日ノ國を滅ぼした少年を。二千兵戦争の標的を。人斬り白郎を。
この3人を皆殺しにする事、ただそれだけだ。
3月22日
レイ・ゲッタルグルト、ここに記す。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる