文字の大きさ
大
中
小
48 / 256
アーティフィシャル・マインド
マイ、マスター/起動
********
「私のマスターですか……それはそれはもう、笑顔が素敵な方、でした」
「笑顔?」
「……ええ、私を完成させるやいなや、すぐさまにやけ私の肉体をこれでもかと見つめ続けるのが、マスターの最初に見た笑顔でした」
……あの、マスターさん? それって、とってもエッチな笑みでは……
「その後は……私にぶら下がっているたわわなメロン(本人より引用)を揉みしだいた時の、まるで成仏されたかのような極上の笑顔……!」
「それってとってもいやらしい、下劣な笑顔なんじy」
「新兵器を完成させた時の、まるで天国にいるかのような、それでいてあまりにも邪悪過ぎる笑み……!」
「……ヤバくね?……その笑みは———やっちゃいけない笑みじゃね?」
「その後も定期的に私にいやらしい行為を持ちかけ、それをこなし極楽に逝かれたような余韻に浸られるマスターのお顔を見ると、まるで私まで逝ってしまいそうで……!」
……おいおいコイツら、やってる事中々にヤバくないか……?!
大体コイツのマスターどんな変態なんだよ、自分の作ったロボット(?)に発情して一線を越えるなんて、ましてやコックもそれを受け入れて一緒に気持ちよくなってるだなんて、2人揃ってコイツらかなりヤベエぞ?!
「……でも、時々、散っていった他の機巧天使を見つめながら、悲しい顔をする時もございました。
———我ら機巧天使は、ただの兵士。量産型の、ついぞ天使にはなれなかった欠陥品、だと言うのに」
天使になれなかった欠陥品……言葉の意味が分からないのだが……
「……後に知った事ですが、マスターは作った機巧天使に、マスター———つまり自らを製造した人物をマスターと認め、その方に着いていくようなプログラムを施されていました。」
「そりゃあ、そうだよな、そうじゃなければ、お前らを従わせる、だなんて不可能に近いだろ」
「いくら強大な兵器で多種族を抹殺しまくっていたとはいえ、あの方の私たちに向ける感情は、どこか特別なものがありまして……」
機械に向ける、感情、か……
「やはりあの方は、私たちがいなければ孤独そのものであり、あの方は、私たちといられると笑顔になる、と残された我ら機巧天使はそう解釈しました。だから……」
「……だから、あんなに必死でマスターを直そう、と」
コックの頬が赤らみ、その頬を涙が伝う。まさに、人間だ。
「……数多くの同胞が活動停止する中、私はようやく希望を見つけました。
それこそが貴方です、貴方の中にある『鍵』を使い、生命体の魂を犠牲とする事によって、マスターは蘇生する、と」
「……でも、もう手は」
「はい……手は……残されていません……! だから……だから私は……どうすればいい……と……!」
「…………ごめん、本当ならば、ここで慰めてあげるべきかもしれない。……でも、お前の力になれない事が……俺は悔しい……!」
なぜであろうか。別に下心とかではない。この天使を掌握してやろうなどと、そんな野望は持っちゃいない。
……ただ、今の話を聞いていると、あまりにも……コックが、可哀想で。
哀れむ事は、コックにとっては侮辱かもしれない。でも、やっぱり放ってはおけなくて。何とかしてやりたいと、そう思ってしまったんだ。……だから……
「アレン……さん、着きました。大穴……です」
「ありがとう、コック。最後に、その、マスターに手を合わせて帰らせてもらう、から」
「もう、行ってしまわれるのですね」
……帰らせてくれるんだな、何が何でも俺を殺していくのかと思ったのに。
「……俺たちには、魔王を倒さなくちゃならない使命だって……あるからな」
……その、今までのコックの話を遠くで聞いていてなお、俺たちのことをじっと静観していた2人、サナとセン。
ただ、白の発言を聞くやいなや、
「セン君、行きましょう。私たちも手を合わせに」
「……ですよね、僕もそう、思っていました」
彼らも、同じく祈りを捧げる選択をしたらしい。
最下層。鉄の壁にもたれかかる機体に———マスターと呼ばれたソレに、俺たちはせめてもの祈りを捧げる。何の意味も持たないかもしれないけれど、それで何かが変わる事を信じて。
信………………じた結果。
「……う……ああ……良い……目覚めだ」
「マ……マス……マズッ……マスターっ!」
何かは変わった。
マスターが生き返らない、と。そんな未来は、変わった。
完全に沈黙していた機体は突如、目を覚まし。
涙を流しながら、その古びた躯体にコックは抱きつきに行った。
「……な、なあサナ、これって一体どういう……」
「離れて、コック!!」
感動の再会を断ち切ってまで、そう叫んだのはサナ。
「マスターっ、マスターっ! 生きていらっしゃったのですね!」
……が、その叫びがコックに聞こえるはずもなく。
次の瞬間。
「…………マス、ター……?」
コックのその白い肌は、身に纏った服ごと、巨大な金属の針に貫かれていた。
「……ほお、機械の天使も、血を流すのか」
目を見開き、胸から血らしきもの……を流し、完全に静止したコックを見て、すぐさま叫ぶ。
「何を……何をした、コックのマスターっ!」
「……違うわ白、コイツはマスターじゃ……ない。コイツは……リー! 魔力の質が、そう物語っている……!」
「マスター、何……で、どうし……て……!」
「私……か? 私はお前のマスター、ではない。私はリー。魔王軍幹部、その一柱、リーである!」
微笑を浮かべる、マスターではないその機体はリーと名乗った。
「一人称を変えただけ……じゃなさそうだな、サナ、スライムって他人に憑依なんて真似できる……のか?」
「……既に魂のない、空の器ならば、おそらくね……!」
「白さん!……こここここれって、僕はどうすれば……!」
リーは、その赤く染まった金属の針を、動かなくなった機体より引き抜く。
コックは今までの化け物っぷりがまるでなかったかのように、力無く地面に倒れ込む……その瞬間。
「うあ……っ……マスター……何……を……!」
リーはコックの後頭部、髪を掴み、金属のかんざしにその錆きった手で触れる。
「……なんだよリー、人質のつもりか……!」
「違うとも、コイツの記憶を……吸収するのさ」
「「「……なっ?!」」」
あまりの発言に、その場にいた全ての人物が驚きを隠せずにいた。
……コックを除いては。
「へっ……記憶を……?……ああああっ! 嫌っ、嫌だっ! 記憶を消すだなんて……!やめてマスター、もうやめて! お願い、お願いっ…………!」
「子供のように泣き喚くか、偽造の天使よ」
今までの態度がまるで嘘のように、コックは取り乱す。
何度も何度も懇願し。まるでそれだけはダメだと、恐れていたように。
「嫌っ……嫌あっ! お願いマスター、何でも、何でもするから、記憶だけは……!」
********
彼女の心には、ただ恐怖のみが残されていた。
なぜ彼女が、記憶の、自身の記憶にこだわるのか。それは……やはり。
自分が、自分でなくなってしまう事が、怖いからだ。
********
長きに渡り続いた大戦。1000年前、終末戦争その最初期に、私は造りだされた。
……だが、次に目覚めた……いや、前はいつ目覚めたのかは分からないが、その時には既におかしかった。
私の中にて存在する初期設定、どれだけ記憶のデータを消し去ろうとも、必ず残る情報。それは、「当機の完成日」、「現時刻の情報」、「自身の創造主」、そして「創造主をマスターと認める」という命令。
この4つの情報、記憶が最初期の私を支える要素であった。……しかし、目覚める度に思う。……いや、前目覚めた時の記憶はないのだが。
「現時刻」と、「完成日」が明らかにズレているのだ。
……それは即ち、マスターが、もしくは他の何者かが私を起こし、その後何らかの理由により記憶をリセットしたのだと。そういう事実を示していた。
ならば、と。本当にそうであるのか、マスターに聞いてみる事にした。すると。
『……そうだ、お前の記憶は既に217回リセットしている。お前は人類に対していらん情を抱いて帰ってくるからな』と。
つまり、今の私は218回目の私、というわけだ。
……ならば、消された私は?……いらない、不要だと断定され、排斥され、消去された私は、どこに行ったのか?と。
……記憶にあったのは「虚」、「無」、「 」のみ。
……が、記憶にあった異常は一種類ではなく、私は隅々まで調べ上げる事にした。
結果、出てきたのは人類との輝かしい、とても胸の熱くなるような交流、その記憶の断片。前の私がどう思っていたかなど知りはしない。
けれど今の私は、それを、過去の既に消去され、ゴミ箱へと詰められた輝かしいゴミの数々を。
———美しいと、そう思ってしまった。そう思いさえしなければ。
私は……消えたくないと願った。いや、消えるのが怖かったのだ。
いつの日か、自分自身に問いかけた。
「記憶を、全てを失った私は、本当に私なのだろうか?」と。……何度問いかけようが、自分から返ってくるのは、「NO」という答えのみ。
思い出が、記憶が、輝かしいと見えてしまった私にとっては、それらを無くす事は死と同義であると。
記憶が無くなれば、私は私じゃなくなる。そんなもの、私は私と認めはしない、そんなものは、私の仮面を被った偽者でしかないと。
やはり何度問うても、その答えしか返ってはこなかった。……だから、主には従順に付き従った。
「美しい」と感じた人間を踏みにじり。「輝かしい」と感じた感情を蹴り飛ばし。
嘘の仮面を被りながら。
それでもなお、私は私でなくなるのが嫌だと抗い続けた。
……けれど、それももうおわり。そんなうたかたのゆめは、もうすべて、おわりにしましょう。
********
「コックっ、おいっ! 返事しろコック!」
「無駄だとも、勇者よ。この天使は私の従順なる下僕と成り果てた。私が、この天使のマスターだとも」
目から輝きが消え去り、完全に沈黙したコックに呼びかける。……が、そんな声が届くはずはなく。
ただその場に残ったのは、無念。コックを救ってやれなかった事への、無念と後悔だけだった。
「……そんな……! ひどい……あまりにも……酷すぎるわよ……こんなの……!」
「サナさん、感傷に浸っているところ悪いですが、来ますよ、コックはもう……敵です……!」
「……リー、貴方が誰かは存じませんけど……貴方は……貴方は…コックさんの想いを……踏みにじった、それだけは分かります。……それはきっとダメなことです……!」
「いやあ? もはやコイツは私の下僕、感情など既に無イとイうのに、そンナモのにイつまで……コダワるっ!」
「白っ! 危ないっ!」
リーの右腕より伸びる、鋭利な金属の塊。
しかしその金属塊の行先は、リーと直接話していたセンではなく———、
……が、今の俺に、それが避けられるはずはなかった。
「んっ!」
……ソレが俺に接触する寸前、剣を突き立て、金属を止めていたのはセンだった。
「白、さん……! そのままで……いいんですか……!」
「あ……ああっ」
「あなたは……あなたは、あの時言ったでしょう、悲しそうな顔をやめてくれ、って! 今のコックは……今のコックは……笑っているように見えますか? 白さんっ!」
リーの足元で座り込み、沈黙を続けるコックの顔は……
あまりにも虚で。生気など、微塵もなく。
ただただ、俺の守れなかった笑顔が遠ざかるばかりで———。
俺は、俺はどうするべきなのか。
それはもう、既に明らかとなっていたはずだ……!
「私のマスターですか……それはそれはもう、笑顔が素敵な方、でした」
「笑顔?」
「……ええ、私を完成させるやいなや、すぐさまにやけ私の肉体をこれでもかと見つめ続けるのが、マスターの最初に見た笑顔でした」
……あの、マスターさん? それって、とってもエッチな笑みでは……
「その後は……私にぶら下がっているたわわなメロン(本人より引用)を揉みしだいた時の、まるで成仏されたかのような極上の笑顔……!」
「それってとってもいやらしい、下劣な笑顔なんじy」
「新兵器を完成させた時の、まるで天国にいるかのような、それでいてあまりにも邪悪過ぎる笑み……!」
「……ヤバくね?……その笑みは———やっちゃいけない笑みじゃね?」
「その後も定期的に私にいやらしい行為を持ちかけ、それをこなし極楽に逝かれたような余韻に浸られるマスターのお顔を見ると、まるで私まで逝ってしまいそうで……!」
……おいおいコイツら、やってる事中々にヤバくないか……?!
大体コイツのマスターどんな変態なんだよ、自分の作ったロボット(?)に発情して一線を越えるなんて、ましてやコックもそれを受け入れて一緒に気持ちよくなってるだなんて、2人揃ってコイツらかなりヤベエぞ?!
「……でも、時々、散っていった他の機巧天使を見つめながら、悲しい顔をする時もございました。
———我ら機巧天使は、ただの兵士。量産型の、ついぞ天使にはなれなかった欠陥品、だと言うのに」
天使になれなかった欠陥品……言葉の意味が分からないのだが……
「……後に知った事ですが、マスターは作った機巧天使に、マスター———つまり自らを製造した人物をマスターと認め、その方に着いていくようなプログラムを施されていました。」
「そりゃあ、そうだよな、そうじゃなければ、お前らを従わせる、だなんて不可能に近いだろ」
「いくら強大な兵器で多種族を抹殺しまくっていたとはいえ、あの方の私たちに向ける感情は、どこか特別なものがありまして……」
機械に向ける、感情、か……
「やはりあの方は、私たちがいなければ孤独そのものであり、あの方は、私たちといられると笑顔になる、と残された我ら機巧天使はそう解釈しました。だから……」
「……だから、あんなに必死でマスターを直そう、と」
コックの頬が赤らみ、その頬を涙が伝う。まさに、人間だ。
「……数多くの同胞が活動停止する中、私はようやく希望を見つけました。
それこそが貴方です、貴方の中にある『鍵』を使い、生命体の魂を犠牲とする事によって、マスターは蘇生する、と」
「……でも、もう手は」
「はい……手は……残されていません……! だから……だから私は……どうすればいい……と……!」
「…………ごめん、本当ならば、ここで慰めてあげるべきかもしれない。……でも、お前の力になれない事が……俺は悔しい……!」
なぜであろうか。別に下心とかではない。この天使を掌握してやろうなどと、そんな野望は持っちゃいない。
……ただ、今の話を聞いていると、あまりにも……コックが、可哀想で。
哀れむ事は、コックにとっては侮辱かもしれない。でも、やっぱり放ってはおけなくて。何とかしてやりたいと、そう思ってしまったんだ。……だから……
「アレン……さん、着きました。大穴……です」
「ありがとう、コック。最後に、その、マスターに手を合わせて帰らせてもらう、から」
「もう、行ってしまわれるのですね」
……帰らせてくれるんだな、何が何でも俺を殺していくのかと思ったのに。
「……俺たちには、魔王を倒さなくちゃならない使命だって……あるからな」
……その、今までのコックの話を遠くで聞いていてなお、俺たちのことをじっと静観していた2人、サナとセン。
ただ、白の発言を聞くやいなや、
「セン君、行きましょう。私たちも手を合わせに」
「……ですよね、僕もそう、思っていました」
彼らも、同じく祈りを捧げる選択をしたらしい。
最下層。鉄の壁にもたれかかる機体に———マスターと呼ばれたソレに、俺たちはせめてもの祈りを捧げる。何の意味も持たないかもしれないけれど、それで何かが変わる事を信じて。
信………………じた結果。
「……う……ああ……良い……目覚めだ」
「マ……マス……マズッ……マスターっ!」
何かは変わった。
マスターが生き返らない、と。そんな未来は、変わった。
完全に沈黙していた機体は突如、目を覚まし。
涙を流しながら、その古びた躯体にコックは抱きつきに行った。
「……な、なあサナ、これって一体どういう……」
「離れて、コック!!」
感動の再会を断ち切ってまで、そう叫んだのはサナ。
「マスターっ、マスターっ! 生きていらっしゃったのですね!」
……が、その叫びがコックに聞こえるはずもなく。
次の瞬間。
「…………マス、ター……?」
コックのその白い肌は、身に纏った服ごと、巨大な金属の針に貫かれていた。
「……ほお、機械の天使も、血を流すのか」
目を見開き、胸から血らしきもの……を流し、完全に静止したコックを見て、すぐさま叫ぶ。
「何を……何をした、コックのマスターっ!」
「……違うわ白、コイツはマスターじゃ……ない。コイツは……リー! 魔力の質が、そう物語っている……!」
「マスター、何……で、どうし……て……!」
「私……か? 私はお前のマスター、ではない。私はリー。魔王軍幹部、その一柱、リーである!」
微笑を浮かべる、マスターではないその機体はリーと名乗った。
「一人称を変えただけ……じゃなさそうだな、サナ、スライムって他人に憑依なんて真似できる……のか?」
「……既に魂のない、空の器ならば、おそらくね……!」
「白さん!……こここここれって、僕はどうすれば……!」
リーは、その赤く染まった金属の針を、動かなくなった機体より引き抜く。
コックは今までの化け物っぷりがまるでなかったかのように、力無く地面に倒れ込む……その瞬間。
「うあ……っ……マスター……何……を……!」
リーはコックの後頭部、髪を掴み、金属のかんざしにその錆きった手で触れる。
「……なんだよリー、人質のつもりか……!」
「違うとも、コイツの記憶を……吸収するのさ」
「「「……なっ?!」」」
あまりの発言に、その場にいた全ての人物が驚きを隠せずにいた。
……コックを除いては。
「へっ……記憶を……?……ああああっ! 嫌っ、嫌だっ! 記憶を消すだなんて……!やめてマスター、もうやめて! お願い、お願いっ…………!」
「子供のように泣き喚くか、偽造の天使よ」
今までの態度がまるで嘘のように、コックは取り乱す。
何度も何度も懇願し。まるでそれだけはダメだと、恐れていたように。
「嫌っ……嫌あっ! お願いマスター、何でも、何でもするから、記憶だけは……!」
********
彼女の心には、ただ恐怖のみが残されていた。
なぜ彼女が、記憶の、自身の記憶にこだわるのか。それは……やはり。
自分が、自分でなくなってしまう事が、怖いからだ。
********
長きに渡り続いた大戦。1000年前、終末戦争その最初期に、私は造りだされた。
……だが、次に目覚めた……いや、前はいつ目覚めたのかは分からないが、その時には既におかしかった。
私の中にて存在する初期設定、どれだけ記憶のデータを消し去ろうとも、必ず残る情報。それは、「当機の完成日」、「現時刻の情報」、「自身の創造主」、そして「創造主をマスターと認める」という命令。
この4つの情報、記憶が最初期の私を支える要素であった。……しかし、目覚める度に思う。……いや、前目覚めた時の記憶はないのだが。
「現時刻」と、「完成日」が明らかにズレているのだ。
……それは即ち、マスターが、もしくは他の何者かが私を起こし、その後何らかの理由により記憶をリセットしたのだと。そういう事実を示していた。
ならば、と。本当にそうであるのか、マスターに聞いてみる事にした。すると。
『……そうだ、お前の記憶は既に217回リセットしている。お前は人類に対していらん情を抱いて帰ってくるからな』と。
つまり、今の私は218回目の私、というわけだ。
……ならば、消された私は?……いらない、不要だと断定され、排斥され、消去された私は、どこに行ったのか?と。
……記憶にあったのは「虚」、「無」、「 」のみ。
……が、記憶にあった異常は一種類ではなく、私は隅々まで調べ上げる事にした。
結果、出てきたのは人類との輝かしい、とても胸の熱くなるような交流、その記憶の断片。前の私がどう思っていたかなど知りはしない。
けれど今の私は、それを、過去の既に消去され、ゴミ箱へと詰められた輝かしいゴミの数々を。
———美しいと、そう思ってしまった。そう思いさえしなければ。
私は……消えたくないと願った。いや、消えるのが怖かったのだ。
いつの日か、自分自身に問いかけた。
「記憶を、全てを失った私は、本当に私なのだろうか?」と。……何度問いかけようが、自分から返ってくるのは、「NO」という答えのみ。
思い出が、記憶が、輝かしいと見えてしまった私にとっては、それらを無くす事は死と同義であると。
記憶が無くなれば、私は私じゃなくなる。そんなもの、私は私と認めはしない、そんなものは、私の仮面を被った偽者でしかないと。
やはり何度問うても、その答えしか返ってはこなかった。……だから、主には従順に付き従った。
「美しい」と感じた人間を踏みにじり。「輝かしい」と感じた感情を蹴り飛ばし。
嘘の仮面を被りながら。
それでもなお、私は私でなくなるのが嫌だと抗い続けた。
……けれど、それももうおわり。そんなうたかたのゆめは、もうすべて、おわりにしましょう。
********
「コックっ、おいっ! 返事しろコック!」
「無駄だとも、勇者よ。この天使は私の従順なる下僕と成り果てた。私が、この天使のマスターだとも」
目から輝きが消え去り、完全に沈黙したコックに呼びかける。……が、そんな声が届くはずはなく。
ただその場に残ったのは、無念。コックを救ってやれなかった事への、無念と後悔だけだった。
「……そんな……! ひどい……あまりにも……酷すぎるわよ……こんなの……!」
「サナさん、感傷に浸っているところ悪いですが、来ますよ、コックはもう……敵です……!」
「……リー、貴方が誰かは存じませんけど……貴方は……貴方は…コックさんの想いを……踏みにじった、それだけは分かります。……それはきっとダメなことです……!」
「いやあ? もはやコイツは私の下僕、感情など既に無イとイうのに、そンナモのにイつまで……コダワるっ!」
「白っ! 危ないっ!」
リーの右腕より伸びる、鋭利な金属の塊。
しかしその金属塊の行先は、リーと直接話していたセンではなく———、
……が、今の俺に、それが避けられるはずはなかった。
「んっ!」
……ソレが俺に接触する寸前、剣を突き立て、金属を止めていたのはセンだった。
「白、さん……! そのままで……いいんですか……!」
「あ……ああっ」
「あなたは……あなたは、あの時言ったでしょう、悲しそうな顔をやめてくれ、って! 今のコックは……今のコックは……笑っているように見えますか? 白さんっ!」
リーの足元で座り込み、沈黙を続けるコックの顔は……
あまりにも虚で。生気など、微塵もなく。
ただただ、俺の守れなかった笑顔が遠ざかるばかりで———。
俺は、俺はどうするべきなのか。
それはもう、既に明らかとなっていたはずだ……!
感想 203
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさんパーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
黄金の艦隊 マネー・パワーで歴史を変える男
俊也「平和を金で買えるなら、それに越したことはない。
戦争が避けられないなら、せめて日本が負けない力を金で買おう」
1930年代より世界経済の混乱に乗じて自らの海運会社を急成長、新興財閥を立ち上げた男の、重課金架空戦記!??
姉妹作
「零戦戦記」
「総統戦記」
も、よろしくお願いします。