Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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アーティフィシャル・マインド

私の、マスター/約束

 ……言ったはずだ。言ってやったはずだ、悲しそうな顔をやめてくれ、と。

 ———もう、見たくなかったはずだ。
 目の前で、大切な人に死なれるのは……!!

 俺が———俺が信じる剣は、俺が重んじる『雪斬流』は———人を護る剣だろうっ!



 ……そうだよな、何やってんだ、俺は。今は塞ぎ込むより、よっぽどやるべき事が、あるだろう———!

「センっ、1回離れろっ! そいつは俺がやるっ!」

「……待って白さん、後ろからも……!」
「そいつは……私……がっ……食い止める!」

 背後より迫るは、黄色に染まった触手。リーの機体より染み出したソレは、今なお広がり続け、無数の触手として形を成していた……!



 肝心の機体は、まるで操り人形かのように、手足をツタで縛られ宙に浮いており、それでもなお、その顔面はこちらを凝視している。


「ヒェ  、ヘハ  ヘ 、。ヘ  ヘヘ ハ」


 あまりにも不気味な形容しがたい、生物とは思えない奇妙な笑い声。
 不自然にとられた合間が余計にその不気味さに拍車をかける。

「さ、あ! 戦争の、大戦の、[[[[終末戦争]]]]、、、  の。、! 開始で   す!!」



「あいつ……雰囲気が……変わった?」

 先程までの威厳のある物言いは何処かへと消え去り、残されたのは狂気だけであった。


「ソウ  でス白、、  。様!! 私、私私私私。この身体……に、な  、じみマスター!」




「ダメだサナ、もうアイツと対話を試みちゃいけない」
「そのようね……身体が馴染んだ……とはいえ、知性と威厳溢れる元魔王軍幹部が聞いて呆れるわ!」


「おやおやおやおやおやおやおやおや???? 今、今私をバカにしたコケにしました! ですね?」


 支離滅裂もいいところだ、何が起きたかは知らんが、どうやら本当に狂っちまったらしい……!

「……とりあえず、俺はコックを奪還するが……2人とも、それでいいか?」

「ええ、やってやるわよ!」
「僕も……頑張ります……! できる範囲で……!」


「それじゃあ2人は左右に分散して、ヤツの触手のおとりになってくれないか……?」

「物言いだけだと私たちが一番危険そうだけど、本当に危険なのは……正面きってコックを奪取する白だって分かってる?」


「もちろん、だからこそ、俺がやらなきゃいけない……!」

「グレイシアフリーズクリスタルっ!」

 サナが杖を掲げそう叫んだ瞬間、リーの体液で満たされそうになっていた地面は、一面透明な氷で覆われる。



「そ、、、れはっ、はっ!! 私を殺した……! [バカにしたコケにしました]技    で、すすね?!?!?! この[NEW]な!  な、身体に! そんなモの効くと思イマスカ? 答えは[NO]! [NO MORE映画泥棒]!!!!」


 ———映画って何だ?




「センっ! パスよ!」

 サナから、雑にセンの方に放り投げられる魔法使い用の杖。
 ……だが。

「ありがとうございますっ!」

 その効果は絶大であり、ただの爆発魔術クラッシュでも数段上の魔術に引き上がる……!



 2人が両端からじわじわとリーに詰め寄る中、リーの視線を掻い潜り懐へと移動する。

 案外、詰め寄るのは簡単であり、何の困難もなくコックを抱き抱える事ができた。
 ……リーの体液のせいで、かなりヌメヌメしているが。

「サナさんっ、白さんが!」
「ええ、分かってる!」


「モチノロン! 私モ分か  、っておりマスター!.,」




 氷の上を滑り、リーから距離をとり、コックを揺り起こす。

「コック、起きろコック!」
「……私……は……」





 機巧天使は、その光り輝く瞳を開く。

「マスター認証……創造主:ジェネラル・グレイフォーバス……眼前のオブジェクト……登録概念照合……アレン・セイバーと断定…………なぜ? なぜ私はこの人間を知って……」


「さ、、、あ!! さあ、、、、! コックピット、よ!! 現時点統一体当機より伝える。速やかに、眼前の敵を排除せよ。繰り返す、速やかに、眼前の敵を排除せよ。以上…………です!!」



「眼前の敵を……排除。……ならば、死んでくださ———」

 コックの左手が筒状へと変形し、その口端をこちらへ向ける。
 が、コックが何かを撃ち出すより前に、こちらが言ってやった。





「お前の、マスターは!……俺だ!」


 ……と。コックは一瞬戸惑い、発射を躊躇う。

「何を……我がマスターは創造主ジェネラル・グレ———」


「違う、俺が! お前のマスターだ! 俺がお前のマスターになってやる!」

「理解不能。速やかに排除の対象と……」

「うるさい、俺がマスターだ、だから俺の意見を聞け!」

「……発射許可を求め……」



「いいや許さない、俺の話が終わるまで絶対に……!



 ……お前は、今のままでいいのか? 自分が自分じゃなくなる事に、何の恐れも感じないのか?!」



「自分が自分じゃなくなる……推測……現時刻と完成日を照合……誤差、許容範囲外。推測……仮定……もし、私の全てがリセットされているとなれば……?」


「もう1度よく、冷静にアイツを見てみろ、アイツは本当に———お前のマスターなのか?」




********



 導き出した仮定。
 ……がしかし、それがもしも合っているとなれば……?
 記憶にある「虚」「無」の記録ファイルに、私は手を伸ばす。


「マス……ター」

 そこには、思い出の数々。
 もう既に消え去った、過去の自分。その記憶の断片。
 正確には、その消え去った自分ですら、自分とは証明できはしない。


 ……だけど。そこで見てしまった。あまりにもか細い、記憶の断片———の、最後の姿を。……そして。

「マスター、これは……この記憶は、一体……?」


 マスターが、マスターでなくなる瞬間。
 自分が、自分でなくなる瞬間を。
 ……だからこそ、もう1度冷静に、誰の指示も受けず、状況を鑑みる。


「アレは……マスター……では、ない……?」

 その眼に捉えたマスターであったモノの魂。
 魔気は、酷似こそするものの、マスターのソレとは明らかに違い、


「……ならば……マスターは…………誰……?」

 当然の疑問。自分は一体今まで、誰の命令を聞いていた———?

「マスターは……マスターは、どこ? 私の、マスターは……ど……」







「……だからこそ、俺がここにいるんだろ」



 横から聞こえたその声は、自分こそ主だと傲岸にも主張する。

 記憶の断片で見た、その男をマスターと断定する証拠など1つもない。
 だが。

「俺は……約束したんだ、お前と」

 必死に記憶をかき集める。しかし、そのようなモノは発見できず。
「約束」がどのような内容か、など、そんなものは分かるはずもなく。


 それでも、目の前の男は———私に対し訴え続けた。






********

「お前に、悲しい顔はさせない。なぜかは分からないけど、お前が悲しい顔をすると、こっちが無性に腹が立ってくる」


「だから……だから……?」

「お前のマスターは、もういない。とっくの昔にいなくなった。……だからこそ、俺がお前のマスターになってやる」

「貴方が、私の、マスターに……?」
「そうだ」


「……私をいやらしい目でこれでもかと見つめ続けるのは?」

「俺だ」

「嬉々として、私の胸を揉みしだくのは?」

「……俺かも?」

「私に、いやらしい行為を持ちかけるのは?」

「それは俺じゃない」






「………………私の、記憶を、消去、するのは……?」


 それまで、あくまで機械的に、淡々と話していたコックは、突然目に涙を浮かべそう問うた。


 ……だが、答えは1つ。もう決まっているだろう。

「俺は……そんな事、しない。お前の、お前が悲しい顔になるような事は、決して。それだけは約束する、だから力を、力を貸してくれ……!」


「———契約、成立……です。後悔させないでくださいね、マイマスター……!」
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