53 / 256
C・C・C(カーネイジ・クライシス・クラッシャー)
襲来
しおりを挟む
「お前……あの時の……」
「………………そう。一度は貴様と、殺しあったことのある女。名はレイ。レイ・ゲッタルグルト」
殺しあったことのある、か。
「……2年ぶりだ、その再会を祝いたいところだが……今は王への謁見中だ、その刀を下げてくれ。
王の騎士として、私情を持ち込むのは違うだろう?」
あの女は……いやレイは、その言葉を聞いた瞬間刀を下げ、王の膝下にて跪く。
「無礼をお詫びする、勇者よ」
……なるほど、人界王にもそんなことが言えたのか。
あのようなことをしておいて。
……まあ、冤罪ではないのだが。
「人王陛下よ。用件は……」
「ああ、既に報酬は用意しておる。……先日の未確認鋼鉄物体の依頼での弁償から差し引いた額となるがな。
それでは、パーティ名ワンダー・ショウタイムよ、貴公らの功績を讃え、ここに報酬金を贈呈する!」
「やっぱ恥ずかし~っ! パーティ名言われるの恥ずかし~っ!」
小声で叫ぶと後ろから、
「ほら白、行くのよ! 貴方が! 報酬貰いに、前まで!」
……と、必死そうに叫ぶこのパーティ名の名付け人が1人。
前に踏み出し、報酬を受け取ろうと手を伸ばす。
……すると。
「何だ?!」
上部左右に配置されているステンドグラス24枚が一瞬にして砕けちる。
「護衛はどうした、見張りはどうなった?!」
中に入ってきたのは24人の汚い服を纏った山賊。
……して、真後ろの門から堂々と侵入したのは。
「人界王……そのカネ、俺たちに寄越せ」
赤髪にして、その2本の角が特徴の謎の男だった。
人界王に対して高圧的な態度で接したその男。……まさか、人界軍を敵に回して、勝てると思ってるのか?
「……な、いいだろ? お前ら下等生物には勿体無いじゃねェか、その金よ」
「……マスター、マイマスター、逃走の準備を」
……はい?
コック?
「おい、なんで逃げなきゃ……」
「マスターではあの魔族には勝てません」
「悔しいけど、私も同意見。ヤツが何者か知っていれば、ここは大人しく要求を呑んだ方がいい」
「コックにサナまで……何でお前らそこまで弱気に……」
……と、前方に目をやると、単身でその男に突撃していく兄さんの姿が。
「……なんだァ? この俺とやろうってのかァ?」
「当たり前だ、下等生物などと侮辱され、黙り込むヤツなどいる訳がないだろうっ!」
「この俺に、勝てると思ったか? 『剛鉄襲来』ゥッ!」
男は手を掲げた瞬間、その手にさまざまな鉄製の武器、及び防具が集まり、その手の前にてひしゃげる。
「……白、刀をしっかり持って! 奪われるわよ!」
いち早く声を上げたのはサナ。
……だが一番まずかったのは、サナでもセンでも、ましてや俺でもなく。
「身体……が……引き寄せられ……る?! まさかコレは……神技?!」
身体そのものがおそらく金属でできているからか、コックは唖然とした表情で、引き寄せられる自身の身体に必死に抵抗していた。
「兄さん、危ない! 刀が奪われ———!!」
「もちろん把握済みだ!」
「ここまでは……分かるかな?」
兄さんの頭上より、先程男の手に集められた金属武器の塊が振り下ろされる。
「兄さんマズイっ!」
「王よ、我が王よ、どうか出撃許可をいただきたい」
「……構わん、存分に暴れてこい」
「仰せのままに、マイロード」
1秒後。
閃光が赤のカーペットを駆ける。
「フリーズ」
あの女……レイだ。
レイはその刀を金属の塊に突き刺し、その金属塊を内部より凍結させる。
「腕が……動か、ねェ……!」
「あの時の借り、100倍にして返すっ!」
「兄さん! とりあえずここはアイツに任せて、俺たちは逃げ……」
「……チッ……カンに障るぜ……この俺様が退くことになるとは……!」
……すると、王に跪いていたもう1人の女騎士が声を上げる。
「裏口から王を逃せ! 魔術師部隊、王を援護せよ! それと王都全体に連絡しろ! 国家非常事態だと!」
「しっしかしライ様、それでは士気が下がるのでは……」
1人の兵士が質問するが、そんな質問をもその覇気の前には掻き消える。
「これは戦争ではない、民間人も巻き込まれる可能性がある! 今すぐ直ちに放送で連絡しろ!」
「……だってさ、俺たちはどうする?」
「そもそも、セン君や白はアイツが誰か分かってる訳?」
「……いや、全く知りませんけど……」
サナは肩の力を抜くようにため息をつき、次の瞬間、敵の正体を言ってみせた。
「アイツは……壊し屋集団カーネイジ、その元締め、クラッシャー。ヤツが前王都を破壊した、張本人……!」
恐ろしい名前が、口にされた。
「……もちろん私だけじゃ勝てなかった。……でも、ここまで来たら、私たち全員でやるしかないわね……あの女にずっと粘ってもらう訳にはいかないし」
「僕は何か……できますかね……?」
「いいえ、セン君はここに残るか、王と一緒に裏門から避難して。とてもじゃないけど、ヤツには敵いっこないし、多分貴方が行っても……」
「足手まとい、ですね。……だったら、お言葉に甘えて……」
「っ……コイツ……強い……っ!」
その頃、レイはクラッシャーと対峙していた。
「その程度か?」
レイがその刀で捌くは、金属の塊を身につけ肥大化した右腕から繰り出される拳。
その姿はかつての、魔族の力に縋り溺れたレイ自身に酷似していた。
「……私が言うのもなんだけど……アンタ、とっても醜いわよ……!」
「下等生物に言われるたァ、この俺も舐められたもんだ!」
次の瞬間、クラッシャーはワザと地面にその拳を叩きつける。
辺りが砂埃で覆われ、視界が遮られる。
「しまっ……があっ?!」
その右腕部は、レイの腰部を直撃する。
「…………ぐ…………っ……!」
そのままレイは頭から地面に倒れ込み、未だ立てない状態にあった。
「終わりだな、何とも芸のない、つまらんヤツだ。あの時の女魔術師の方がよっぽど……っ?!」
「よっぽど、何ですって?」
その時、クラッシャーは自身の肉体が氷で覆われ始めていることに気づく。
「……やっぱりその手は使ってきたか、くだらない、俺の前でメテオでも出してみるかァ?」
「いいえ、貴方に差し出すのは死、という結果のみよ」
氷晶は砕けちる。しかしその眼前には、既に氷の魔女が迫っており。
「エクスプロージョンッ!」
無慈悲にも繰り出された人類最強の攻撃手段によって、その身体は閃光に消えていった。
……と思っていた。
「……レイ! レイちゃん立って!……ヤツはまだ生きてるからぁっ!」
敵に対し爆裂魔法を浴びせたサナは、さりげなくあの女のことをちゃん付けで呼んでいるが、今はそんな事気にしてる場合ではない。
「た……立てない、力が、入らな……」
「っああもう、イデア! コイツ担いで運んでって!」
「隙アリ……だぜッ!」
背後より忍び寄る鋼鉄の影。
「……させるかよっ!」
すかさず俺が前に出る。
肥大化した、クラッシャーのその右腕部を、愛刀『神威』にて斬り落とす。
「ナイスよ白!」
「なんだよ、またガキ………ほお、なるほどなるほどなるほど? まさかまさか、『鍵』のご登場だなんてナァ!」
「……うるせえ、その首ここで置いていけっ!」
すかさず刀をクラッシャーの首に持ってくる。が、その刀はクラッシャーの左手にあった剣によって防がれる。
すぐに後退、距離を取り、次の作戦を考える。
……と。
「……おっと、俺たちのカネはもう既に奪取できたようだなァ、俺もここらでお暇させてもらうぜ」
「待て、逃げるつもりか?!」
「今日は破壊行為が目的じゃねェしな、ただ、次に来た時は、この王都全てを破壊する。俺たちは、壊し屋カーネイジだからなァ!」
「だから待てって言って……」
……既に、クラッシャーはその姿を消していた。
「…………チッ、……大丈夫かサナ? ケガは……な———」
「ええ大丈夫よ……って白どうしたの、急にそんな呆然として……」
「コックが……いない」
「……えっ?」
「だから、コックがどこにも……いないんだ、俺は特に指示をしていないし、アイツがどっかに行くわけ……」
「大丈夫よ、ほっといたらすぐに戻ってくるでしょ、アイツ私以上のトンデモ魔法使い(かは分からないけど)なんだから」
「……そういえば……そうだな……まあ、アイツが目覚めたら何するか分かんないもんな、俺も自信持ってアイツが戻ってくるって言えるわ。———ヤツらの基地を壊滅させた後に、だけど」
微笑を浮かべながら、白はあることを考えていた。
とある、コックが戻って来ることが前提条件である作戦を。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その少しばかり後。どこかの場所、カーネイジ拠点において。
コックは囚われの身となっていた。
……そう、なっていた。
既に、その拠点は壊滅させられており。
「あらあ? 下等生物さん、そんなもの———なんですかあ?」
その影には、ひたすら煽りながらクラッシャーとマトモに張り合う「天使」の姿が。
……さながら、「殺戮の天使」と言わざるをえないのだが。
「機巧天使もっ……そんなもんかァ!」
……いや、そのクラッシャーが機巧天使相手に張り合えているのが素晴らしい健闘なのだ。
機巧天使。腐っても1000年前の殺戮兵器。
多数連結情報共有型個体が例え1機とは言え、その機巧天使がただの魔族にここまで追い詰められることは、本人にとっても得難い経験であった。が為に。
「……っ楽しいっ、久しぶりぃ、久しぶりです! あまりにも! この感覚はぁ!」
身に覚えのない久しい感覚。
『大戦』以来の激しい戦闘に、当の本人は「最終兵器」を繰り出そうとしていた。
「天殺撃……使うしか……っ!」
「ならば俺も、アレを使おうじゃねえか!」
互いに切り札を切ろうとする。が、コックの方がより早く切らねばならなかった。
なぜならば、クラッシャーに対する彼女の相性は正に最悪であった。
クラッシャー、その神技、それは『金属を操る能力』。
……と言っても鉄分などを操作できる訳ではなく、ある程度大きな塊、剣くらいの鉄の塊でなければ操ることはできない。
……だが、全身を金属の塊として構成されたコック———機巧天使にとっては、その能力ですら最大級の脅威に匹敵する。
「『剛鉄襲来』っ!」
クラッシャーは左腕を掲げる。
破壊された拠点の残骸と共に、コックの身体が引き寄せられる。
……だが。
「ならば……ここで……っ!」
逆にコックはその神技発動のスキを伺い、クラッシャーに急接近する。
「天殺撃……0距離で……ぇっ!」
コックの狙いは、機巧天使最大にして最強の技、身体中の神力、魔力器官ともにフル稼働させ、そのエネルギーを一気に放出する、『天殺撃』。
シンプルかつ火力重視の切り札。
一度でも使用すれば、標高1000mの山など一瞬にして砕け、溶け散る。
殲滅を目的とした機巧天使、その神の域に達する技を察知したクラッシャーは血の気が奮い立ち、細胞の奥底より聞こえる警告を無視することはなかった。
「……さすがに……コイツは……!」
クラッシャーは集めた金属を胸の一点に集中させ、その衝撃を極限まで抑える。
……だが、山をも砕く天の一撃は、そんな付け焼き刃の防御兵装では簡単に防げるはずもなく。
互いに吹き飛び、その声すら聞こえなくなるほど遠くへ。
機巧天使の浮遊機能を用いてなお緩和することの叶わないその爆風は、末端とは言えども王都にまで届き、その衝撃はまさに地を揺るがした。
「………………そう。一度は貴様と、殺しあったことのある女。名はレイ。レイ・ゲッタルグルト」
殺しあったことのある、か。
「……2年ぶりだ、その再会を祝いたいところだが……今は王への謁見中だ、その刀を下げてくれ。
王の騎士として、私情を持ち込むのは違うだろう?」
あの女は……いやレイは、その言葉を聞いた瞬間刀を下げ、王の膝下にて跪く。
「無礼をお詫びする、勇者よ」
……なるほど、人界王にもそんなことが言えたのか。
あのようなことをしておいて。
……まあ、冤罪ではないのだが。
「人王陛下よ。用件は……」
「ああ、既に報酬は用意しておる。……先日の未確認鋼鉄物体の依頼での弁償から差し引いた額となるがな。
それでは、パーティ名ワンダー・ショウタイムよ、貴公らの功績を讃え、ここに報酬金を贈呈する!」
「やっぱ恥ずかし~っ! パーティ名言われるの恥ずかし~っ!」
小声で叫ぶと後ろから、
「ほら白、行くのよ! 貴方が! 報酬貰いに、前まで!」
……と、必死そうに叫ぶこのパーティ名の名付け人が1人。
前に踏み出し、報酬を受け取ろうと手を伸ばす。
……すると。
「何だ?!」
上部左右に配置されているステンドグラス24枚が一瞬にして砕けちる。
「護衛はどうした、見張りはどうなった?!」
中に入ってきたのは24人の汚い服を纏った山賊。
……して、真後ろの門から堂々と侵入したのは。
「人界王……そのカネ、俺たちに寄越せ」
赤髪にして、その2本の角が特徴の謎の男だった。
人界王に対して高圧的な態度で接したその男。……まさか、人界軍を敵に回して、勝てると思ってるのか?
「……な、いいだろ? お前ら下等生物には勿体無いじゃねェか、その金よ」
「……マスター、マイマスター、逃走の準備を」
……はい?
コック?
「おい、なんで逃げなきゃ……」
「マスターではあの魔族には勝てません」
「悔しいけど、私も同意見。ヤツが何者か知っていれば、ここは大人しく要求を呑んだ方がいい」
「コックにサナまで……何でお前らそこまで弱気に……」
……と、前方に目をやると、単身でその男に突撃していく兄さんの姿が。
「……なんだァ? この俺とやろうってのかァ?」
「当たり前だ、下等生物などと侮辱され、黙り込むヤツなどいる訳がないだろうっ!」
「この俺に、勝てると思ったか? 『剛鉄襲来』ゥッ!」
男は手を掲げた瞬間、その手にさまざまな鉄製の武器、及び防具が集まり、その手の前にてひしゃげる。
「……白、刀をしっかり持って! 奪われるわよ!」
いち早く声を上げたのはサナ。
……だが一番まずかったのは、サナでもセンでも、ましてや俺でもなく。
「身体……が……引き寄せられ……る?! まさかコレは……神技?!」
身体そのものがおそらく金属でできているからか、コックは唖然とした表情で、引き寄せられる自身の身体に必死に抵抗していた。
「兄さん、危ない! 刀が奪われ———!!」
「もちろん把握済みだ!」
「ここまでは……分かるかな?」
兄さんの頭上より、先程男の手に集められた金属武器の塊が振り下ろされる。
「兄さんマズイっ!」
「王よ、我が王よ、どうか出撃許可をいただきたい」
「……構わん、存分に暴れてこい」
「仰せのままに、マイロード」
1秒後。
閃光が赤のカーペットを駆ける。
「フリーズ」
あの女……レイだ。
レイはその刀を金属の塊に突き刺し、その金属塊を内部より凍結させる。
「腕が……動か、ねェ……!」
「あの時の借り、100倍にして返すっ!」
「兄さん! とりあえずここはアイツに任せて、俺たちは逃げ……」
「……チッ……カンに障るぜ……この俺様が退くことになるとは……!」
……すると、王に跪いていたもう1人の女騎士が声を上げる。
「裏口から王を逃せ! 魔術師部隊、王を援護せよ! それと王都全体に連絡しろ! 国家非常事態だと!」
「しっしかしライ様、それでは士気が下がるのでは……」
1人の兵士が質問するが、そんな質問をもその覇気の前には掻き消える。
「これは戦争ではない、民間人も巻き込まれる可能性がある! 今すぐ直ちに放送で連絡しろ!」
「……だってさ、俺たちはどうする?」
「そもそも、セン君や白はアイツが誰か分かってる訳?」
「……いや、全く知りませんけど……」
サナは肩の力を抜くようにため息をつき、次の瞬間、敵の正体を言ってみせた。
「アイツは……壊し屋集団カーネイジ、その元締め、クラッシャー。ヤツが前王都を破壊した、張本人……!」
恐ろしい名前が、口にされた。
「……もちろん私だけじゃ勝てなかった。……でも、ここまで来たら、私たち全員でやるしかないわね……あの女にずっと粘ってもらう訳にはいかないし」
「僕は何か……できますかね……?」
「いいえ、セン君はここに残るか、王と一緒に裏門から避難して。とてもじゃないけど、ヤツには敵いっこないし、多分貴方が行っても……」
「足手まとい、ですね。……だったら、お言葉に甘えて……」
「っ……コイツ……強い……っ!」
その頃、レイはクラッシャーと対峙していた。
「その程度か?」
レイがその刀で捌くは、金属の塊を身につけ肥大化した右腕から繰り出される拳。
その姿はかつての、魔族の力に縋り溺れたレイ自身に酷似していた。
「……私が言うのもなんだけど……アンタ、とっても醜いわよ……!」
「下等生物に言われるたァ、この俺も舐められたもんだ!」
次の瞬間、クラッシャーはワザと地面にその拳を叩きつける。
辺りが砂埃で覆われ、視界が遮られる。
「しまっ……があっ?!」
その右腕部は、レイの腰部を直撃する。
「…………ぐ…………っ……!」
そのままレイは頭から地面に倒れ込み、未だ立てない状態にあった。
「終わりだな、何とも芸のない、つまらんヤツだ。あの時の女魔術師の方がよっぽど……っ?!」
「よっぽど、何ですって?」
その時、クラッシャーは自身の肉体が氷で覆われ始めていることに気づく。
「……やっぱりその手は使ってきたか、くだらない、俺の前でメテオでも出してみるかァ?」
「いいえ、貴方に差し出すのは死、という結果のみよ」
氷晶は砕けちる。しかしその眼前には、既に氷の魔女が迫っており。
「エクスプロージョンッ!」
無慈悲にも繰り出された人類最強の攻撃手段によって、その身体は閃光に消えていった。
……と思っていた。
「……レイ! レイちゃん立って!……ヤツはまだ生きてるからぁっ!」
敵に対し爆裂魔法を浴びせたサナは、さりげなくあの女のことをちゃん付けで呼んでいるが、今はそんな事気にしてる場合ではない。
「た……立てない、力が、入らな……」
「っああもう、イデア! コイツ担いで運んでって!」
「隙アリ……だぜッ!」
背後より忍び寄る鋼鉄の影。
「……させるかよっ!」
すかさず俺が前に出る。
肥大化した、クラッシャーのその右腕部を、愛刀『神威』にて斬り落とす。
「ナイスよ白!」
「なんだよ、またガキ………ほお、なるほどなるほどなるほど? まさかまさか、『鍵』のご登場だなんてナァ!」
「……うるせえ、その首ここで置いていけっ!」
すかさず刀をクラッシャーの首に持ってくる。が、その刀はクラッシャーの左手にあった剣によって防がれる。
すぐに後退、距離を取り、次の作戦を考える。
……と。
「……おっと、俺たちのカネはもう既に奪取できたようだなァ、俺もここらでお暇させてもらうぜ」
「待て、逃げるつもりか?!」
「今日は破壊行為が目的じゃねェしな、ただ、次に来た時は、この王都全てを破壊する。俺たちは、壊し屋カーネイジだからなァ!」
「だから待てって言って……」
……既に、クラッシャーはその姿を消していた。
「…………チッ、……大丈夫かサナ? ケガは……な———」
「ええ大丈夫よ……って白どうしたの、急にそんな呆然として……」
「コックが……いない」
「……えっ?」
「だから、コックがどこにも……いないんだ、俺は特に指示をしていないし、アイツがどっかに行くわけ……」
「大丈夫よ、ほっといたらすぐに戻ってくるでしょ、アイツ私以上のトンデモ魔法使い(かは分からないけど)なんだから」
「……そういえば……そうだな……まあ、アイツが目覚めたら何するか分かんないもんな、俺も自信持ってアイツが戻ってくるって言えるわ。———ヤツらの基地を壊滅させた後に、だけど」
微笑を浮かべながら、白はあることを考えていた。
とある、コックが戻って来ることが前提条件である作戦を。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その少しばかり後。どこかの場所、カーネイジ拠点において。
コックは囚われの身となっていた。
……そう、なっていた。
既に、その拠点は壊滅させられており。
「あらあ? 下等生物さん、そんなもの———なんですかあ?」
その影には、ひたすら煽りながらクラッシャーとマトモに張り合う「天使」の姿が。
……さながら、「殺戮の天使」と言わざるをえないのだが。
「機巧天使もっ……そんなもんかァ!」
……いや、そのクラッシャーが機巧天使相手に張り合えているのが素晴らしい健闘なのだ。
機巧天使。腐っても1000年前の殺戮兵器。
多数連結情報共有型個体が例え1機とは言え、その機巧天使がただの魔族にここまで追い詰められることは、本人にとっても得難い経験であった。が為に。
「……っ楽しいっ、久しぶりぃ、久しぶりです! あまりにも! この感覚はぁ!」
身に覚えのない久しい感覚。
『大戦』以来の激しい戦闘に、当の本人は「最終兵器」を繰り出そうとしていた。
「天殺撃……使うしか……っ!」
「ならば俺も、アレを使おうじゃねえか!」
互いに切り札を切ろうとする。が、コックの方がより早く切らねばならなかった。
なぜならば、クラッシャーに対する彼女の相性は正に最悪であった。
クラッシャー、その神技、それは『金属を操る能力』。
……と言っても鉄分などを操作できる訳ではなく、ある程度大きな塊、剣くらいの鉄の塊でなければ操ることはできない。
……だが、全身を金属の塊として構成されたコック———機巧天使にとっては、その能力ですら最大級の脅威に匹敵する。
「『剛鉄襲来』っ!」
クラッシャーは左腕を掲げる。
破壊された拠点の残骸と共に、コックの身体が引き寄せられる。
……だが。
「ならば……ここで……っ!」
逆にコックはその神技発動のスキを伺い、クラッシャーに急接近する。
「天殺撃……0距離で……ぇっ!」
コックの狙いは、機巧天使最大にして最強の技、身体中の神力、魔力器官ともにフル稼働させ、そのエネルギーを一気に放出する、『天殺撃』。
シンプルかつ火力重視の切り札。
一度でも使用すれば、標高1000mの山など一瞬にして砕け、溶け散る。
殲滅を目的とした機巧天使、その神の域に達する技を察知したクラッシャーは血の気が奮い立ち、細胞の奥底より聞こえる警告を無視することはなかった。
「……さすがに……コイツは……!」
クラッシャーは集めた金属を胸の一点に集中させ、その衝撃を極限まで抑える。
……だが、山をも砕く天の一撃は、そんな付け焼き刃の防御兵装では簡単に防げるはずもなく。
互いに吹き飛び、その声すら聞こえなくなるほど遠くへ。
機巧天使の浮遊機能を用いてなお緩和することの叶わないその爆風は、末端とは言えども王都にまで届き、その衝撃はまさに地を揺るがした。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる