Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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C・C・C(カーネイジ・クライシス・クラッシャー)

惨めな葛藤

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◆◇◆◇◆◇◆◇


「伝令、伝令ーーーっ! 至急、都民は各自シェルターへと避難するように!!」

 賑やかだった街に響いたのは、緊急用の放送回線。
 それは、センが王都を出て行って4日後の出来事だった。

「白、戦闘準備はできてる? いよいよボスのお出ましよ!」
「……もちろんだ、王がどこにいるかは分からないけど、とりあえず守り通せばいいんだろ、この国を!」



 それは、過去の出来事とは真逆の展開だった。
 1度は国を壊滅させかけた俺が。
 1度この国に攻め入り、王にその刃を向けたこの俺が。
 …………あろう事か、この国を守ることになるとは思いもしなかった。



 城壁の上へと登り込む。
 見えたのは、それこそ「あの時」、二千人もの兵が攻めてきた時と全く同じ状況が広がっていた。
 ……いいや。全く同じではない。



 今は、頼れる仲間がいる。
 協力できる、パーティがいる。
 最高峰の魔法使いが。
 俺を凌ぐ剣士が。
 忠義を尽くす天使が。

 ……そして、冗談抜きに殺し合った女が。
 万全ならば、全員で黒騎士とも渡り合える魔導大隊が。



 ……だからこそ、やるしかない。
 ここで、殺し合いが起きる。
 それこそ、全てを巻き込んだ戦争が。




「……メタル・クライシスッ!」

 空気を裂くような叫び声が、王都一体に響き渡る。

「……神力式遮断結界、展開。マスター、この規模なら5時間は展開できるかと」

「ありがとうコック、とりあえず待機……でいいかな、下手に魔力とかを使うと困るからな……」





「……アレン、今すぐコックに『天撃』の使用を命令しろ」

 ……何だと?



 発言をしたのは———イデアだった。

「……殺すのか、殺すつもりなのか、まだ何もしていな……」

「ああ、殺す。やられてからやるつもりか? そんな悠長なことが言ってられるのか?」

「私も同感。そもそも、今更貴方がそんな事を言える立場なのか、人斬り?」

 その会話に、レイも割って入る。
 ……そうだ、その通りだ。今まで何の罪もない人を斬り伏せてきた、それでも……


「くだらん慈悲は捨てろ。なぜ今になって躊躇う。あれだけ、あれだけ私の家族も何もかも斬り殺してみせた貴方が!」

「…………じゃあ殺すのか不意打ちで! 一瞬で! 罪もな…………あ」

「罪? 罪ならばあるはず、今までアイツらが何度王都から奪ってきたと思ってるの?! 

 アイツらは、私が従えてたただの兵じゃない、明確な悪人、明確な罪人!

 貴方はそうではないとはいえ、私も今ここで貴方を斬り殺したいくらいだってのに、何なのよ貴方は、くだらない事で躊躇うなんて!」

 レイのその熱弁に、ハッとさせられる。

 ……それは、とてもひどい事だった。
 俺がやった事に比べれば、まだ優しいものだが。

 ……だけど、なぜか、やはりそれは、どこかいけないような事な……気がして。
 本当に、俺の言える事ではないけど、それでもそんな、たった一言で殺す……なんてのは、あまりにも……


「やって」

 ……サナの、声だ。

「早く、やって、言って、白! 罪のない人が、何もない人が死ぬ前に!」

 無情な決断。
 だが、サナの中にあった「夢」が、サナの心を突き動かした。

「…………天撃……使用……許可す……」


 瞬間、城壁が大きく揺らぐ。

「……マスター、天撃使用中断! 魔力障壁を展開中です、指示を!」




「衝撃に備えろっ!」
「城壁の破片が飛んでくるぞ!」
「鉄が……鉄がこっちに……あああああっ!!」





「……何、が、何が起きて、るんだ……一体何が……」

 すぐ横にて、鉄の針に激突し、力無く倒れていく、勇者たちが見えた。



 張り裂けんばかりの心には、その血が、まるでナイフのように見えて———、

「人斬り、人斬りいっ、貴様あっ!」

「ちょっとレイちゃん、落ち着いて! 敵が目の前にいるからっ!」

「落ち着いてって、ふざけるな! 貴様が、貴様がアイツらを殺したんだ! また罪のない人を! 私は、私は貴様を……貴方を信じて……信じた……のに……!」



 ……過失、だった。
 別に、殺したかった訳じゃない。ただ遅すぎて、結果がこうなってしまっただけだ。

 ……それでも、結果的にでも、また殺してしまった。
 また、まただ、またなんだ……!
 結局俺は変わっちゃいなかった、結局殺した、結局殺したんだ、俺は結局……!!



「……白。……責任を、取れとは言わない。これは私が、渋らずに爆裂魔法でも放っていれば済んだ話……だから。

 ……でもね白、もう次はない。もう躊躇う事は、私が許さない……! 絶対に。貴方が次に迷うってなら、私は問答無用で……貴方を殺すわ…………!」

 サナにしては珍しい、突き刺すような、鋭い視線。
 絶対に許さない、という強い怒りを胸な秘めながらも、まるで覚悟を決めた兵士のような、そんな目だった。


「もう絶対に、迷わないで。生きると決めたなら。贖罪を果たすと言うのなら、絶対に、絶対に。

 ……これは約束。私と白の約束。だから絶対に、破らないで。破ったのなら、本当に私は……貴方を、殺す」





 また、また呑まれそうになった。
 眼前、直下には敵。
 無数の敵、敵、敵。
 ここは戦場。殺すか殺されるか、どちらかの世界。

 この世界において弱者、つまるところ非武装兵などはおらず、慈悲など、かける必要はなかった。

 ……しかし、俺はやってしまった。
 前の、アレ。二千兵戦争のせいで。人を殺すこと自体を、躊躇ってしまった。迷ってしまったんだ。
 もう、誰かを、そんな容易に殺すことを躊躇ってたんだ。



 ……でも。

「覚悟は……決まった……? 貴方は、貴方は戦うの?……戦わないというのなら、今すぐにこの場から立ち去って」


 ……でも、グズグズしてるから、人が死んだ。

 俺が、柄にもなく、グズグズしてるせいで。

 何も悪くない人が。罪のない人が。まだ生きれるはずだった人が。

 迷ってた。今まで、迷ってたんだ。
 急にこんなこと言い出して。馬鹿じゃないのか。




 ……でも、ありがとう、サナ。
 お前のその言葉のお陰で、俺はまた…………



「そうか、俺は……勇者だった……」







「魔力障壁、突破されました! マスター、攻撃に備えてく……マスター?」

「嘘でしょこんな時に! レイちゃん、鉄の破片がめっちゃ飛んでくる、サポート!」

「言われなくともぉっ!」

 レイはその刀で、1つ1つ、猛スピードで飛行する鉄の塊を斬り捨てる。

 ……だが、やはり1人では限界がある訳で。
「レイちゃん、危ないっ!」

 どうしても捌ききれず。


 ———最中。
 鋼鉄が打ち跳ねる。








「……覚悟、決めたよ。俺は弱かった。……だから戦う。もう2度と、立ち止まりはしない」

 

 もう一度———戦う覚悟を。





「……俺はクラッシャーからやる。手っ取り早く、犠牲が増える前に、この手で殺す……!」

「サポートはできないわよ」

「構わない。もう俺は、弱いままじゃいけないから」










「……行っちゃった、白」

「どこまでも気に入らないヤツよね、ホント……!」

「フフ、でも今はそんな事、言ってる場合じゃないわよ。……魔導大隊、魔術大投射準備! 前面の敵を、全て焼き払う!」

「…………それに、貴方も変わった。2年前、人斬りに泣きついてた頃とは、顔つきも何もかもが」

「そりゃあ臨時でも魔導大隊指揮者ですし? 当然……でしょっ!」
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