文字の大きさ
大
中
小
84 / 256
断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
それが必然だと言うのなら
そして、白たちは。
◇◆◇◆◇◆◇◆
———2日目。
俺たち一行は、未だ黒の家にて食糧を食い漁っていた。
ただ。
『このエリアは、明日には禁止ゾーンとなっています。速やかに立ち去ってください』
……と、皆の鎧から聞こえてきたがために、俺たちは移動を余儀なくされた。
黒は未だ帰らず。
それゆえに、黒の家に置いてあった食糧はできる限り持っていくこととなった。黒に次会った時は謝っておくべきだろう。
「んあ……」
大会中———だと言うのに、呑気に俺たち5人は寝てしまっていた。
ツリーハウスの木の上から、俺たちを照らす陽の光が差し込む。同時に、その光に当たった者から順に目を覚ましていく。
「ぁ……ふぁぁあ……」
凝り固まった身体を伸ばしきる。
そしてゆっくりと瞼を開く。睡眠中の幸せな時間は終わりを告げ、俺の目の前には———人?
「おはよう、人斬りさん」
———人斬り……?
「あ、おお、おはよ…………うっ?!」
まさかの接敵。
……というよりも、必然の接敵と言わざるを得なかったが。
「っ、神威!」
すぐさま右腕を伸ばし、その手に神威を戻す。
「まーったく、どんだけ腑抜けてんだ……かっ!」
眼前で振られた刀を、こちらの神威で弾きながら後退する。
未だに揺れ動き、まともに開いてくれない瞼。
うっすらながらも見えたその姿———もはやコイツが誰かなんて、今の俺にとっては容易に想像がついた。
「なーんで、お前みたいなやつとここで会っちゃうかなあ……」
……そう、先程までに俺が寝ていた所の上に立ち尽くしていたのは、かつて俺と殺し合った因縁の相手にして———今となっては人界王直属の騎士でもある女、レイ・ゲッタルグルトだった。
だからこそ、コイツは俺が倒さなければならなくて。
だからこそ、俺はヤツが斬るべき敵なのだろう。
「リベンジマッチか……隻腕で大丈夫か?」
後退し、家の外に出る。
「たとえ腕が1本無かろうと、貴方と戦うのは造作もないことよっ!」
「そうか、ならいくぜっ!」
「———封印概念、解除っ!」
木で出来たカバーが地面に落ちるとともに、それが開始の合図となった。
響き渡る重く鋭い金属音。
互いの武器は「刀」。
だからこそ、魔術などの飛び道具による戦闘力の誤魔化しも効かず、真っ向から、白兵戦で倒さなければならない。
……だが、それは俺が一番得意としてきたことであり、ならば俺が勝つのは当然であろう。
……じゃあレイは、勝つ為にここに来たのではない?
……そんなことはない。レイであれ俺であれ、確実に勝つ気で来ている。
ならばこそ、やはり「秘策」が存在する訳で。
ただただ刀の打ち合いで終わらせるほど、レイは甘い相手ではなかった……!
「憑依召喚術式解放、黒騎士……!」
……何?
今、コイツは、レイは何を口にした……?
「……ぐぐっ……」
この俺が、打ち合いで、押し負ける……?
いや違う、変わったのか、あっちの剣筋が。
重く、それでいて繊細で鋭い、あの黒騎士のものへと……!
「……はっ、また魔族の力を使おうってか」
「そう……だけど今度は、絶対に呑まれない……!」
「ならばこっちも、本気でやるべきか……背水の陣っ!!」
足を1歩、勢いよく踏み出し地を踏みつける。
溢れ出す覇気。
その威圧は、場の者全てを平伏させる王のようで。
「全開……解放!!!!」
蒼色の可視化された魔気に全身が包まれる。
「白の世界」へと飛び込み、感覚を研ぎ澄ます。
もはや見慣れた光景。既に慣れて使いこなせるようにはなっているが、コイツ相手にどれだけ通用するかだな……!
「当たら……ない……? そんな、一体どうやって……!」
極ノ項、その極地。
ヤツの刀は当たらない。その全ての動きを見切り、何パターンも予測し、一瞬の動きと照らし合わせ予測し続け避け続ける。
レイは困惑し、自身の刀の持ち方などが本当に合っているかを一瞬、目を下にやり確かめる。
……だが、隙を生めば、この俺の前には敗北という結果しかなくなるのだ。
「その隙が、お前の敗因だ」
一瞬、ほんの一瞬だけだったその隙を、俺は見逃さない。
足で踏ん張りをつけ、一瞬にして姿勢を屈め———、
刀の峰を上にし、そうして斬りつける。
『魔力障壁、破損。レイ選手、脱落です』
「……案外……呆気なかったなぁ、アレ、一応切り札のはずだったんだけどなあ……」
「でも、俺ははっきり言って……楽しかった。……こんな事、お前の前で言っていいかは分からないけどな」
かつて文字通りしのぎを削って戦い、殺り合った化け物、それがコイツだ。
あの時は———復讐だの、人斬り白郎だの、さまざまな因縁や執念との戦いだった。
だがしかし今回は違う。
互いの信念も何もかもを投げ捨てた、ただの実力の戦い。
それゆえに出てきた感想が『楽しかった』なのだ。
「……それじゃあ1つ。
お仲間さんの事は、しっかり見ておいた方がいいんじゃない?」
「え、は?!」
そうだった、そういえばツリーハウスにアイツらを置いてきたままだった……!
「あ、ありがとう! それじゃあもう俺行くから……じゃあな!!」
********
「ありがとう」、ね……
かつて殺そうとまでした人に、そんなこと言われるなんて。
負けちゃった、か。
あの時と同じ、全力を振り絞って、負けた。
……でも、怨みや怒りがぶつかり合う戦場よりよっぽど楽しいな、と。そんなものよりよっぽど清々しい戦いだったなと思ってしまった。
……あの男は、私の、私たちの大切なものを奪っていった人斬りなのに。
…………まあ、私も甘かった、って事かな。
*◇*◇*◇*◇
「アイ、に勝てる、と……思う……?」
「くいなさん、こっちも手伝ってくれで……ヤンスよっ!」
「……あれは……サナたちか?!やっべえな、いつの間にあんな敵が……」
ツリーハウスの中には既にサナたちはいなかった。
なぜだ、と思い辺りを捜索し数十分。
ようやく見つけた仲間は、戦いの最中にいた。
「し……白、遅いわよ! 何でそんなに時間かかっちゃうの!……ああもう、鬱陶しい!!」
サナは近づいてくる敵を、魔術師には相応しくないやり方で薙ぎ倒す。
「サナさんは話してて大丈夫ですって、近づいてきたら僕が剣でやりますから……」
「すまん、遅れた!……で、テレポートって使用可能か?」
「転移魔法?! 私をコックか誰かと勘違いしてるんじゃないの?! 使える訳……ないでしょ!」
感想 203
あなたにおすすめの小説
世の中は意外と魔術で何とかなる
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
全魔法が使える私、初級魔法しか使いません
日本で普通の少女として暮らしていた雪城澪華は、ある日突然、見知らぬ草原で十五歳の少女フィナ・アウセリアとして目を覚ました。
そこは、魔法が当たり前に存在する異世界。
しかもフィナには、火、水、風、土、光、闇――あらゆる属性の魔法を使える、規格外の才能が宿っていた。
けれど、長い詠唱も複雑な術式も、難しい魔法名も覚えたくない。
「初級魔法だけで十分じゃない?」
そう考えたフィナが放つのは、どこにでもあるはずの初級魔法。
ほんの少しの火球は、複数の標的を追尾して同時に撃ち抜く。
小さな土壁は、迷宮主の大規模魔法を完全に遮断する。
ただの水魔法は、巨大な魔物を地面へ押さえつけるほど重くなる。
本人は普通に使っているつもりなのに、そのすべてが世界の魔法理論から外れていた。
「それのどこが初級魔法なのよ!」
理論派の少年レオン、眠たげな静寂魔法使いネム、自称一番弟子のリリカ、負けず嫌いな黒級主席エルナ。
仲間たちにツッコまれ、呆れられ、時には崇拝されながら、フィナは魔法学院で新しい生活を始めていく。
しかし、彼女の魔法へ反応する古代施設、黒い紋章を持つ謎の侵入者、そして告げられた「原初魔法」という言葉。
フィナの力は、ただ全属性を使えるだけの才能ではなかった。
最強なのに天然。
規格外なのに無自覚。
世界最強級の少女が、初級魔法だけで魔法学院の常識も、強大な魔物も、古代から続く謎も吹き飛ばしていく。
爽快バトルと仲間たちの掛け合いで描く、最強女性主人公の異世界魔法学院ファンタジー。
『嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います』
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。Sランクモンスターが美少女に擬態して迫ってくる! どうするオッサン!?
『「命の恩人を見つけたから、お前との婚約を破棄する!」――お嬢様を捨てた領主様、その“ミストロンの奇跡”は私ですが?』
「命の恩人を見つけた。だから、お前との婚約を破棄する!」
領主から突然婚約破棄を告げられた令嬢。
彼が新たな婚約者に選んだのは、10年前に魔物の群れから自分を救ったという“ミストロンの奇跡”の女性だった。
だが、その女性は本当に奇跡の英雄なのか。
そして、婚約破棄された令嬢を幼いころから育ててきた地味なメイド・エナメルには、誰も知らない過去があった。
やがて大量の魔物が都市へ襲来したとき、偽物の奇跡と、本当の奇跡の正体が明らかになる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの一作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
恋人より先に、夫婦になった。
少子化対策の一環として創設された、全国唯一の実験校「国立未来共生学園」。
新入生たちは最新AIによって将来、最も幸せな家庭を築ける相手とペアを組み、3年間の模擬夫婦生活を送ることになる。学年トップクラスの優等生・神崎悠真の相手は、全国レベルのスポーツ少女・天海美羽。正反対の二人は衝突を繰り返しながらも、少しずつ互いを理解していく――。
これは、恋より先に「夫婦」を学ぶ二人の青春ラブストーリー。
婚約破棄されたので泣こうと思ったら、隣の王子が爆笑していました
婚約者に大勢の前で婚約破棄され、涙を流そうとした公爵令嬢リリアーナ。
ところが、その場にいた隣国の第二王子はなぜか大爆笑。
「その婚約者、昨日も別の令嬢に愛を誓ってたよ?」
その一言から、元婚約者の嘘は次々と暴かれ、自滅の連続!
泣くはずだった婚約破棄は、笑いと溺愛にあふれた人生逆転劇の幕開けだった。
巻き込まれただけの高校生、冒険者になる
クラスメイトに疎まれ、馬鹿にされ、蔑まれる男子高校生。
少し頭のネジが外れた彼だが、少ない友人や、家族の事だけは大切にしている、至って普通の高校生。
そんな彼がいつも通りの日常を送っていると、唐突に地面に穴が開き迷宮に落とされてしまう。
そこで出会った仲間と共に外を目指すが、数々の困難に出会い苦戦を強いられる事となる。
これは平凡な高校生が色々な悩みを抱えながら異世界を歩き、家族との再会を望む成長の物語。