96 / 256
断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
ハッピーエンドを求めて———
しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇
魔武道大会直後の、帝都オリュンポス。
「……ヴォレイが、帰ってこない……?」
魔王軍元幹部———ゴルゴダ機関の長、ダークナイト改め刹那は、今まさに、想定外の状況に困惑していた。
……何せ、ゴルゴダ機関随一の怪力が死んだと。
この世界どこを見てもかなりの実力者がやられたと言う報告ともなれば、流石のダークナイトとは言えど、驚きを隠さずにはいられなかった。
……それもヤツは貴重なソウルレスの実験体。
ロストにならずして生還した、ソウルレス第二号が死ぬなど、本来はほとんどあり得ない事であった。
……がしかし、その手を知られた、または知られていた、ともなれば、ヴォレイを殺した者も、いささか特定しやすくなった。
「……そう、白郎です……か」
あまつさえ、鍵を確保できなかったばかりか、貴重な戦闘要員まで失ってしまったとさえあれば、その憤りをも隠せるはずがなく。
「……これより西大陸殲滅作戦を発動します。よろしいですか、レイン?」
「……必ずや成し遂げてみせましょう。プロジェクトエターナルの、我らの正義を執行する為に。
全隊、出撃用意。どのような手も辞さない、何が何であろうと……!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、その頃。
大会が終わり1週間、白はまたしても退屈に直面していた。
「……なあ、次の大会はいつだ? もう俺、早く戦いたくてウズウズしてんだよ」
「……ハア?……べつに、そんなの外で、イデアさんとでも誰とでもやって来ればいいじゃない。仕事だって、してないんだ、からっ!」
何やら高そうな壺を持ち上げたり置いたりしながら、サナはそう吐き捨てる。
「いやー、そう言ったってよ~……やっぱりああいう戦いじゃないと、みんな力をセーブしちまうんだよ。
……それじゃ面白くない、死ぬ気で戦いたいんだよ、俺は」
今思えば、この言葉も含めておかしかったんだろうな、俺って。
「……そう言えば、この前私が渡した『小説』は読んだわけ?」
小説。
紙に筆で、物語? ってやつを書くっていう日ノ國発祥の文学? らしいんだけど。
はっきり言って物語になんて興味は無いし、どう転んでも、その小説なんてものは読もうとは思っちゃいなかった。
……ただ、ある時。
本当に暇で暇で、何をすれば良いのか分からない、そんなどこまでも虚無な時間が流れた時。
その時、ようやくその本に手を付けようと思った。
タイトルは「スーパーヒーロー」。
街を守る為に、特殊な武装を施された人間が、怪人相手に立ち向かう……ストーリー。
サナは「安直なタイトルよね」だとか口にしていたが、小説———もとい物語に手を付けてこなかった俺にとっては、何が安直なのか全く分からなかった。
……面白く、はあったかな、
ただ、どうしても分からない表現や言葉はサナに聞いて、なんとかして読み終えた。
……最後は、俗に言う「ハッピーエンド」。
主人公が守り通した未来で、皆が笑って終わる———そんな、サナからすれば「ありきたり」な終わり方だった。
……でも、俺はこの終わり方がハッピーエンドとは思えない。
なぜなら、その物語は、主人公無しでの終わりを迎えているからだ。
みんなこの物語をハッピーエンドだと謳う。この物語が名作だと、口を揃えて言い放つ。
……でも、何で、何で最後の戦いで、主人公が死ぬ必要があったんだ?
今まで、みんなの為に尽くしてきた主人公が、最後の最後に自分の命を犠牲にして最後の敵を倒す。
見てて面白い展開だな、と思った。
それでその小説の登場人物は笑っていたし。
サナも『ヒーローって言う存在の、自己犠牲をきちんと描けてるのよ? 名作じゃなくて何だって言うの?』だなんて口にした。
……でも、何で、何でこれがハッピーエンドなんだ?
主人公は死んだ。安らぎを求めて戦った主人公は、最後の最後に犠牲になった。
別に、犠牲になるならそこらの一般人でもよかったはずだ。小説内では、そのような状況だった。
……だからって、主人公が死ななきゃいけなかった理由は分からない。
登場人物が口を揃えて『死にたくない』と言う中、『ならば俺が』と口にして散っていった主人公を眺め、その登場人物たちは笑った。
そして、それがハッピーエンド?
……そんなのは、卑怯なんじゃないのか、と。
他人に責任を押し付けて、自分はのうのうと笑って暮らしてる、だなんて。
「そんな事言ったって、それがドラマチックな終わり方だから作者はそうしたまででしょ?
……それでも、その主人公の守った者はみんな笑ってたじゃない?」
……やっぱり、俺には認めきれなかった。
そんな、そんなモノをハッピーエンドと認めるのは、俺には無理だった。
みんな生き残ってこそのハッピーエンド、なんじゃないのか。
それが一番の終わらせ方だとしても、俺はその物語を否定する事しかできなかった。
だからこそ、なんか、もうちょっと納得できるような、そんな物語が読みたいな、と思った。
めちゃくちゃ強い魔法を手に入れて無双する話でも、貴族に転生して復讐して、爽快感を味わう話でもない。
ただただ、納得できて感動できる結末を迎える物語に、出会いたかったのだ。
本屋。
新しくできたそこは、『小説』なるものが数多く売られているという。
だからこそ、そこに足を運んだ。
ハッピーエンドを、本当のハッピーエンドを見つける為に。
そして、バッドエンドまっしぐらの選択をしてしまった事に、俺は…………いつ気づくことになるだろうか。
…………まあ元より、「雪斬白郎」という男自体が、バッドエンドまっしぐらのフラグ、みたいなものなのだが。
魔武道大会直後の、帝都オリュンポス。
「……ヴォレイが、帰ってこない……?」
魔王軍元幹部———ゴルゴダ機関の長、ダークナイト改め刹那は、今まさに、想定外の状況に困惑していた。
……何せ、ゴルゴダ機関随一の怪力が死んだと。
この世界どこを見てもかなりの実力者がやられたと言う報告ともなれば、流石のダークナイトとは言えど、驚きを隠さずにはいられなかった。
……それもヤツは貴重なソウルレスの実験体。
ロストにならずして生還した、ソウルレス第二号が死ぬなど、本来はほとんどあり得ない事であった。
……がしかし、その手を知られた、または知られていた、ともなれば、ヴォレイを殺した者も、いささか特定しやすくなった。
「……そう、白郎です……か」
あまつさえ、鍵を確保できなかったばかりか、貴重な戦闘要員まで失ってしまったとさえあれば、その憤りをも隠せるはずがなく。
「……これより西大陸殲滅作戦を発動します。よろしいですか、レイン?」
「……必ずや成し遂げてみせましょう。プロジェクトエターナルの、我らの正義を執行する為に。
全隊、出撃用意。どのような手も辞さない、何が何であろうと……!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、その頃。
大会が終わり1週間、白はまたしても退屈に直面していた。
「……なあ、次の大会はいつだ? もう俺、早く戦いたくてウズウズしてんだよ」
「……ハア?……べつに、そんなの外で、イデアさんとでも誰とでもやって来ればいいじゃない。仕事だって、してないんだ、からっ!」
何やら高そうな壺を持ち上げたり置いたりしながら、サナはそう吐き捨てる。
「いやー、そう言ったってよ~……やっぱりああいう戦いじゃないと、みんな力をセーブしちまうんだよ。
……それじゃ面白くない、死ぬ気で戦いたいんだよ、俺は」
今思えば、この言葉も含めておかしかったんだろうな、俺って。
「……そう言えば、この前私が渡した『小説』は読んだわけ?」
小説。
紙に筆で、物語? ってやつを書くっていう日ノ國発祥の文学? らしいんだけど。
はっきり言って物語になんて興味は無いし、どう転んでも、その小説なんてものは読もうとは思っちゃいなかった。
……ただ、ある時。
本当に暇で暇で、何をすれば良いのか分からない、そんなどこまでも虚無な時間が流れた時。
その時、ようやくその本に手を付けようと思った。
タイトルは「スーパーヒーロー」。
街を守る為に、特殊な武装を施された人間が、怪人相手に立ち向かう……ストーリー。
サナは「安直なタイトルよね」だとか口にしていたが、小説———もとい物語に手を付けてこなかった俺にとっては、何が安直なのか全く分からなかった。
……面白く、はあったかな、
ただ、どうしても分からない表現や言葉はサナに聞いて、なんとかして読み終えた。
……最後は、俗に言う「ハッピーエンド」。
主人公が守り通した未来で、皆が笑って終わる———そんな、サナからすれば「ありきたり」な終わり方だった。
……でも、俺はこの終わり方がハッピーエンドとは思えない。
なぜなら、その物語は、主人公無しでの終わりを迎えているからだ。
みんなこの物語をハッピーエンドだと謳う。この物語が名作だと、口を揃えて言い放つ。
……でも、何で、何で最後の戦いで、主人公が死ぬ必要があったんだ?
今まで、みんなの為に尽くしてきた主人公が、最後の最後に自分の命を犠牲にして最後の敵を倒す。
見てて面白い展開だな、と思った。
それでその小説の登場人物は笑っていたし。
サナも『ヒーローって言う存在の、自己犠牲をきちんと描けてるのよ? 名作じゃなくて何だって言うの?』だなんて口にした。
……でも、何で、何でこれがハッピーエンドなんだ?
主人公は死んだ。安らぎを求めて戦った主人公は、最後の最後に犠牲になった。
別に、犠牲になるならそこらの一般人でもよかったはずだ。小説内では、そのような状況だった。
……だからって、主人公が死ななきゃいけなかった理由は分からない。
登場人物が口を揃えて『死にたくない』と言う中、『ならば俺が』と口にして散っていった主人公を眺め、その登場人物たちは笑った。
そして、それがハッピーエンド?
……そんなのは、卑怯なんじゃないのか、と。
他人に責任を押し付けて、自分はのうのうと笑って暮らしてる、だなんて。
「そんな事言ったって、それがドラマチックな終わり方だから作者はそうしたまででしょ?
……それでも、その主人公の守った者はみんな笑ってたじゃない?」
……やっぱり、俺には認めきれなかった。
そんな、そんなモノをハッピーエンドと認めるのは、俺には無理だった。
みんな生き残ってこそのハッピーエンド、なんじゃないのか。
それが一番の終わらせ方だとしても、俺はその物語を否定する事しかできなかった。
だからこそ、なんか、もうちょっと納得できるような、そんな物語が読みたいな、と思った。
めちゃくちゃ強い魔法を手に入れて無双する話でも、貴族に転生して復讐して、爽快感を味わう話でもない。
ただただ、納得できて感動できる結末を迎える物語に、出会いたかったのだ。
本屋。
新しくできたそこは、『小説』なるものが数多く売られているという。
だからこそ、そこに足を運んだ。
ハッピーエンドを、本当のハッピーエンドを見つける為に。
そして、バッドエンドまっしぐらの選択をしてしまった事に、俺は…………いつ気づくことになるだろうか。
…………まあ元より、「雪斬白郎」という男自体が、バッドエンドまっしぐらのフラグ、みたいなものなのだが。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる