124 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
追憶ノ回想〜アイのカタチ〜
「……最近、ある男の子を育て始めたんです」
ある、月明かりが眩しい———夜更けのことだった。
「おとこ……のこ……?」
「ええ。その子にも言ったんですが、特に貴方にも言っておいた方がいいかな、と」
「何、を……?」
「……アテナ。貴方は、どんな世界が好きですか?」
「どんな……世界……?」
宗呪羅の質問は不可解だった。
どんな世界。
生まれてこのかた、ただただひたすら、大気圏で月使徒———天使を葬るだけの生活しか送っていなかった私にとって、そもそも自分自身が生きる「世界」など、考えたことがなかったのだ。
そこで、男は口を開いた。
「……私はね、もう誰も傷つくことのない、優しい世界を望んでいます。……アテナ、貴方は……どう思いますか?」
私の生活は、常に「死」に溢れていた。
ヒトの形を成した月使徒を、ただただ殺すだけの生活。
ひたすら戦って、誰の為かも分からないけど戦って、「お父様」の命令のまま戦って。
だからこそだろうか、少しばかり……それはいいなと、手を伸ばしてしまった。
「…………私、も、そんな世界……が、いい…………かも」
「そう言ってくれると思ってました。……貴方は、きっとあの子と……白郎と気が合う。そんな気がします」
白郎。
その名前には、聞き覚えはなかったが、妙な既視感が存在していた。
なぜか、理由は分からない。けれど、絶対に私は、その人に会わなくちゃいけない、と、聞いているだけでそんな焦燥感に駆られる名前だった。
———そして、この偽りの身体がトクンと跳ねる。
「…………平和って、素晴らしいんですよ」
男は微笑みながら、そう告げる。
「誰も、何不自由なく遊べて、楽しく暮らせて。もうそれだけで、その世界は素晴らしいと、そう言えるでしょう?
貴方の、常に殺戮に塗れた世界よりも、その世界の方が……よっぽど理想だと……私はそう思います」
「………………でも、そんな世界は、来ない」
アテナの発言だった。
それは、既に実証済みだった。
1000年前。大戦末期。
ある1人の少年が叶えた「願い」によって、その大戦は終わりを告げた。
その少年は、人間だった。
大戦時、ただただひたすら蹂躙されることしかされなかった人類の願いは———少年の願いはただ1つ、「恒久的な世界平和」しかないだろうと、私は仮定付けた。
……そこによほどの誤差が絡まないことには、人間の———人類たちの叶える願いはそれくらいしかない、とそう……考察した。
……だが現状はどうだ。先程の考察が正しいと仮定するのなら……それ以外考えられないのだが、その少年が「恒久的な世界平和」を願ったのなら、今の現状は?
西大陸では、魔王軍と人界軍が争い。
こちらの大陸では、トランスフィールドにて最悪の戦争が繰り広げられているこの現状は、「恒久的な世界平和」と言えるのだろうか?
結論::100%、言えはしないだろう。
ならばなぜ、世界平和は実現されていないのか?
それはきっと、万能の願望機『アースリアクター』にも、叶えられない願いがあった、という事だろう。
具体的に言うとすれば、「恒久的な世界平和」のような、あまりにもな抽象的な願い。
だからこそ私は、「そのような世界は来ない」と、そう告げた。
だがしかし、その男は諦めてはいなかったのだ。
「…………来ないことはありません。全ての生命体が、全てを愛せば、それで全ては救われます」
「…………あ、い……?」
愛? アイ? あい?
愛、とは。
その問いが、回路を駆け巡る。
「……愛、を知りませんでしたか。愛というのは、人間の一種の感情です」
「感情……」
「愛は、一言で表すのなら、誰かを慈しむ、誰かを親しむ、または誰かを慕う心です」
「………ひとこと、じゃない」
「……突っ込まないでください…………愛は、さまざまな形を取ります。愛す、愛される…目上の人や……立場上は下の人……はたまた、同じ立場の人を愛することだって」
「…………それは、アテナ、も、感じとれる……?」
「ええ。感じれます。感情が、心があるのなら、きっと貴方にも、愛しあえる人ができるはずです」
「アイ……は、有限?」
「…………有限……でもありますし、そうであると言えば無限でもあります。愛そうと思えば、人はどこまででも他人を愛せます」
「…………アテナ、は、ほとんど、無限。だけど、人は……人の、命は……有限……それは、無限と言える……?」
「愛が無限かどうかは、時間が決めることではありません。それは……想いが決めることです。
どれだけ、その人の……運命の人のことを思えるか。それが愛の本質です。そこに行為など関係ない、距離も、時間も、全く意味を成しません」
「運命の……人……?」
「…………ええ。……アテナ、自分が大事だと、自分にとっての運命の人を見つけたのなら、その人を無限に愛しなさい。
世界は愛から生まれたように、世界は愛で平和になる、最終的に全てが『愛』に帰結するはずです。
……きっと、貴方の愛が、世界の平和に繋がるはず、……だから、運命の人が現れるその時まで、その気持ちは心の奥底でとっておいてください」
「運命の人、は、宗呪羅じゃ……ダメ……?」
「……ええ。私は既に、この世界を呪いました。
だから、私が愛を享受することは……許されません。だからせめて、愛を与えることに…………私は精一杯なんです。
……それは貴女にも、ゴルゴダ機関の皆さんにもそうですが、あの子———白郎に対してもそうしてるのです」
「だったら……とっておく。この気持ちは、胸が熱いこの気持ちは、きっと……アイだから、私はこれを……」
「……違います。その気持ちは……きっと、恋にもなりえます。ですが、恋も今はとっておいてください。
恋も、実がなれば愛へと変わります。だからそれも、運命の人が現れるまで、楽しみにとっておいてください」
ある、月明かりが眩しい———夜更けのことだった。
「おとこ……のこ……?」
「ええ。その子にも言ったんですが、特に貴方にも言っておいた方がいいかな、と」
「何、を……?」
「……アテナ。貴方は、どんな世界が好きですか?」
「どんな……世界……?」
宗呪羅の質問は不可解だった。
どんな世界。
生まれてこのかた、ただただひたすら、大気圏で月使徒———天使を葬るだけの生活しか送っていなかった私にとって、そもそも自分自身が生きる「世界」など、考えたことがなかったのだ。
そこで、男は口を開いた。
「……私はね、もう誰も傷つくことのない、優しい世界を望んでいます。……アテナ、貴方は……どう思いますか?」
私の生活は、常に「死」に溢れていた。
ヒトの形を成した月使徒を、ただただ殺すだけの生活。
ひたすら戦って、誰の為かも分からないけど戦って、「お父様」の命令のまま戦って。
だからこそだろうか、少しばかり……それはいいなと、手を伸ばしてしまった。
「…………私、も、そんな世界……が、いい…………かも」
「そう言ってくれると思ってました。……貴方は、きっとあの子と……白郎と気が合う。そんな気がします」
白郎。
その名前には、聞き覚えはなかったが、妙な既視感が存在していた。
なぜか、理由は分からない。けれど、絶対に私は、その人に会わなくちゃいけない、と、聞いているだけでそんな焦燥感に駆られる名前だった。
———そして、この偽りの身体がトクンと跳ねる。
「…………平和って、素晴らしいんですよ」
男は微笑みながら、そう告げる。
「誰も、何不自由なく遊べて、楽しく暮らせて。もうそれだけで、その世界は素晴らしいと、そう言えるでしょう?
貴方の、常に殺戮に塗れた世界よりも、その世界の方が……よっぽど理想だと……私はそう思います」
「………………でも、そんな世界は、来ない」
アテナの発言だった。
それは、既に実証済みだった。
1000年前。大戦末期。
ある1人の少年が叶えた「願い」によって、その大戦は終わりを告げた。
その少年は、人間だった。
大戦時、ただただひたすら蹂躙されることしかされなかった人類の願いは———少年の願いはただ1つ、「恒久的な世界平和」しかないだろうと、私は仮定付けた。
……そこによほどの誤差が絡まないことには、人間の———人類たちの叶える願いはそれくらいしかない、とそう……考察した。
……だが現状はどうだ。先程の考察が正しいと仮定するのなら……それ以外考えられないのだが、その少年が「恒久的な世界平和」を願ったのなら、今の現状は?
西大陸では、魔王軍と人界軍が争い。
こちらの大陸では、トランスフィールドにて最悪の戦争が繰り広げられているこの現状は、「恒久的な世界平和」と言えるのだろうか?
結論::100%、言えはしないだろう。
ならばなぜ、世界平和は実現されていないのか?
それはきっと、万能の願望機『アースリアクター』にも、叶えられない願いがあった、という事だろう。
具体的に言うとすれば、「恒久的な世界平和」のような、あまりにもな抽象的な願い。
だからこそ私は、「そのような世界は来ない」と、そう告げた。
だがしかし、その男は諦めてはいなかったのだ。
「…………来ないことはありません。全ての生命体が、全てを愛せば、それで全ては救われます」
「…………あ、い……?」
愛? アイ? あい?
愛、とは。
その問いが、回路を駆け巡る。
「……愛、を知りませんでしたか。愛というのは、人間の一種の感情です」
「感情……」
「愛は、一言で表すのなら、誰かを慈しむ、誰かを親しむ、または誰かを慕う心です」
「………ひとこと、じゃない」
「……突っ込まないでください…………愛は、さまざまな形を取ります。愛す、愛される…目上の人や……立場上は下の人……はたまた、同じ立場の人を愛することだって」
「…………それは、アテナ、も、感じとれる……?」
「ええ。感じれます。感情が、心があるのなら、きっと貴方にも、愛しあえる人ができるはずです」
「アイ……は、有限?」
「…………有限……でもありますし、そうであると言えば無限でもあります。愛そうと思えば、人はどこまででも他人を愛せます」
「…………アテナ、は、ほとんど、無限。だけど、人は……人の、命は……有限……それは、無限と言える……?」
「愛が無限かどうかは、時間が決めることではありません。それは……想いが決めることです。
どれだけ、その人の……運命の人のことを思えるか。それが愛の本質です。そこに行為など関係ない、距離も、時間も、全く意味を成しません」
「運命の……人……?」
「…………ええ。……アテナ、自分が大事だと、自分にとっての運命の人を見つけたのなら、その人を無限に愛しなさい。
世界は愛から生まれたように、世界は愛で平和になる、最終的に全てが『愛』に帰結するはずです。
……きっと、貴方の愛が、世界の平和に繋がるはず、……だから、運命の人が現れるその時まで、その気持ちは心の奥底でとっておいてください」
「運命の人、は、宗呪羅じゃ……ダメ……?」
「……ええ。私は既に、この世界を呪いました。
だから、私が愛を享受することは……許されません。だからせめて、愛を与えることに…………私は精一杯なんです。
……それは貴女にも、ゴルゴダ機関の皆さんにもそうですが、あの子———白郎に対してもそうしてるのです」
「だったら……とっておく。この気持ちは、胸が熱いこの気持ちは、きっと……アイだから、私はこれを……」
「……違います。その気持ちは……きっと、恋にもなりえます。ですが、恋も今はとっておいてください。
恋も、実がなれば愛へと変わります。だからそれも、運命の人が現れるまで、楽しみにとっておいてください」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。