Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

決戦〜無情〜

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「…………来るとは、思っていた。……だけど、せっかくの美貌が台無しだ、そんな涙に濡れた頬じゃな……」


 背後より現れたのは、金色の髪を下ろした、最強の魔術師。

「………………何をしに来たかも……分かるわよね」

「ああ、……全く、最悪だ、世界最高峰の魔術師を敵に回すなんてな。……機神を敵に回すよりかは、幾分マシではあるが」

「…………私を…………、取ってよね……!」


「………………ふ……」

「急に笑って、どうしたのよ……?」

「いいや、嬉しいんだ。ようやくその言葉が聞けたのが。お前が、責任について、言及してくれたのが…………嬉しかった」


 あの時。
 2年前、俺たちの旅が始まった、あの日のことだった。


「……でも、それだけじゃない。白にはもう1つ、絶対に取ってもらうべき責任がある、だから———、

 ———容赦は、しない」


「こっちもだ。……確実に、ここで決める」


 震え始めたアテナの、その涙が地に着いた瞬間。

 俺とサナは、1歩互いに踏み出し、

 一瞬。
 その場にいたアテナすらも捉えられなかった一瞬で、その勝負の先手は打たれた。


「……ん……っ……!」

 跳び上がったサナの持つ杖と、俺の刀が拮抗し、直後に互いでノックバックを取る。
 だが、ここからが勝負だ。

 こうして抑えあっている間にも、アイツの巡らせた氷魔法が地を這いこちらへと伝わってくる。
 ……だからこそ、今ここで体勢を覆さなければならないが。
 
 おそらくあっちも、それは承知だろう。
 何せあっちも、俺と同じく、最悪の死線をくぐり抜けてきた仲。

 ならばこそ、今ここで俺がどのような方法をとるかなど、おそらくあちらには手を取るように暴かれているに違いない。

 だから。

「ブームクラッシュ……!」

 考えるは爆発のイメージ。
 やはりというか、いつまで経っても少ないこの残存魔力量で、できる限りの最善を尽くす。

 そうしなければ、そうまでしなければ、俺の最弱を以てして、この最強は打ち砕けないからだ……!


 場が爆煙に包まれる。
 それでも、氷魔法は追ってくる。
 地を這い、建物のひび割れのように広がり、確実に俺を氷の園に閉じ込めようと迫る。



「背水の陣…………極ノ項!!」

『白の世界』へと、意識を移す。
 今の自分は、ツバサであり、同時に白でもあると。
 混乱した頭に、まるで木の板に杭を打ち付け、2つの板を接着するように正確に言い聞かせる。

 取るは背後。
 来るはずのない、絶対的な隙をつくために跳び上がり、空中の天井を蹴り、部屋全体を使いサナの背後へと移動する。




「グレイシア……フリーズクリスタル」

 氷のように冷たく呟かれた詠唱に、何か身に覚えのない悪寒を覚える。
 ……このままじゃ、確実に死ぬ、と判断した俺は。
 早くも、そして辛くも、切り札を切った。



シグマドライヴザ・オールマイティ

 世界が一瞬にして静止する。
 魔力の胎動も。
 神力の流動も。

 その世界には、その絶対的な静止時間の世界には、俺以外誰も立ち入ることは叶わず。
 それは、ぼんやりとその戦いを見つめていた、アテナもまた同じくであった。

 灰色に染まった世界にて、最愛の人を斬ることになるのは、やはり心が傷む。

 だが、だがと、1秒で決断をし、刀を構える。



 これで終わりだと、いちいちごちゃごちゃと曰ううるさいゴミが始末できると、心を鬼に……いいや、心を『人斬り』にして、全てを終わらせようと刀を振りかざす。




 ———そんな事、は許すはずもないってのに。
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