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第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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私は自室に駆け込んだその途端、ワァーー! と感情的な叫び声を上げた。もうなんだかいっぱいいっぱいだった。完全に許容範囲オーバー。
暫くそうして叫んだ後、私は今度は無言で部屋の奥まで歩いて行き、ベッドに突っ伏して声を殺して泣いた。
このまま……王太子と婚約したままでいいわけがないわ。どうしたら婚約破棄して貰えるのかしら。でも、あからさまに仕向けると、お父様に勘付かれて社会的に抹殺される……。
私の啜り泣きが聞こえたのか、突然ノックも無しにドアが開き、私の執事ーーーーになったリディアが無遠慮にズカズカと部屋に入って来た。
「な、何? なんで入ってきたの?」
「……お嬢の叫び声が聞こえたと思ったら、今度は泣き声が聞こえてきたからな。そりゃ何事かと思うだろ?」
「リ……リディアちゃーん!心配してくれたの?」
私はタックルするように、リディアちゃんの腰に抱きついた。
リディアちゃんは、胸元に大きなリボンがついた白い絹のブラウスに、金釦が付いた紺のベスト、下は紺の半ズボンという、私が見立てたお子様仕様の執事服を着ていてとっても愛らしかった。ふふ。役得、役得。とても二歳年上の男子とは思えない。ボーイッシュな美少女にしか見えないよー!
「て、てめぇ! こらッお嬢! 馴れ馴れしく触んじゃねぇ! ……心配なんざしてねぇよ。ただ……今度“ちゃん付け”したら泣かすっつったろ」
頬を掌で思いきり押されて、ひっぺがされそうだったが、私はしつこくしがみつく。
「ケチー。いいじゃない触ったって減るもんじゃなし。それに名前もリディアちゃんのお顔にピッタリの可愛いらしい名前だから、つい“ちゃん付け”しちゃうの……イタタタタぁ……ッ!」
リディアちゃんは拳骨で両方のこめかみをグリグリしてきた。
ギャー! 痛いー!
そっちだって名前で呼んでって言ったのに『お嬢』って呼ぶくせに!
「わかったわ! もう“ちゃん付け”しないからぁ!でも愛称では呼んでもいいでしょ?」
痛いリディアちゃんの拳から逃れて再びベッドに腰掛けると、リディアちゃんも「愛称?」と怪訝な顔をして、私の隣りに腰を下ろした。
「リディアっち!」
「アホか」
「リディティー」
「却下だ」
「うぅ……じゃあねぇ“リド”は?」
「…………それなら……」
なんだか少しリディアちゃ……いや、リドの頬が赤い。可愛いなぁ。
私が微笑みながらリドを見つめると「ニヤニヤして気持ち悪ぃ」と、そっぽを向かれてしまった。
こうやって攻略対象者の誰かじゃなく、【迷鳥】と全く関係のないリドが一緒に居てくれるというだけで、ざわざわと漣が立っていた心が凪いでいくようだ。
何度もゲームをプレイしたけど『リディア・ヴァン・シュナイダー』なんて名前、一度も聞いたことないもの!
「……で? 何で泣いてたんだ?」
膝に頬杖をついて、まるで興味無さ気に聞いてきてくれる。素っ気ない感じが、また心地好い。
「……お父様が勝手に婚約を決めてきたの。お相手がジークフリート殿下だからお断りのしようがなくて……」
「…………ッ!?」
私の言葉が予想外だったのか、リドは驚いたように目を見開いてこっちを見た。
「王太子はかなりの美形だって噂だが……もしかして本当は不細工なのか?」
真剣な顔でそんな事を言ってくるからつい、フフ……と笑ってしまった。
「ジークフリート殿下は噂通り素敵な方よ。聡明でいらっしゃるし」
成長した姿もバッチリ見てるわよ。ゲームのスチルでね!そりゃあ見目麗しく素敵でしたぁ。
「じゃあ何がそんなに泣く程嫌なんだ? 未来の国王陛下だろ? 王妃になれるなんて名誉じゃねぇか」
私は両肩を上げて、大袈裟に首を振って溜め息を吐いた。
「私が嫌なんじゃないわ。向こうが私の事を嫌ってるのよ」
「はぁ? 本人にそう言われたのか?」
「言われてないわ。でもわかるの。だって私一度も殿下にお会いした事がないんだもの。殿下は一度も私に会おうとしないから」
そう、私は小さい頃からジークフリート殿下に憧れていて、お父様に頼んで何度も王宮に出向いているのだ。その度に何かしらの理由をつけられてはすっぽかされる。お伺いを立ててから出向いているのに!
一度不敬にもアポ無しで突撃した時は、殿下は流行り病で自室から出られずうつしては申し訳ないからと断られた。
とぼとぼと帰る道すがら、殿下らしき人物が部屋の窓から双眼鏡を使って私を眺めて……いや、あれは、私を遠くから観察していたに違いない。ええ。その時の私は、王子に会えなかった腹いせに、王宮の使用人達に思いきり罵声を浴びせましたから。
「でもそれだけが理由じゃないの。とにかくジークフリート殿下はダメなのよ!このまま婚約していたら、私の命はないの。だからって逃げ出したりしたら、お父様に廃人同然にされちゃうの。もう行き場がないの……ッ!」
頭を抱えて喚き蹲る私を、リドはますます訳が分からないと言った顔で見た。
「……お前……それ被害妄想ってヤツじゃねぇのか?」
「うう……妄想でもいいから……何かいい案はないかしら……何か……駆け落ち……はまずいわよね……流石に王家が相手じゃ誰も一緒に逃げてくれないし……お父様の罰も怖いし……王家以上なんてあり得ないし……王家……王家……王家?」
ピーーーーン!
アリス、閃いてしまいましたァーー! !
「な……なんだよ……」
「王家!そう王家ですわよ!王家!」
私は顔を上げると、鼻息荒く、隣りに座るリドにジリジリと躙り寄り、その瞳を期待に満ちた瞳で見返した。
リドは私のあまりの剣幕にたじろいでいる。
「……? 王家が何だ?」
「王家には王家ですわ! リド! 貴方、ログワーズ王国の王族の方なのよね? お願い。私を略奪して結婚してくださらないかしら!!」
「…………は?……はあぁーー!?」
暫くそうして叫んだ後、私は今度は無言で部屋の奥まで歩いて行き、ベッドに突っ伏して声を殺して泣いた。
このまま……王太子と婚約したままでいいわけがないわ。どうしたら婚約破棄して貰えるのかしら。でも、あからさまに仕向けると、お父様に勘付かれて社会的に抹殺される……。
私の啜り泣きが聞こえたのか、突然ノックも無しにドアが開き、私の執事ーーーーになったリディアが無遠慮にズカズカと部屋に入って来た。
「な、何? なんで入ってきたの?」
「……お嬢の叫び声が聞こえたと思ったら、今度は泣き声が聞こえてきたからな。そりゃ何事かと思うだろ?」
「リ……リディアちゃーん!心配してくれたの?」
私はタックルするように、リディアちゃんの腰に抱きついた。
リディアちゃんは、胸元に大きなリボンがついた白い絹のブラウスに、金釦が付いた紺のベスト、下は紺の半ズボンという、私が見立てたお子様仕様の執事服を着ていてとっても愛らしかった。ふふ。役得、役得。とても二歳年上の男子とは思えない。ボーイッシュな美少女にしか見えないよー!
「て、てめぇ! こらッお嬢! 馴れ馴れしく触んじゃねぇ! ……心配なんざしてねぇよ。ただ……今度“ちゃん付け”したら泣かすっつったろ」
頬を掌で思いきり押されて、ひっぺがされそうだったが、私はしつこくしがみつく。
「ケチー。いいじゃない触ったって減るもんじゃなし。それに名前もリディアちゃんのお顔にピッタリの可愛いらしい名前だから、つい“ちゃん付け”しちゃうの……イタタタタぁ……ッ!」
リディアちゃんは拳骨で両方のこめかみをグリグリしてきた。
ギャー! 痛いー!
そっちだって名前で呼んでって言ったのに『お嬢』って呼ぶくせに!
「わかったわ! もう“ちゃん付け”しないからぁ!でも愛称では呼んでもいいでしょ?」
痛いリディアちゃんの拳から逃れて再びベッドに腰掛けると、リディアちゃんも「愛称?」と怪訝な顔をして、私の隣りに腰を下ろした。
「リディアっち!」
「アホか」
「リディティー」
「却下だ」
「うぅ……じゃあねぇ“リド”は?」
「…………それなら……」
なんだか少しリディアちゃ……いや、リドの頬が赤い。可愛いなぁ。
私が微笑みながらリドを見つめると「ニヤニヤして気持ち悪ぃ」と、そっぽを向かれてしまった。
こうやって攻略対象者の誰かじゃなく、【迷鳥】と全く関係のないリドが一緒に居てくれるというだけで、ざわざわと漣が立っていた心が凪いでいくようだ。
何度もゲームをプレイしたけど『リディア・ヴァン・シュナイダー』なんて名前、一度も聞いたことないもの!
「……で? 何で泣いてたんだ?」
膝に頬杖をついて、まるで興味無さ気に聞いてきてくれる。素っ気ない感じが、また心地好い。
「……お父様が勝手に婚約を決めてきたの。お相手がジークフリート殿下だからお断りのしようがなくて……」
「…………ッ!?」
私の言葉が予想外だったのか、リドは驚いたように目を見開いてこっちを見た。
「王太子はかなりの美形だって噂だが……もしかして本当は不細工なのか?」
真剣な顔でそんな事を言ってくるからつい、フフ……と笑ってしまった。
「ジークフリート殿下は噂通り素敵な方よ。聡明でいらっしゃるし」
成長した姿もバッチリ見てるわよ。ゲームのスチルでね!そりゃあ見目麗しく素敵でしたぁ。
「じゃあ何がそんなに泣く程嫌なんだ? 未来の国王陛下だろ? 王妃になれるなんて名誉じゃねぇか」
私は両肩を上げて、大袈裟に首を振って溜め息を吐いた。
「私が嫌なんじゃないわ。向こうが私の事を嫌ってるのよ」
「はぁ? 本人にそう言われたのか?」
「言われてないわ。でもわかるの。だって私一度も殿下にお会いした事がないんだもの。殿下は一度も私に会おうとしないから」
そう、私は小さい頃からジークフリート殿下に憧れていて、お父様に頼んで何度も王宮に出向いているのだ。その度に何かしらの理由をつけられてはすっぽかされる。お伺いを立ててから出向いているのに!
一度不敬にもアポ無しで突撃した時は、殿下は流行り病で自室から出られずうつしては申し訳ないからと断られた。
とぼとぼと帰る道すがら、殿下らしき人物が部屋の窓から双眼鏡を使って私を眺めて……いや、あれは、私を遠くから観察していたに違いない。ええ。その時の私は、王子に会えなかった腹いせに、王宮の使用人達に思いきり罵声を浴びせましたから。
「でもそれだけが理由じゃないの。とにかくジークフリート殿下はダメなのよ!このまま婚約していたら、私の命はないの。だからって逃げ出したりしたら、お父様に廃人同然にされちゃうの。もう行き場がないの……ッ!」
頭を抱えて喚き蹲る私を、リドはますます訳が分からないと言った顔で見た。
「……お前……それ被害妄想ってヤツじゃねぇのか?」
「うう……妄想でもいいから……何かいい案はないかしら……何か……駆け落ち……はまずいわよね……流石に王家が相手じゃ誰も一緒に逃げてくれないし……お父様の罰も怖いし……王家以上なんてあり得ないし……王家……王家……王家?」
ピーーーーン!
アリス、閃いてしまいましたァーー! !
「な……なんだよ……」
「王家!そう王家ですわよ!王家!」
私は顔を上げると、鼻息荒く、隣りに座るリドにジリジリと躙り寄り、その瞳を期待に満ちた瞳で見返した。
リドは私のあまりの剣幕にたじろいでいる。
「……? 王家が何だ?」
「王家には王家ですわ! リド! 貴方、ログワーズ王国の王族の方なのよね? お願い。私を略奪して結婚してくださらないかしら!!」
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