竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―

叶 望

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015 馬車襲撃

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 あっという間に襲撃者を撃退して縄で縛った男たちはすぐに男爵の縄を解くのではなく、逆に物色を始めた。
 何かを探している様子の男たちにシトリー男爵はどう声をかけたものかと思案していた。
 すると茶色の髪を持った身軽そうな男が、馬車を操っていた護衛の男から金の入った袋を掲げて叫んだ。

「シュラ様、見付けたっす。中の金額から言って例の金だと思われます。」

 シュラと呼ばれたのは息子と同じくらいの年の黒髪の少年。
 その少年の瞳の色を見て男爵は思わず目を見開いた。
 金の瞳を持つ少年。黒い髪。
 それはかつて己の手から零れ落ちたはずの赤子と同じ色を纏った少年だった。

「ジャズ良くやった。さて、どうするかな。」

 その金を手で軽く投げながらキャッチするのを繰り返して少年は呟いた。
 その金を見て捕らえられたリーダーらしき男がもごもごと叫んでいる。
 口を塞がれて喋れない男は血走った目で少年を睨み付けている。

「シュラ様、こいつどうします?」

 赤茶色の髪を持つ大剣を担いだ男は今にも噛み付きそうなリーダーらしき男を指して言う。

「うーん、そうだな……何か言いたそうだし。イワン喋れるようにだけしてやってくれ。」

「はいよ。シュラ様。」

 口を塞いでいた布を外して喋れるようにしてやる。
 するとリーダーらしき男はシュラに向かって唾が飛ぶ勢いで喋りだした。

「おい、ガキがその金は俺達のもんだ返せ!」

「返せってこれは貴方の懐から抜いた物ではありませんよ?」

「う、煩い。子供は大人の言う事を黙って聞けばいいんだ。とにかくその金は俺らの物だ。」

「やだなぁ、成功報酬だから俺のだって言わないんですか?」

「な、何の事だ。」

 その言葉に焦ったように言うリーダー格の男。
 その様子にくすりと笑うとシュラは手に持った金の入った袋を弄ぶ。

「そうだな、酒場と言えば分かるかな?」

 びくりと反応した一人の護衛。
 恐る恐る顔をあげる男の口を縛る布を取るようにオルグに命じる。
 深緑の髪を持つ男、オルグはすぐに布をナイフで切り護衛の男を押さえつけた。

「うぐっ、は、離せ。」

「さて、この金は貴方の懐にありました。そしてその金は成功報酬だ。そうなると、この後貴方はどうなるのでしょうね。」

 くすくすと笑うシュラを射殺さんばかりに睨み付ける護衛の男。
 短いこげ茶色の髪は土煙で薄汚れている。

「シュラ様、そろそろ。」

 青い髪の男がシュラに告げる。
 それに応えてルイと呼ばれた男が男爵と側室、その息子の縄を解く。

「すまない。助かった。」

 そう言ったシトリー男爵にシュラは黙ったままだった。
 そしてその側室と息子を見てふっと柔らかな笑みを漏らす。
 そして押さえつけられている男の耳元でそっと囁いた。

「奥様の心づけだっけ?俺が貰っておいてやるよ。以前貰いそびれた分としてな。」

 護衛の男は目を見開いてシュラを見る。
 まさかという驚きの表情で固まってしまった。
 シュラの瞳とその髪にかつて己が犯した罪を思い出したからだ。

「では、この金は俺たち黒狼盗賊団が頂戴する。」

 シュラが口笛を吹くと巨大な黒き狼が姿を現した。
 その大きさは盗賊を名乗る彼らが全員乗っても余裕があるような位に大きい。
 その黒き狼が悠然と歩いてくる。
 シュランガルム伝説の魔獣の名が男爵たちの頭をよぎる。
 ふわりと飛び乗ったシュラを先頭に彼らは男爵たちを置いて去っていく。

「待ってくれ!」

 男爵の言葉にシュラが振り向いた。

「男爵、すぐに街へ引き返すことをお勧めする。壊れた馬車の代わりがあるかもしれませんよ。」

「ち、ちがっ。」

 そう告げて今度こそシュラは去って行った。
 後に残された男爵は王族かもしれない彼を引き止めたかったのだが、そのような意図が伝わるわけも無かった。
 そして、シュラの言葉通り街へと引き返し、護衛だった男の尋問を部下に任せ、壊れた馬車の代わりを探す。
 馬車の代わりなどそうそうある訳がない。
 だが、馬車は思いのほか簡単に見つかった。
 作ったばかりの新しい馬車のようだが、誰かが売り払ったらしく購入するのもすぐに済んだ。
 男爵は先の言葉から恐らく売ったのはシュラ達だろうと考えた。
 だが、それを追及する暇は無い。
 王都へ急がねばならないからだ。
 馬車がすぐに見つかったおかげで王都の洗礼の儀に無事に間に合ったシトリー男爵はその足で城へと向かった。
 陛下に謁見するためだ。
 男爵である彼にとって光栄な事でもあり、2度も王子らしき人物を逃してしまったのは申し訳なくも思う。
 男爵からシュラの事を聞いた国王はすぐさまナイルズを城へと呼び寄せた。

――――…

「お久しぶりにございます。リュオン陛下。」

「あぁ、久しぶりだナイルズ。」

 リュオン・ライアック・シェルザール。
 彼はライアック王国の国王であり探し人であるリュシュラン第五王子の父親である。
 白銀の髪と金の瞳はこの国の象徴である白き竜を映したかのようだ。
 彼がナイルズを呼んだのは執務室で謁見の間は使っていない。
 近衛も一人しか傍におらず何時ぞやの謁見を思い起こす。

「リュシュランらしき人物がシトリー男爵の管理する街の街道で見つかった。」

「まことですか!殿下は今どこに?」

「いや、すぐに立ち去ったらしくてな。だが問題が起こった。」

「問題ですか?」

「盗賊を名乗ったそうなのだ。」

「盗賊……。それは。」

「それに各地で黒髪金眼の少年の話を聞いているだろう?恐らく配られているのはリュシュランが盗んだ金のようだ。」

「ですが、誰もそれを告げるものは出ておりません。」

「そこだ。恐らく公に出来ない金を奪っているのだろう。だが、盗賊には変わりない。民に知れる前になんとか城に戻さねばならぬ。」

「見つかったとされる辺りで聞き込みをしてみます。」

「あぁ、それともう1つ問題が挙がっておる。」

「第三王子であるユリウス殿下ですか?」

「そうだ。あの子は無理やり命を永らえさせているようなものだ。そう長くはあるまい。」

「では……。」

「うむ。私の血を受け継ぐ子はユリウスを除けばリュシュランだけだ。早急に保護せねばならない。だから少々強引な手を使っても構わん。とにかくリュシュランを見付けるのだ。」

「はっ。」

 ナイルズはすぐにリュシュラン王子を見かけたという街道近くの街へ聞き込みに向かった。
 だが、やはり何の足跡も無く見つからない。
 リュシュラン王子らしき黒髪を見たものは以前の情報から全くと言って良いほど出てこなかったのだ。
 ナイルズは焦った。
 リュシュラン王子以降新しい王子は生まれて居ない。
 それは、リュシュラン王子を失った王妃はあれ以降子を身篭ってもすぐに流産してしまっていた。
 後継の居ない状況で病弱である第三王子ユリウス殿下が亡くなればもはやリュシュランしか王の血を継ぐ者は居ない事になる。
 まさに国家の危機だ。
 このまま見つからなければ民の不安を煽る事になりかねない。
 だが、見つかっても黒髪の王子が民に受け入れられるかと言うと微妙なところなのだが…。
 不安をよぎるナイルズの馬と馬車がすれ違う。
 金の髪に青い瞳の少年が通り過ぎる馬をちらりと見たがその視線はすぐに戻される。
 ナイルズとシュラは互いにすれ違ったが気付くことは無かった。
 必死に探しているナイルズに気付かないまま通り過ぎたシュラは王都に向かっていた。
 ルイのかつては追放された街。
 変装が身に付いてきた彼らは今やシュラの魔法なしに姿を変える癖を付けていた。
 もちろんシュラが全員の位置を把握するために魔力を纏わせているのだがそれは伝達のためであり、纏わせている魔力はほんの僅かだ。
 あちらこちらを旅していた彼らは旅の一座の真似事をしながら進んでいた。
 宿ではシュラが吟遊詩人の真似事として笛や琴を披露した。
 街の広場ではオルグとイワンが剣舞を披露したり、罠師であるジャズはその技を駆使して手品のようなものを見世物にしたりしていた。
 ゲン爺は薬を売り歩き、フリットはたまに露天を開いた。
 ルイは情報収集としてあちらこちらの酒場を転々とする。
 黒狼盗賊団は夜の顔の他にそんな一面もいつの間にか持つようになっていた。
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