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第一章.美女と熊と北の山

6.薬を作るよ

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 一晩開けて、今日は、3人で薬草摘みだ。
 2人に仕事を休ませるのは心苦しいと言ったら、薬草摘みのついでにできるバイトを見つけてきた。ジョエルが害獣駆除で、キーリーが食肉の補給だ。簡単にお仕事を見つけてこれることが、すごく妬ましい。そのスペックを少し私に分けて欲しい。害獣を倒しては気持ち悪くなって倒れて、鳥を射っては気持ち悪くなって倒れるメンタルの弱さでは、能力があってもダメだけど! 
 だけど、獲物の運搬のお手伝いはしたよ。思いっきりよそ見して、手を獲物にくっつけてもらって回収するの。あれが体内にあるかもしれないって、すっごい気持ち悪いけど、便利なのは認めない訳にいかなかった。視界に入らなくなるだけで、価値がある!
 私は、運搬の仕事の間に薬草を見つけては、土ごと採取し、麻袋に植えて持ち帰る。一品種につきふた株と決めているので、それほど量は取れない。同じ場所同じ季節では、それほど多くの草は採取できないのだろう。種類も、基本的なのしか知らないしね。
 でも、初めての仕事らしい仕事だ。楽しい! 

「姉さん、上機嫌だな」
「ルルーとピクニックだからね。お前はいらないな」
「そう言うなよ。お前らが飯食ってる間、掃除してるし。シャルルに落ち着いて飯食わせたいだろ?」 
「キーリーは、必要な人材だ」
「だろう? それ、シャルル、ここらで飯だ。あっち向いてろ」 
 キーリーが、鳥をむしっている音がする。ブチブチっと言う音を聞くだけで、鳥肌が立つ。バーベキューは楽しみだけど、解体前のお肉は苦手だ。目を背けて人にやらせるなんて最悪だと思うけど、荷物の運搬と万が一の保険以外は遊んでろ、っていう人たちだから、甘えている。シャルルは、羽根をむしるのが好きだったらしい。散々ダメ出ししてたシャルルに負けた。そして、やっぱり私はシャルルじゃないんじゃないかと思った。私がシャルルじゃなかったら、2人は私をどうするだろう。。。 

「ルルー、どうした? 肉はしばらく放っておいて、弁当食おう。いっぱい熊が入ってるぞ」
 あの日、ジョエルはソロで熊を5頭狩ってきたそうだ。その後、ダコタを連れて七頭狩ってきた。村のみんなに大盤振る舞いしたけれど、まだまだ熊肉が余っている。熊肉好きキャラにされてしまった私は、毎食熊肉だ。食べられる物を捨てるなんて、自分が許せない。腐る前に食べ尽くそうと、お腹の限界に挑戦して食べているけれど、持ってくるダコタには、殺意を撒いている。今日は、鳥が楽しみだ。見たくはないけど、食べたい。楽しみだ。
「どうした?」
「ジョエル、熊好き?」
「好きでも嫌いでもないね。簡単に狩れるが、持ち帰りは重いし、かさばる」 
「そっかー。はい。あーん」
 了承は得ていないけど、無理矢理熊肉をジョエルの口にねじこんだ。嫌いじゃないなら食べて欲しい。ジョエルなら、私の3倍は食べれるハズだ。頑張れ!
「?! 急に何だい?」
「熊肉が、みるみるなくなる! 面白い!!」
 次々とジョエルの口に放り込み、あっという間に、私の弁当から熊がいなくなった。ナイス! また夜から頑張ろう。 
「ルルーの食べる分がないじゃないか。こっちのを食べるかい?」
 熊返しをされそうになったので、断固拒否する。
「うううん。朝食べすぎたから、お腹いっぱいで、いらないの」
 と言いつつ、解体終了したキーリーに肉をもらいに行く。こっち来るな、戻れ、と言われたけど、知らぬ。私は、鳥が食べたい。

 帰りは、キーリーが青い顔をして、ジョエルは投石で鳥狩りをしていた。このイケメンなんでもできるね。むかつく!


 さて、朝から熊カツサンドを食べたたら、創薬をするよ! 道具は、ひとまずダコタに借りた。そのうち、飽きなければ私用にキーリーが買ってくれるらしい。ちゃんとできて、売ることができたら返そう。ジョエルにも、少しずつ生活費を返済できるといいね。 

 どんどん薬草を増産して、干したり、刻んだり、すり潰したり。いいね、いいね、仕事してる感じがするね。すぐできる系の薬は、早速、ソーヤーさんのところへ持って行ったよ。 
「こんにちは。こないだ聞いた薬を作ってみたのだけど、見てもらってもいいですか?」
「あら、こんにちは。これは、傷薬かしらね? いっぱい作ったのねー。偉いわー」 
 張り切って見せにきたのはいいけれど、ソーヤーさんは、仕入れた物を売ってるだけで、薬の出来まではわからないらしい。そりゃそうだ。ここは、薬屋ではない。話し合いの結果、今日作った分は、サンプル配布して評判を聞いてみることにした。元手はほぼかかってないので、問題ない。容器だけは後ほど返却してもらうことにした。
「容器がすっごい問題なんですよー。中身の薬が安すぎて、売値がほぼ容器代なんです。容器が高すぎて、その薬にそんな額払えるか! って思うんですよ」
「そうね。容器は持って来てもらって移し替えるか、返却してくれたら返金するかかしらね? どうせ村の人しか買いに来ないし、どっちでもいいんじゃないかしら」
 おお! エコロジーだね。衛生面と面倒臭さのどっちを取るかは問題だけど、高価な薬を作れるようになるまでは、避けて通れない問題だよ。材料が村の中のその辺で取れる薬とか特にね。
 那砂時代を思えば、衛生面が1番大事だけど、私は、この世界の常識を知らない。勝手なことを言うより、よきにはからえを貫き通した方が良い気がする。折角のシャルルには接待プレイの村だしね。


 ジョエルと熊ステーキの夕飯を食べて、そのまままったりお茶をしてたら、キーリーが帰ってきた。何かに怒っている。
「シャル、お前、何やった?」
 何、そのざっくりした質問。まったく身に覚えがないね。 
「ジョエルと熊食べた。贅沢にも、お茶まで注文してごめんなさい?」
 キーリーが働いてる時間に遊んでたり、先にごはんを食べたりするのは、今に始まったことじゃない。ここ2日は、いい子にしてたよね? 
「もういい。来い」

 腕を掴まれて、キーリーの部屋に放りこまれた。後ろから、ジョエルが付いてくる。ジョエルまで怒り顔に変わってる。私、何したの?
 キーリーは仁王立ちしていて、ジョエルはイスに座って、膝に私を座らせた。何この状況。 
「店になんか持ってったろ?」
 そう言われて、ようやく話題に心当たりができた。 
「今日、創薬するって言ったよね? 宣言通り、部屋で大人しく創薬してさ。薬ができた分だけソーヤーさんとこ持ってったの。だけど、薬の出来なんて見てもわからないって言われちゃったから、置いてきて、誰かに使ってもらおうって」
 人体実験とも言う。効かないことはあっても、毒にはならない程度の自信はあったんですよ? なんと言っても、誰でも作れる大衆薬だし。だけど、怒っているからには、何か問題が発生したのかもしれない。使った誰かの皮膚がかぶれたとかだったら、大変申し訳ない。 
「同じの残ってるか?」
「作り途中の別の薬はあるけど、置いてきたのはないよ。全部、持って行ったから。だけど、あれはすぐできるから、作れば出せるよ」
「よし、じゃあ、俺の前で作って見せろ」

 キーリーが道具を借りて来て、ジョエルが薬草の植木鉢を持って来てくれたので、2人の監視の下、創薬をする。 
「これとこれとこれ、薬草を増やすでしょ。増えたとこむしるでしょ。量を測って。これは刻んで、こっちはすり潰して、殻捨てて、水を足して練って、ぐるぐるしたら、でっきあっがりー。はい」
 できた薬をキーリーに進呈する。1番簡単傷薬だ。何の問題もなく、間違えてないハズだ。
「今日初めてやったにしちゃー、手慣れてるな」
「作り方は、間違えてないね」
 キーリーの言葉にギクリとし、ジョエルの言葉にイラッとする。知ってたのに、教えてくれなかったのか! 
「で、これが何だ?」
「ちょっと待ってろ」
 キーリーは、いきなり短刀を抜いて、自分の腕を切った。 
「ひぃいぃ」
 私は、イスごとひっくり返りそうになったけど、ジョエルが止めてくれた。私は助かったけれど、キーリーの腕が腕が! 
「うるせぇな。ケガしてなきゃ、試せねぇだろうよ」 
 キーリーは、ガッと薬を取って、傷の上に雑に塗った。すると。
「傷が消えたな」 
「マジだったか」 
 2人は、驚いてるみたいだけど、傷薬で傷が治って良かったじゃないの。わざわざ傷を作ったりして、治らなかったら困ったところだ。期待ハズレの薬だって、八つ当たりされなくて良かった。 
「あのな。これ、本来なら『ちょっと痛みが引いた気がするー』とか『塗っとくと、治りが早いらしいよ』とか『跡が残りませんように』くらいの薬効だからな? 立ち所に治るの、おかしいからな?」 
「すぐに治る薬もあるけれど、別の薬だね」 
 なるほど、それは失敗作だね。折角教えてもらったのに、教えの通りに作れなかったとは。
「だけど、作り方は合っていたよ?」 
「いや、後半に問題はないだろうが、薬草の成長促進魔法を使うのは、一般的じゃない。俺も作ってみるから、薬草増やせ」 
 私が薬草を増やしたら、むしるところからは、キーリーが担当して創薬した。また短刀で傷を付けて、私が倒れるまでがワンセットなので、あらかじめベッドで倒れてたら、ジョエルが睨んでくる。何故だ。手間が省けて、合理的じゃないか。
「当たりか。傷が消えたね。成長促進で与えられた魔力で効き目が上がるのかもしれないね」 
「ああ。体感だと、さっきより治りが悪い気がするから、他にも何か違うのかもしれないが、本人に聞いてもわからないだろう」
 おおう。安定の信頼感のなさよ。でも、そっかー、薬草の成長促進なしで作るのは、大変だなぁ。1人で村から出たら、怒られるし。創薬も、ボツにしないといけないのか。。。
「傷薬の販売は不可だ! だが、特級傷薬の販売は許可する。他の薬は、別途相談だ。俺が試すまで待て」
「いやいやいや、ちょっと待って。自分の薬は、自分で試すよ! なんでキーリーが」 
「そうだ。わたしだって、やるよ。お前ばっかりズルいだろう」 
 それぞれキーリーの決定に噛みついたけど、失笑まじりに完全否定された。 
「お前ら、阿呆か。冷静になれ。
 まず、シャルル。お前は、女だ。副作用で、どうにかなっても俺は別に構わんが、ジョエルは憤死するだろう。しかも、これが1番重要だが、お前が試して大丈夫だと言ったところで、信頼する人間は誰もいない。少なくとも、この村には1人もいない! 
 次に、ジョエル。お前は、うちの大事な美形担当だ。力のあるお前なら、気軽に色仕掛けに放り込めるのに、傷物になって使えなくなってみろ。俺はお前の目を盗んで、シャルルを投入するからな。まず間違いなく、大惨事になるぞ!
 その点、俺は顔じゃ売ってないし、傷ができても原因を作ったシャルル以外、誰も気にしないだろう。最悪、再起不能になっても、シャルルが泣けばジョエルが食わせてくれる。何の問題もない。むしろ遊んで暮らしたい! それに、ヤバそうな薬は、そもそも試さない」
 私もジョエルも、フリーズした。酷い言われ様だ。誰にも信じてもらえない上に、色仕掛けで大惨事を起こすって。 
「そりゃあ、私は不細工で、色仕掛けに投入しても誰も引っかからないだろうけど。。。」
「そんなことない!」
「そうだぞー、バカだなー、ここに引っかかってるの2人いるからなー。他にも村中いるからなー。退治されてるだけで」 
「魔法使いだからでしょう?」 
「違うぞ。その髪の色だ。漆黒は何にも勝る最上の色だ。美形にも勝つらしいぞ? 俺は、女なら何でもいいから、よくわからんが」
 実は、シャルルの顔は、まだ遠目に映ってるのを見たことしかない。だから、ふんわりとしか知らないんだけど、長い髪が黒いのは知っている。以前の髪に色も長さも近くて、大して気にも留めてなかったが。 
「髪が黒いと、不細工でもジョエルより上なの?!」
「「一般的には」」 
「マジか!」 
「だから、誘拐にはくれぐれも気をつけろ、と言っているんだよ」 
 生活に支障をきたすイケメンより上だなんて、シャルルすごいな。お姫様待遇で、誰も疑問を持ってなかったのは、黒髪美人だったからなのか? モテてる気配は微塵も感じなかったけど、きっと皆に中身がバレてるからなのだろう。そうか。知らなかった!
「じゃあ、創薬は諦めるね。手伝ってもらって、申し訳ないけど」 
 また仕事を1から探すのは痛いけれど、別に何が何でも創薬がしたかった訳ではない。何ができるか見当もつかないけれど、キーリーを実験台にしないでできる仕事も何かあるハズだ。 
「ダメだ。作れ。俺が欲しいから」 
「そうだね。キーリーにもしものことがあったら、むしろ万々歳じゃないか。2人で立派な墓を用意してやろう。墓代は任せてくれていい」 
 何か、不穏な話が聞こえた気がする。ジョエルは、キラキラしい満面の笑みを浮かべているから、きっと聞き間違いだろう。絶対、そうだ。 
「作ってもいいのかな」
「すぐ治る傷薬は、あったら皆助かるだろう」
「やりたいことを言ってくれたら、何でも実現させよう」
「ありがとう。ありがとう」
 私は、大泣きして、大泣きして、泣きに泣いて、いつの間にか寝てしまった。
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