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第四章.愛する私のシャルルへ

47.冒険屋へ

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「折角、こんな世界に住んでるんだから、冒険してみたいなぁ」
 ごりごりごりごり。謎の木の実をすり潰すのに飽きあきして、うっかり呟いた一言が拾われてしまった。 
「冒険って何だ?」
「冒険者が何言ってんですか」
 あぁ、みんな暇だもんね。 
 毛染め剤の発注が止まらないのに、弟子に逃げられてしまったので、皆で頑張って作っているのだが、地味な作業の連続に飽ききっていた。人海戦術でやって、弟子1人の仕事の早さに太刀打ちできてない。流石、凄腕薬師。私は何を習っていたのか。 
「手に汗握る冒険みたいなのに、憧れるよね」 
「うちは、無理じゃね?」
「ジョエルさんが、いますからね」 
 そうか。何の準備もなしに、急に出てきたドラゴンとソロでガチ喧嘩するような男がいて、なんの危険があるというのか。とんでも罠もお荷物抱えて余裕で避けてたもんね。 
「ジョエルより私の方が強い、って設定なかった?」 
「ジョエルも万能じゃないからな。あいつも苦手はあるんだよ」
「見てみたい!」 
「相変わらずだな」 
「もう毛染め剤飽きたんだよー」
「「わかる」」 


「やって来ました。海ー!!」 
 冒険は意味わかんないけど、遊びに連れて行ってやると海に連れてきてもらいました。山に行ったらドラゴンが出るから、海がいいんだって。
「やっば、きれーい」 
 海なんか行って、どうするの? って思ってたけど、水が超キレイで、それを見るだけで感動したよ。考えてみればそりゃそうだなんだけど、工業の発達してないこの世界の海の水質はいいハズだ。最寄りの海街に来ただけなのに、南の島にきたみたいな海色だ。水の色が、本当に碧い。どれだけ深いかわからないけど、底まで見えるのだ。透明度が尋常ではない。 
 街は、白壁と橙屋根の建物で統一され、とても可愛いのだが、これはアレだ。温泉街の迷子再びだ。気をつけないといけない。 
「ルルーは、海好きだったんだね」
 なんとびっくり、今日のジョエルは男装だ。王子様だ。海に行くなら、仕方がないから男になるわ、と言っていた。何が仕方がないのかは、わからない。
「別に、海好きじゃないよ。潮干狩りと釣りはしたいけど、海好きじゃないよ。日本の海は、こんなにキレイじゃないんだよ」 
 一部、海のキレイな地域もあったと思うが、行ったことないから、知らん! 
「ただの海だと思うけどね」
 そして、トリトリ先生もついてきた。青白い肌が、とても海に似合わない。いや、これはブーメランだ。言うのは、やめよう。
「不満があるなら、ついてくんな」
「不満ではない。発見を探しているだけだ」 
「そうだよ、キーリー。意地悪言わないの。先生は嫁探しに来てるんだから。村に置いてくるより、海に置いて帰る方がいいでしょ?」
 村には、女の子いないんだからさ。
「「それは、一理ある」」 
「一緒に戻る予定だよ?」 

 今日の宿は、一軒家を丸ごと借りきった貸別荘だ。広い庭までついている。那砂時代には、想像もつかない世界だ! 
「何これ。すっご! 贅沢!! こんなことして、いいの?」 
「心配はいらない。財布に仕事をさせただけだ。自称金持ちを干上がらせて、さっさと帰って頂く作戦だから」
「この程度で干上がってしまう金持ちなど、いないよ」 
「全財産を使い切ることは、想定していない。手持ちが尽きれば、帰るしかないだろう? それを期待しているんだよ」 
 金目の物があっても、あの村じゃ売れないし、銀行もないもんね。金持ちには困る村だよね。
「ここで嫁が見つかるから、帰るでしょ? イケメンで金持ちで魔法使いの先生は、女の子にモテモテなんだよ。即、女の子に囲まれて終了だよ。おめでとー」
「一番きつい!」 
「だから、こいつは無理なんだって。いい加減、諦めろよ」 


「よし、シャル出掛けんぞ。付いて来い!」
 宿で一服後、出ることになった。まだ日が高いのだ。 
「どこに行くんだ?」 
「シャルが前に行きたがっていた、血湧き肉躍る冒険だ! 冒険屋に行く」
「それは、随分となつかしいなー」
 血湧き肉躍る? そんなこと言ったかなぁ? 
「何それ」 
 慌てて靴を履き、ついていく。 
「元々ある洞窟を利用したり、専用の建物を作ったり、形態はイロイロなんだがな。そこに宝箱を置いたり、魔獣を放ったりしてダンジョン風に仕上げてあんだよ。そこに、主に子どもが棒切れ持って突撃して、遊ぶ訳だ」 
「子どもでも特に問題ないような魔獣しか出てこないから、ルルーでも心配いらないよ」
 遊園地のアトラクションみたいなものだろうか? 冒険はしたいけど、痛い目をみたい訳じゃないから、手頃かもしれないね。 

「おー、多分、アレだ」 
 30分ほど歩いて、到着だ。今回は、ちゃんと1人で歩いて来れたからね。着実に体力は向上している! 
「洞窟だねー」
 ドラゴン洞窟通路並みに大きな入り口の前に、テントが張ってある。あれが受付なのだろう。子どもが数人わちゃわちゃしているが、混雑はしていなかった。
「5人だ。入れるか?」 
 子どもたちは賑やかしのようだったので、受付をすることにした。受付は、茶色いおじさん2人だ。 
「1人5000だ。まけられない」
「ちょっと待て。1人500って書いてあんだろ。なんで10倍だ」 
「それは、子ども料金だ。同じ値段で、そこのガタイのいいお兄さんを入れる訳にはいかないな」
 ああ、今日に限って、ジョエルが男装してるから。キーリーや先生は見た目普通だけど、ジョエルは帯剣してるもんね。ヤバいよね。 
「ただの見学の予定だったけど。どうせ開けても宝箱の中身は、お菓子だろう? 25000払って、元が取れるような何かがあるのかな?」
 そうだねー。25000も稼ぐなんて、毛染め剤何個作ればいいんだよ! ん? 3つも作れば楽勝だな。とんでも価格にしすぎたな! 
「宝箱には、確かにたいしたものは入っていないが、今はスタンプラリーをやっている。スタンプを8つ集めてくれば、この! 海の雫をプレゼント中だ」 
 こぶし大の青い宝石が出てきた。高そうだが、価値は不明だ。 
「なるほど、宝石の贋物をくれる訳だね?」 
 金持ち先生は、宝石の真贋もわかるのか。さすが、金持ちだ。 
「違う! これは、レプリカだ。本物は、テントなんかに置いておけないが、ちゃんとあるから! スタンプ貯めたら、持ってくるから」
 入り口でゴネたら、営業妨害だよねー。わかるー。料金10倍にしなきゃ良かったんだと思うよ。私以外に、やる気のあるメンツはいなかったのだから。 
「まぁいい。金はオレが払おう。折角来たんだ、入ろうじゃないか」 
「金は全額お前持ちでも、拾ったアイテムは、平等にシャルの全取りだからな? 文句を言うなよ」 
「勿論だよ。お嬢さんのために来た場所だろう」 
 私の全取りのどこが平等なのかわからないが、中に入ることに決まった。
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