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第四章.愛する私のシャルルへ

48.おとなげない大人たち

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「兄ちゃんたちー。中に宝剣もあるんだぜー。取ったら見せてくれよなー」 
 なんて子どもたちに声をかけられながら、中に入る。
 天然の海そばの洞窟は、大変滑りやすい。私は、一回転んだだけでへこたれて、ジョエルにしがみついている。なんで皆は転ばないで歩けるの? 
「睨むなよ。悪かったよ。気付かなくて。お前の装備が、完全室内向けなんだよ。靴だけでも買ってからくれば良かったな」
「靴が違ったのか!」 
「靴だけじゃないだろ。そんなひらひらレースだらけのスカート履いてる冒険者は、お前くらいだ」
「いいじゃないか、可愛いんだから。どうせ靴を揃えても、ルルーの筋力じゃ、1人で歩くのは無理だよ」 
 どうせ抱えて歩くなら、可愛い格好の方がいいと、言い切られてしまった。
 あまり自分の格好に頓着する方ではないが、この服装に疑問を抱いたことはある。何故TPO関係なしに、いつでもひらひらしてるのかと。だが、今回理解した。ただのジョエルの趣味だったのか。てっきり、この世界のルールなんだと思ってたのに。そうとわかれば、ひらひらも緑も卒業してやる! 
「ジョエルめー」 


「お約束だなー。見えるけど、取れない宝箱見つけたぞ」 
 高い天井で、上の方にワンフロアあるのが見える。その端に、これ見よがしにカラフルな宝箱が置いてあった。
「よし、ジョエル投げろ」 
 私は、先生とタケルのところに下がると、ジョエルがキーリーを投げた! 3階くらいの高さがあったのに、危なげなく着地する。さくさく宝箱を開けて、中身を取り出すと、 
「スタンプ1個目あったぞー! ロだ。ロ!!」
 そうして、キーリーは飛び降りて戻ってきた。ジョエルがキャッチしたので、無傷だ。この人たちは、子ども向け施設で何をやってるのだろうか。
 そういえば、先生も、ずっとぶつぶつ何か呟いていて、怖い。まるで、お経か呪文のようだ。え? 呪文? 
「ご苦労。この部屋には、もう何もない。次へ行くぞ。制限時間があると言っていた。お嬢さんには申し訳ないが、全力であたらせてもらおう。必要ならば、2巡目の入場料を支払うので、許しておくれ」 
 え? 子ども向け施設だよ? 何言ってるの??? 
「次の部屋には、モンスターハウスがある。モンスターにスタンプが付いているから、捕らえてくれ。目標は、3匹だ」 
 何故、わかる? ネタバレ? 調査済み?
「よし、俺とジョエルとタケルで1匹ずつだ。一撃で行くぞ」 
「大人料金を払ったんだから、仕方ないな」 
「あぁ、魔法は大人の嗜みだ。腕力だけが全てじゃない」
 そうか。受付のおじさんは、いらんスイッチを押してしまったんだな。希代の魔法使いとチート剣士と意地悪狩人とオマケの魔獣の洗礼だ。もう諦めるしかない。

 次の部屋には、角ウサギがいっぱいいた。子どもでも安全な小型魔獣だ。可愛いらしいのが数えられないほどいっぱいいるが、先生の所為で、どの子にスタンプが付いているのか、ネタは上がっている。巣穴に隠れてた子まで、タケルが猫化して引きずり出してきた。この人たちに、死角はない。 
「メ、ノ、ミだな。なんだこれ?」
「並べ替えたら、言葉ができるんじゃないか?」
「ウミノシズクかな?」
「8文字だから違うだろ。答え、先生は知ってるんだろ?」 
「ああ、とても美しいものだよ」 

「次の部屋には、聖樹と聖剣がある。聖剣は、オレが抜こう。聖樹の上のスタンプは、任せる。お嬢さんには、宝箱を開けてもらおうかな」
 ここまでも一本道ではなかった。子どもが困らない程度のヤル気のない迷路になっていたのだが、時間がもったいないと、1度も引っかからず、ゴールに直進している。とても可愛げのない客なのだった。 
「聖剣なら、わたしが抜こうか? 昔、何本か抜いたことがあるが、なかなか固いぞ?」 
「いや、コンクリートで固められているから、オレが魔法で抜いた方が早い。聖剣の下の方にスタンプがついているから、力技で抜いてスタンプが割れると面倒だ。割れたところで、魔法で直せるだろうがな」 
 なんか聞いてはいけないことを聞いてしまった。コンクリで固めた剣なんて、子どもじゃ抜けないじゃん。その先にスタンプが付いてるとか、もう無理じゃん。あこぎ!
 キーリーが、聖樹にするすると上っていき、先生が剣を抜く間、私の仕事は、宝箱を開けることだ。タケルと行って、フタを開けると黒猫の小さなぬいぐるみが出てきた。タケルだ! 
 先生のところに戻ると、スタンプは2つ増えていた。 
「オとカだ」 

「マズイ。スタンプが移動を始めた。ダンジョンの外に持ち出される前に押さえるぞ」
 余裕綽々だった先生の顔が、顰められた。 
「ジョエル君は、オレとお嬢さんを抱えて、あちらに走れ。キーリー君は、タケル君と向こうだ。詳しくは、タケル君を通して伝える。走れ!」
 先生は、時折ジョエルに指示を出しつつ、ずっと呪文を呟いている。すごい早口なのに、まったく噛まない。魔法使いって、すごいね。
 馬より速いジョエルは、洞窟の地面が滑ることを利用して、滑りながら進んでいく。こんな地面は走るのに向いていない。先生の指示で、のろのろと走っていたおじさんを捕まえた。 
「スタンプを出してもらおうか」
「し、しらないっ。ダンジョン内を清掃していただけだ!」
「知らないなら、これは君の物ではないね」
 先生は、おじさんの上着のポケットからスタンプを取り出した。
 しばらく待つと、キーリーとタケルもおじさん付きでやってきた。スタンプは、集まった。 
「トとクだ」
「全部揃ったな。入り口に戻ろう」
 このパーティでは、手に汗にぎる冒険が如何に無理難題かを思い知らされた。戦闘だけでなく、謎解き要素も楽しむ余地がなかった。 


「これは、スタンプを集めてゴールじゃないんだ。並び替えて、意味のある言葉を作って、その実物を持ってこないといけないんだぞ! どうだ、できるか?!」
 ゴールに来てから、新ルールが追加された。このおじさんたち、ダメな人だ。 
「言葉? ロ、メ、ノ、ミ、オ、カ、ト、ク?」
「先生、答えは?」 
「とても美しいものだ。黒髪の乙女だよ」
「なんだよ、それ。どこにいるんだよ。無理ゲーじゃねぇか!」 
 賑やかしの少年にまで、ダメ出しされてるよ。こちらも大概だったけど、おじさんたちの大人気のなさも半端ないね。
「そんなことはない。この美しい宝石は、黒髪の乙女にこそ相応しい。黒髪の乙女に捧げるために始めたゲームだ。これは譲れない!」
「じゃあ、何の文句もないな?」
 私のフードが、誰かに取られてしまった。黒髪には違いないが、私が乙女でいいのだろうか? しゃべらなければ、バレないだろうか?
 おじさんたちは、泣く泣く海の雫と海の雫のレプリカを私にくれた。あまりに落ち込んでいるので、先生に慰められていた。
「追加で10万寄付しよう。適当に目玉商品を見繕ってきたまえ。次は、フェアな勝負をするんだよ」
 キーリーは、宝剣を見せびらかして、子どもたちのヒーローになっていた。 
「お前ら、この姉ちゃんのことは、秘密だぞ。人に話す時は、茶色の髪のブサイク女だったって言えよ。約束だからな」
 えぇえぇ、ブサイクですとも。


 帰り道、いろんな物を先生の奢りで買い漁ったので、夕食は庭でバーベキューだ。事前の仕込みもなく、弟子の手伝いもなくやるのは面倒だったのだが、 
「ジョエルに食わせてやりたいって、練習してたよな?」
 と言われて、断れなかった。そんなことしてた記憶はないんだけど。 
 しかし、事前準備の時間がないのは、本当に痛い。漬け込みができない。男どもの食いっぷりが良すぎて、串打ちすら面倒になって、もう右から左に焼くだけだ。焼肉ソースだけは大量生産したので、勝手にやって欲しい。自分の分も、チーズが乗ってりゃご馳走理論で適当に済ませた。食後の焼きリンゴのことばかり考えていたからね。
 先日、薬の材料の中に、シナモンっぽい謎の木の実の粉末を見つけたのだ。それと、レーズンを仕込んで焼いた。自分たちだけ酒を飲んでるヤツになど、分けてやらぬ。
 私は、向こうでは成人してたんだ。こちらの年齢も、みんなと大して変わらない。私だけ飲んじゃダメって、どうしてだ!
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