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第九章.これはハッピーエンドですか?

103.ジョエルとシャルルの秘密の話

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 ジョエルとシャルルが、大事な話があるとやってきたので、シュバルツの家の部屋を借りて、話を聞くことにした。大事な話なら、他の誰かも巻き込みたかったのだが、繊細な話を含むからダメだと言われ、龍の力を使って、厳重に聞き耳対策をしてから聞くようにお願いされた。龍の力を使うのは構わないが、そんな大事な話は聞きたくない。聞く勇気がない。
「えーと、音漏れ対策はしたけど、話って何かな。本当に、話す相手は、私でいいのかな」
 確かに、生きてきた年数だけなら年長者なのだが、あちらでは勉強とバイトしかしてこなかったし、こちらでは一般常識に事欠く状態だ。なんで、私を話し相手に選んだのやら、心当たりがない。
「ルルーは、わたしとシャルルの結婚を決めたけれど、わたしたちは、結婚する意思がないことを伝えたかったんだよ」
 ジョエルの言葉に驚いた。
「なんで!」
「なんでも何も、シャルルは妹だから。大切だし、大好きだけど、ルルーだって御形と結婚しようとは思わないだろう?
 それに、シャルルも今やっと教育を受けて、自分の足で立ちあがろうとし始めたところだ。今、将来を決めてしまうなんて、可哀想だ。
 今までと同様、生活資金の保障はする。生涯面倒をみても構わない。シャルルが、本気でわたしと結婚したいというなら、受け入れる覚悟はある。それでも、現段階での結婚はない」
「そうなんだ」
 言われてみれば、どこかに薄っすらと「姉と呼んで欲しい」とかいうフレーズがこぼれていた。意味がわからないから夢だと思っていたが、リアルだったのか。なんて残念なリアルだ。
 しきりにシャルルが首肯いているから、合意の上なのだろう。それならば、私が言うことは何もない。15歳までに結婚させなきゃいけないの?! と慌てて間に合わそうとしたとか、ジョエルに問題を押し付けたとか、そういう話だったのだ。シャルルが嫌だと言うなら、やめて正解だ。
「ジョエルにあげようと、こっそり指輪を作ったのに。どうする? 妹へのプレゼントにしとく?」
 シャルルが前に気に入ったと言っていた、ロードクロサイトの指輪をジョエルに見せた。私の残念なんて、この程度だ。
「ルルーからのプレゼントにすれば、いいんじゃないかな。わたしがプレゼントするなら、自分で用意するよ」
「そっか。それもそうだね。少なくとも、本人の前で言ったらナシだね。シャルル、もらってくれるかな」
「ありがとう。嬉しい。大切にする」

「そういう訳だからさ。ルルーも、キーリーと結婚する必要はないよね?」
「え? なんで?」
 話は終わったと思って、油断をしていた。どこで何の話と繋がっているのか、まったくわからなかった。
「わたしとシャルルが結婚するから、ルルーはキーリーと結婚しなくちゃいけないことになったんだろう?」
「そうなのかな? なんか最近、キーリーが病んじゃって、話がよくわからなくなってるんだよね。私の夢がキーリーと結婚することなんだって、聞いたような気がするんだけど」
「ルルーの夢は、弟妹を笑顔にすることじゃなかったの?」
「!! そうだよ。それだよ。弟妹の結婚式に出たいんであって、私の結婚なんて、どうでもいいんだよ! あれ? 御形が、キーリーの弟になりたいんだったかな? もう情報過多で、訳わかんないんだよ」
 キーリーとシュバルツに顔を合わせる度に、いろんなことを吹き込まれすぎて、真実がなんだったのか、よくわからなくなってきている。2人が病んでいることはわかるのだが、弁では敵わないので困っていた。

「あのね。私ね。キーリーのことが、気になっているの。口が悪いから嫌いだったんだけど、優しい人だって気付いたの。だから、結婚しないで欲しいの」
 シャルルの顔が赤い。その上、涙目だ。本気のやつだ!
「ま、じ、か! キーリーすっごい喜ぶよ。病気治っちゃうよ。ちょっと待って、呼んでくる」
「だめ! だめなの。キーリーには、絶対に言わないで!」
「なんで?」
 シャルルとキーリーで大団円でも、私は一向に構わない。キーリーがあぶれるより、ジョエルが姉として残る方が幸せみも高くて、いいんじゃなかろうか。
「シュバルツ先生のことも、いいなって思ってるの。どっちが1番か決めきれてないから、どっちにも言わないで欲しいの」
「えーーーーー!」
 シャルルが、ぷるぷるしている。何これ、可愛い!  まさかの二股発言。確かに、それは言いにくい。でも、だからこそめちゃくちゃリアルっぽい。
「そっかぁ。私的には、一押しがジョエルで、二押しがシュバルツだよ。女癖が悪くてもいいなら、シュバルツ一択だよ。あんな便利魔人、他にはいないよ。でも、キーリーも悪いヤツじゃないよ。シャルルへの想いだけなら、突き抜けてるよ。だから、誰でもいいと思うよ。応援するよ」
 まさかの展開にびっくりはしたが、どっちに走ってくれても、私は問題ない。シュバルツの女癖の悪さだけは気になるが、アレは私にどうにかできる問題ではない。どうしようもない。
「時間が欲しいの」
「まだ身体を入れ替える魔法が見当もつかないから、ごゆっくりどうぞ。誰が良くても、入れ替わるまでは、イチャイチャ禁止だから」
「よく考える。ありがとう」
 妹分の笑顔は格別のご褒美のハズなのに、自分の顔だっていうのが、微妙だ。
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