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生贄<サイラス視点>
生贄3
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「サイラス、あの娘、処女だったよ」
「……ルーファ様……?」
明け方の執務室でスリヤ姫とアーサーの動向を諜報部に見張らせながらスリヤ姫の不貞の証拠を集める作業をしていた私は思いがけないルーファ様の言葉を聞いた。
「まさか……嘘ですよね? ルーファ様に限って……」
身代わりの娘をルーファ様が犯して抱いたという……。私にはその言葉が到底信じられなかった。
しかもルーファ様は身代わりの娘をそのまま妃にすると言う。
「いいですか、決して妊娠させるようなことのないように。部屋から一歩も出さない様にしてください」
私はルーファ様にそう約束させた。その言葉でルーファ様が安心したような息を吐く。どうやら相当リラという娘を気に入ったようだった。娘には悪いがこのまま、監禁して様子を見なければなるまい。とにかく事実を確認することが先決だ。機嫌よく部屋を出て行くルーファ様を見送ってから、初夜の寝室の見届け人を訪ねた。
「オルガ、いるか?」
「サイラス様……ここに」
隠し通路を通り、城の奥にある隠し部屋にいるオルガを訪ねた。七十を過ぎたこの初老の女性は代々の見届け人で、その存在は隠されている。王の側近となるものにだけに明かされている秘密の存在だ。ルーファ様にも存在は知らされていない王家の血筋を守りし一族。何事もなければ寝所での秘密は墓に持っていくことになっている。
「昨夜ルーファ様が寝室にいた娘と契ったのは本当か?」
「はい…。サイラス様」
そう言ってオルガは破瓜の証の付いたシーツを差し出した。
「オルガ、初めての時はこんなにも出血するものなのか?」
「……。いいえ、サイラス様。ルーファ様はあまりお気遣いされることなく……。泣き叫ぶスリヤを語る女性に三度、気を失ってからも一度射精されたようです」
「娘は誘っていたのか?」
「……幾度もやめてください、子が出来るからとルーファ様に懇願されていました」
オルガの話を聞いても現実味がない。本当にルーファ王子はリラという娘を何度も犯したというのか……。
「サイラス様。ルーファ様より五代前の王の話をご存知でしょうか」
「ウラガオスの父とまで言われた賢王クルド様か」
「はい。クルド王は国土を広げた賢王としても有名ですが王妃を溺愛したことでも有名です。が、私たちの口伝では秘密裏に受け継がれている話があります」
「……」
「クルド王は王妃を監禁し、外に出さず、囲っておられました。夜は執拗に王妃を攻めたて、精神的に追い詰められた王妃が逃げようとした時、両足を切り落としています。狂愛ともいえる執着心であったといいます。」
「ルーファ様もそうなると?」
「いえ……。私のようなものが意見することではありません。ですが……あのように激しいルーファ様を見たのは初めてです。王妃が亡くなり、クルド王は悲しみのあまり亡くなったとされていますが……亡くなった王妃の腹を引き裂いて頭を入れた状態でクルド王が自殺したことは口伝でしか伝承されていません。」
「……」
その壮絶な死に言葉がない。オルガは真っ直ぐに私を見て言葉を続けた。
「ここからは私の独り言です。サイラス様。
自己を殺して生きる王は献身的に国に仕えるがゆえに皆に称えられるのかもしれません。クルド王も……ルーファ様もこの国を第一に考えて生きてきたように思います。私たちは自分たちの安定の為に王を称え、犠牲にしているのです。クルド王を『魔物』にしたのは私たちなのです。そして、ルーファ様もその道を辿ろうとしている。サイラス様、ルーファ様を『魔物』にしてはいけません。私たちの私欲の為にもルーファ様には長らく生きてもらわなければならないのです。」
「どうしろと……」
「あの娘はルーファ様への供物です。あの娘がルーファ様だけを望み、ルーファ様だけを愛するようになればルーファ様は狂うことは無いでしょう」
「それが出来ると?」
「出来る出来ないではありません。出来なくてはならないのです」
***
私はオルガの話を自分の中でどう処理するか考えあぐねていた。突然のルーファ様の行動、五代前のクルド王の話……。一旦話を整理して考えようとオルガの元を離れ、執務室に向かった。
私の中に疑念があった。それに、あのスリヤ姫のメイドが、例え清らかな身体であったとしてもルーファ様にふさわしいとは思わなかった。一時の気の迷いというものもある。衝動的にルーファ様が行動してしまっただけかもしれない。何日か経ったら、状況も変わるかもしれないと思っていた。
しかし、数日経ってもルーファ様は毎日のようにリラの元に通った。それどころかルーファ様はリラの部屋を訪れるものには食事係でさえ嫌悪を示した。一度、廊下まで逃げたリラはかわいそうなくらいルーファ様に攻めたてられ、適度に衰弱するように薬を盛られていた。
状況は悪化している。
ルーファ様は益々娘に執着している。自覚している様子はないが異常性を感じていた。
そして、私はふと見上げた王城のにある肖像画に衝撃を受ける。
王家特有の漆黒の髪のクルド王の瞳は
紫色で描かれていた。
「……ルーファ様……?」
明け方の執務室でスリヤ姫とアーサーの動向を諜報部に見張らせながらスリヤ姫の不貞の証拠を集める作業をしていた私は思いがけないルーファ様の言葉を聞いた。
「まさか……嘘ですよね? ルーファ様に限って……」
身代わりの娘をルーファ様が犯して抱いたという……。私にはその言葉が到底信じられなかった。
しかもルーファ様は身代わりの娘をそのまま妃にすると言う。
「いいですか、決して妊娠させるようなことのないように。部屋から一歩も出さない様にしてください」
私はルーファ様にそう約束させた。その言葉でルーファ様が安心したような息を吐く。どうやら相当リラという娘を気に入ったようだった。娘には悪いがこのまま、監禁して様子を見なければなるまい。とにかく事実を確認することが先決だ。機嫌よく部屋を出て行くルーファ様を見送ってから、初夜の寝室の見届け人を訪ねた。
「オルガ、いるか?」
「サイラス様……ここに」
隠し通路を通り、城の奥にある隠し部屋にいるオルガを訪ねた。七十を過ぎたこの初老の女性は代々の見届け人で、その存在は隠されている。王の側近となるものにだけに明かされている秘密の存在だ。ルーファ様にも存在は知らされていない王家の血筋を守りし一族。何事もなければ寝所での秘密は墓に持っていくことになっている。
「昨夜ルーファ様が寝室にいた娘と契ったのは本当か?」
「はい…。サイラス様」
そう言ってオルガは破瓜の証の付いたシーツを差し出した。
「オルガ、初めての時はこんなにも出血するものなのか?」
「……。いいえ、サイラス様。ルーファ様はあまりお気遣いされることなく……。泣き叫ぶスリヤを語る女性に三度、気を失ってからも一度射精されたようです」
「娘は誘っていたのか?」
「……幾度もやめてください、子が出来るからとルーファ様に懇願されていました」
オルガの話を聞いても現実味がない。本当にルーファ王子はリラという娘を何度も犯したというのか……。
「サイラス様。ルーファ様より五代前の王の話をご存知でしょうか」
「ウラガオスの父とまで言われた賢王クルド様か」
「はい。クルド王は国土を広げた賢王としても有名ですが王妃を溺愛したことでも有名です。が、私たちの口伝では秘密裏に受け継がれている話があります」
「……」
「クルド王は王妃を監禁し、外に出さず、囲っておられました。夜は執拗に王妃を攻めたて、精神的に追い詰められた王妃が逃げようとした時、両足を切り落としています。狂愛ともいえる執着心であったといいます。」
「ルーファ様もそうなると?」
「いえ……。私のようなものが意見することではありません。ですが……あのように激しいルーファ様を見たのは初めてです。王妃が亡くなり、クルド王は悲しみのあまり亡くなったとされていますが……亡くなった王妃の腹を引き裂いて頭を入れた状態でクルド王が自殺したことは口伝でしか伝承されていません。」
「……」
その壮絶な死に言葉がない。オルガは真っ直ぐに私を見て言葉を続けた。
「ここからは私の独り言です。サイラス様。
自己を殺して生きる王は献身的に国に仕えるがゆえに皆に称えられるのかもしれません。クルド王も……ルーファ様もこの国を第一に考えて生きてきたように思います。私たちは自分たちの安定の為に王を称え、犠牲にしているのです。クルド王を『魔物』にしたのは私たちなのです。そして、ルーファ様もその道を辿ろうとしている。サイラス様、ルーファ様を『魔物』にしてはいけません。私たちの私欲の為にもルーファ様には長らく生きてもらわなければならないのです。」
「どうしろと……」
「あの娘はルーファ様への供物です。あの娘がルーファ様だけを望み、ルーファ様だけを愛するようになればルーファ様は狂うことは無いでしょう」
「それが出来ると?」
「出来る出来ないではありません。出来なくてはならないのです」
***
私はオルガの話を自分の中でどう処理するか考えあぐねていた。突然のルーファ様の行動、五代前のクルド王の話……。一旦話を整理して考えようとオルガの元を離れ、執務室に向かった。
私の中に疑念があった。それに、あのスリヤ姫のメイドが、例え清らかな身体であったとしてもルーファ様にふさわしいとは思わなかった。一時の気の迷いというものもある。衝動的にルーファ様が行動してしまっただけかもしれない。何日か経ったら、状況も変わるかもしれないと思っていた。
しかし、数日経ってもルーファ様は毎日のようにリラの元に通った。それどころかルーファ様はリラの部屋を訪れるものには食事係でさえ嫌悪を示した。一度、廊下まで逃げたリラはかわいそうなくらいルーファ様に攻めたてられ、適度に衰弱するように薬を盛られていた。
状況は悪化している。
ルーファ様は益々娘に執着している。自覚している様子はないが異常性を感じていた。
そして、私はふと見上げた王城のにある肖像画に衝撃を受ける。
王家特有の漆黒の髪のクルド王の瞳は
紫色で描かれていた。
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