生贄

生贄＜サイラス視点＞

生贄２

　王妃が散財した金額は大きくウラガオス国を傾けていた。傾国の美女とはまさしく王妃に捧げる言葉だ。膨れ上がった負債があのまま行けば国民の負担へと変わっていただろう。

 　美しい王妃は内情を知らない国民には人気だった。ルーファ様は王族の対面を守り、国を救ったことになる……。

　しかし、その決断に何の迷いも感じられなかった。淡々と決断し淡々と実行させた。彼なりの愛情なのかどうなのか、私にはわからなかった。

　ルーファ様は努力を惜しまない。不正をただし、国の為に力を尽くしている。ルーファ様はわずか五年で王妃の負債を片づけ、残りの五年でウラガオス国に潤いをもたらした。その手腕は誰もが認めることであった。王は実務は王子に任せ、事実上は隠居生活のようなものだった。問題のある者は国政から外され、貴族、平民を問わず、優秀なものをどんどん起用していった。風通しを良くすると甘い汁を吸っていた有力貴族などは黙っていなかったが、そういう者はルーファ様の表面上の柔らかさに騙され、末路は寂しいものであった。

 そうして落ち着いた頃にルーファ様に縁談の話が上がった。

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　これまで数人、ルーファ様には恋人と呼ばれる者がいた。ルーファ様はその都度相手を吟味し、後腐れない者を選んでいたと思う。表面上は優しく、紳士的で容姿共に完璧なルーファ様はよくモテた。恋人に選ばれた娘は舞い上がるほど喜んだ。……しかし、数か月もすると彼女たちはルーファ様から離れていった。……離れていったのか、離されていったのか。私は後者ではないかと思う。

　彼女たちは言う。「ルーファ様が怖い」と。選ばれた娘たちには一定の共通点がある。金か栗色の髪に青い瞳。これはルーファ様の好みなのだと思う。そしてこの色はルーファ様の母親に起因しているような気がしている。王妃がまさにその色彩だった。そして、総じて従順そうな性格は正反対だった。

　数多ある釣書を仕分けする。ウラガオスに利益をもたらす王女が望ましい。国内国外を問わず、ルーファ様が結婚したい相手がいるならばそちら最優先なのだが、今までルーファ様が自ら望んだ娘はいないし、出てくる可能性も薄いのではないかと思った。それほどル-ファ様は性にも異性にも興味が薄かった。


　数十枚めくったその中にセローシェの王女がいた。小さいがこれから伸びしろのある国だ。彼女は金髪の青い目……。事務的にその釣書を候補にと除ける。金髪の青い目、それに準じる娘……出来れは隣国のリネット様がいい。性格のよい、清らかな娘だ。王妃の呪縛から抜け出して欲しいと願いながら、私はそれを候補の一番上に乗せた。

　候補を五枚に絞り、彼女たちの身辺調査に入る。あどけなく見える美しい王女だが二十歳まで婚期を逃すには理由があるだろうとセローシェは最後の一枚に忍ばせた。出来れば選ばない様にと思う。しかし、ルーファ様が選んだのはセローシェの姫だった。

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　調べれば調べるほどに埃の出る女……

　それがセローシェ国のスリヤ姫だった。これでは王妃の二の舞ではないか、と思うもルーファ様は国益になればそれで良いと言った。きっとルーファ様は妃に『害』が無いうちは興味もなく傍に置くのだろう。そして、『害』さないような処置もとるに違いない。

　出来れば私はルーファ様に純粋な愛情を知って欲しかった。

　凍えた『魔王』の心をも溶かす、心の温かな愛情を。

　スリヤ姫では有りえない。どうにか思い直してほしかった。しかし、ルーファ様が選んだのは結局スリヤ姫だった。様々なことに目をつぶって進めてきた結婚だったが、寄りにもよって結婚式の夜に不義が露見することになる。間に合えば取りやめていただきたい。その思いで急いで届いた報告書をルーファ様に渡した。