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past1(アルマ)
episode41
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「ねぇ、弟が君のマナーハウスにいるって、本当?」
しばらくの間アルマが休学する旨を国王に報告した帰り、宮殿でシーヴァにそう呼び止められたエドがムッとした表情で振り返る。
「・・・ええ、お陰様で。一週間程安全な俺の屋敷で休養する事になりました」
「ふーん」
アルマが襲われた日、シーヴァはエドと一緒にいた。
つまりは今回アルマを傷付けたのは目の前の不敵な笑みを浮かべる銀髪男では無い、という事になる。
ムッとしたのはエドの身体中にいまだ残る傷に関した個人的な理由だ。
「・・・僕、あの子を襲ったヤツが誰か知ってるよ」
「・・・」
「あの完璧で傲慢で高飛車な兄上を疑うのは最もだけど・・・今回はあの人じゃないよ。あの人にアルマをあそこまで出来る様な器用さはないよ」
曇っていくエドの表情を面白そうに見つめるシーヴァが、「僕には出来るけどね」と意味深に付け足す。
「俺は、てっきりローランド様だと・・・」
「ふふ。実は君をマナーハウスに届けた後、ローゼンヴァルド第一校に向かったんだ」
「それじゃあ──」
「あ、僕は違うよ?君が傍にいないのに、あの子にちょっかい出しても意味ないじゃん」
「では一体誰が!」
回りくどい物言いに思わずエドが語気を強める。
「ローゼンヴァルド第一校名誉会長のジョージ・ロペス。あのたぬきオヤジ、息子に理事長の座を譲ったって言うのにまだ生徒漁りやめてなかったんだよ」
「・・・スクールの会長?」
生徒を庇護する大人が本当に手を染めていたとしたら。
「あの男がアルマを襲ったのはこれが初めて。ローランド兄上・・・あの人の事だから無自覚かもしれないけど、あの男がアルマに近付こうとする度に弟を呼び出してたんだ。・・・まるであの男から弟を取られまいと逃げ回るようにね」
「・・・」
「滑稽だよね?庇って取られたくなくて逃げて、最終的に自分と同じように同じ男に汚されちゃったんだから」
「同じ?・・・同じ男とは」
呆然としたままのエドの頬の傷にシーヴァが手を伸ばす。
「あの男、見目がいい生徒を囲わせるんだ。成績や金や特権で脅して。・・・どんな脅しにも靡かないような高嶺には、人質を使って取引をする」
「シーヴァ様・・・?」
「フフ。あの男のシュミとは違うけど、君がその体を差し出して取引を持ちかければ喜んで応じるだろうね。アイツは美しいものと権力が好きだから──」
「っ話が見えません!一体なんの──」
首筋に触れたシーヴァの掌を弾き、ゾワゾワと粟立つ体を落ち着かせる。
「・・・まあ、結局は兄上の自業自得だろうけど。今回アルマはローランド兄上に助けられたって事。取引を条件にね」
「取引・・・」
シーヴァの話が事実であれば、つまりはアルマを助ける代わりにローランドが男に身体を差し出したことになる。
「・・・あんなにあの男に怯えていたのに」
「?」
「あんなに嫌っていたのに、どうしてですか?兄上」
肩がビクリと震えた。
自分の背後、シーヴァの視線の先に立つ一人の男の赤い瞳と目が合う。
「っローランド様」
「・・・エドウィンか」
気だるげにシーヴァとエドを一瞥したローランドが髪を掻きあげ金の耳飾りを付けると、鬱陶しそうに小さく舌打ちをした。
「僕もいるんだけど」
「・・・」
「僕隣の教室から見てたんですよ?兄上があの豚に強姦される所。途中から気付いてたでしょ?」
冷えた赤い瞳が黄土の瞳を睨みつける。
「・・・僕らの唯一の城。ローランド兄上は自分だけの王国を作って、僕はそれを覗くちょっとした覗き穴を作った。そんなに驚くことじゃない」
シーヴァがローランドの胸元、赤い羽織の下に手を滑り込ませる。普段はへそあたりまで開いた白いブラウスが、今日はぴっちりと首まで布で覆われていた。
「まさか兄上がアルマを逃がすなんて。なんの心境の変化かな?」
赤い瞳が一瞬だけ揺れ、シーヴァの手を押し返す。
「・・・・・これ以上、先日の件については他言無用だ。わかったな、シーヴァ」
「・・・っ可愛い末息子が犯されそうになったなんて父上が知れば───」
「これは俺の話でもあるっ。・・・兎に角、父上には黙っていろ」
弱々しい声色にその場にいたシーヴァとエドが口を噤む。
「・・・エドウィン、明日お前のマナーハウスに出向く。会いたくなければ、会わなくていいとアルマに伝えておけ」
「はい」
しばらくの間アルマが休学する旨を国王に報告した帰り、宮殿でシーヴァにそう呼び止められたエドがムッとした表情で振り返る。
「・・・ええ、お陰様で。一週間程安全な俺の屋敷で休養する事になりました」
「ふーん」
アルマが襲われた日、シーヴァはエドと一緒にいた。
つまりは今回アルマを傷付けたのは目の前の不敵な笑みを浮かべる銀髪男では無い、という事になる。
ムッとしたのはエドの身体中にいまだ残る傷に関した個人的な理由だ。
「・・・僕、あの子を襲ったヤツが誰か知ってるよ」
「・・・」
「あの完璧で傲慢で高飛車な兄上を疑うのは最もだけど・・・今回はあの人じゃないよ。あの人にアルマをあそこまで出来る様な器用さはないよ」
曇っていくエドの表情を面白そうに見つめるシーヴァが、「僕には出来るけどね」と意味深に付け足す。
「俺は、てっきりローランド様だと・・・」
「ふふ。実は君をマナーハウスに届けた後、ローゼンヴァルド第一校に向かったんだ」
「それじゃあ──」
「あ、僕は違うよ?君が傍にいないのに、あの子にちょっかい出しても意味ないじゃん」
「では一体誰が!」
回りくどい物言いに思わずエドが語気を強める。
「ローゼンヴァルド第一校名誉会長のジョージ・ロペス。あのたぬきオヤジ、息子に理事長の座を譲ったって言うのにまだ生徒漁りやめてなかったんだよ」
「・・・スクールの会長?」
生徒を庇護する大人が本当に手を染めていたとしたら。
「あの男がアルマを襲ったのはこれが初めて。ローランド兄上・・・あの人の事だから無自覚かもしれないけど、あの男がアルマに近付こうとする度に弟を呼び出してたんだ。・・・まるであの男から弟を取られまいと逃げ回るようにね」
「・・・」
「滑稽だよね?庇って取られたくなくて逃げて、最終的に自分と同じように同じ男に汚されちゃったんだから」
「同じ?・・・同じ男とは」
呆然としたままのエドの頬の傷にシーヴァが手を伸ばす。
「あの男、見目がいい生徒を囲わせるんだ。成績や金や特権で脅して。・・・どんな脅しにも靡かないような高嶺には、人質を使って取引をする」
「シーヴァ様・・・?」
「フフ。あの男のシュミとは違うけど、君がその体を差し出して取引を持ちかければ喜んで応じるだろうね。アイツは美しいものと権力が好きだから──」
「っ話が見えません!一体なんの──」
首筋に触れたシーヴァの掌を弾き、ゾワゾワと粟立つ体を落ち着かせる。
「・・・まあ、結局は兄上の自業自得だろうけど。今回アルマはローランド兄上に助けられたって事。取引を条件にね」
「取引・・・」
シーヴァの話が事実であれば、つまりはアルマを助ける代わりにローランドが男に身体を差し出したことになる。
「・・・あんなにあの男に怯えていたのに」
「?」
「あんなに嫌っていたのに、どうしてですか?兄上」
肩がビクリと震えた。
自分の背後、シーヴァの視線の先に立つ一人の男の赤い瞳と目が合う。
「っローランド様」
「・・・エドウィンか」
気だるげにシーヴァとエドを一瞥したローランドが髪を掻きあげ金の耳飾りを付けると、鬱陶しそうに小さく舌打ちをした。
「僕もいるんだけど」
「・・・」
「僕隣の教室から見てたんですよ?兄上があの豚に強姦される所。途中から気付いてたでしょ?」
冷えた赤い瞳が黄土の瞳を睨みつける。
「・・・僕らの唯一の城。ローランド兄上は自分だけの王国を作って、僕はそれを覗くちょっとした覗き穴を作った。そんなに驚くことじゃない」
シーヴァがローランドの胸元、赤い羽織の下に手を滑り込ませる。普段はへそあたりまで開いた白いブラウスが、今日はぴっちりと首まで布で覆われていた。
「まさか兄上がアルマを逃がすなんて。なんの心境の変化かな?」
赤い瞳が一瞬だけ揺れ、シーヴァの手を押し返す。
「・・・・・これ以上、先日の件については他言無用だ。わかったな、シーヴァ」
「・・・っ可愛い末息子が犯されそうになったなんて父上が知れば───」
「これは俺の話でもあるっ。・・・兎に角、父上には黙っていろ」
弱々しい声色にその場にいたシーヴァとエドが口を噤む。
「・・・エドウィン、明日お前のマナーハウスに出向く。会いたくなければ、会わなくていいとアルマに伝えておけ」
「はい」
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