異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

文字の大きさ
84 / 141
連載

第九十七話 異世界の香り

しおりを挟む
第九十七話 異世界の香り


冬が終わり、畑仕事が始まってから二週間が経った。
今年の田植えも無事に終わり、モニュナさん一家の引っ越しも済んだ。
冒険者組も仕事が忙しくなるからと、お弁当やポーションを持って出る事が増えた。
今日の晩御飯は、ミトの実のつみれ鍋。

「ごはんできたよぉ!」

食堂から呼びかけると、皆が集まり始めた。
猫達やエスト、ノアがお手伝いをしてくれる。

「うぅ、まだ寒いな!」

はんてんを着て背中を丸めるジローが食堂へとやって来た。
今日は皆いるので、後はクレスとキャロルが来るだろう。
なんて考えていた時だった。

「うわぁぁぁ!?」

突然、ジローの叫び声が聞こえて来た。
慌ててキッチンから出ると、食堂の隅で鼻を押さえ、悶えるジローが目に入った。

「あぁ~、開けちゃったかぁ」
「ヒナ、こ・・・これ・・・」

ジローの前には、一人用の小さなコタツ。
そこには分かりやすく、「開けるな危険」と書いた張り紙が置いてある。
どうして開けるかねぇ。
きっと、「押すな」と書いてあるボタンは押すタイプだな。

「開けるなって書いてあったでしょうが」
「うぅ・・・」

涙目になったジローがちょっと可愛い。

「これは、納豆作ってるの」

納豆の作り方。
乾燥させた大豆を洗って一晩水に浸す。
稲藁を適量束ねて半分に折り、舟の様な形にする。そして、それを煮る!
雑菌がいると「腐った豆」になるので、煮沸消毒する。
藁に住む納豆菌は熱に強いので、煮沸したくらいでは死なないらしい。
酒造所や「菌」が使われる場所へ行く前日と当日は、納豆は食べてはいけないと言われる程だ。
次に、大豆を蒸す。熱々の内に藁の船に詰め込んで、舟から筒状にする。
それから二日から三日、四十度を保ち保温。
一定の温度を保つ・・・一人用のコタツが余っていたので、有効活用してみた。
因みに、今日が三日目だ。
そう言えば、ジローはこの二日間帰っていなかったな。

「なっとう?何かはわからんが、それは腐ってる!」
「あれ?ヒノモトに納豆は無いんだ」

あれだけ日本文化全開なのに、納豆は無いのか。
まぁ、日本人でも納豆苦手な人っているもんな。
コタツから納豆の入ったカゴを取り出し、魔法で冷却。冷蔵庫に入れておいた。

「それよりも・・・開けるなって書いてあったでしょうが」

ジローの頭を掴み、爪でチクチク地味に攻撃を加える。

「い、痛い、痛い!つい、な」
「つい、ねぇ。もしダンジョンだったら、死んでるぞ?ん?」
「いや、ダンジョンにこんな張り紙は痛い痛い痛い!」
「まぁ、こんな所に置いておいた私も悪いし、許してあげよう。だから・・・アヌリ、開けても踏まないからね?」
「う」

視界の隅で、そぉっとコタツの布団をめくろうとしているアヌリが見えたので、釘を刺しておく。
中身はもうないから、怒られるのが目的だろうな。
ビクッとなったアヌリは、またそうっとコタツから離れた。
やれやれだ。

「ほんっと、馬鹿ねぇ」
「ですね」





「こんにちは。お茶の葉をください」
「もう少し待てば、新茶が出来上がるぞ?」
「それは楽しみ!でも今は、普通のお茶でお願いします」

そう言うと、三婆が家を出て行った。
去年、お茶の葉を保存する為に欲しいと言われて建てた倉庫へ向かったのだろう。
ここで、つい悪戯心が出てしまった。

「ちょっと珍しい物を作ったんだけど、試食してもらえませんか?」
「ふむ」

ノナさんが頷いたので、上がりそうになる口角を必死で我慢した。

「ちょっと匂いが強いんだけど」

アイテムバッグから納豆を一つ取り出して、ノナさんに見せてみた。

「こいつは・・・ナットゥ!」
「ナットゥ?納豆」

外国人が納豆を間違えて覚えた、みたいな発音だな。

「この、到底食べ物とは思えぬ匂いと見た目!正しくナットゥ!」
「食べてみます?」
「良いのか!?」

珍しく目をキラキラとさせるノナさんが、ちょっと怖い。

「ど、どうぞ」

ノナさんが凄い勢いで台所へ行き、醤油とお皿を持って戻ってきた。
納豆が何か、完全に分かってるな。

「ご飯、いる?」
「あるのか!?」

そっと、炊きたてのご飯が入った木製のおひつを出してテーブルの上に置いた。
その時、三婆が袋を抱えて帰って来た。

「「「この匂いは!?」」」
「お前さん達も早う来や」

どうやら三婆も知っていたらしい。
お茶の葉が入った麻袋を私に放り投げると、さっさと食卓に着いた。
目にもとまらぬ速さで納豆とご飯が器に盛られた。

「「「「いただきます」」」」

そして四人が、物凄い勢いで食べ始めた。
あっという間におひつが空になった。

「ヒナ、お主これを作ったと言っておったな」
「え、うん」
「「「量産!」」」
「うむ。絶対に!それか、作り方を吐け!」

四人からの物凄い圧に、作り方と材料を置いて、逃げました。
それから暫くして、四人の家から悪臭がするとセバスから報告があったが、そっとしておいてあげてと言っておいた。
触らぬ婆に、なんとやらだ。





「ふふ~ん、ふんふふ~ん」
「ヒナ?」

食堂で作業をしていると、キャロルがやってきた。
今日はお休みだって言ってたな。

「これは、芳香剤を作ってるの」

カウンターの上には、水の入った容器と、粉末にした香石とお茶の葉が置いてある。

「へぇ~・・・あ、これ、トイレの匂いだ」
「大正解」

先ずは小瓶に水を入れ、粉末にしたお茶の葉を耳かき一杯程を入れて混ぜる。
これが実はかなりの優れもので、どんな匂いもシュッとスプレーするだけで一発消臭!
男性用のトイレにはこれだけで置いてあるが、女性用のトイレには、これに柑橘系の香がする鉱石を混ぜて置いてある。

「ねぇ、これ少し貰っても良い?」
「良いよ。香は何が良い?」
「えっとねぇ・・・あ、これ!」

キャロルが選んだのは、花の様な少し甘い香りがする鉱石。

「仕事の時は付けられないけど、部屋によさそう」
「魔物が寄って来るかもよ?」
「それ、依頼意外の魔物も寄って来たら困るじゃん」

久しぶりの女子トークを楽しんでいると、クレスが食堂にやって来た。

「良い香りねぇ」
「芳香剤なんだけど、クレスもどう?」
「へぇ~、良いわね」

クレスが選んだのは、何と香の無いものだった。

「てっきり、花の香とか選ぶと思ってた」
「私も!」
「お仕事用に、ね」

クレスのお客さんは高位貴族が多く、大半がオーダーメイドだ。
偶に、既に作ってあるドレスを持って行って試着してもらう事もあるらしく、前から匂いが気になっていたのだそうだ。

「もうねぇ・・・今日試着があるからって言ってあるのに、キッツい香水着けてるのよ!」
「「うわぁ~」」
「それ、どうするの?」
「ドレス専用の洗濯屋があるから、そこに持って行くのよぉ。これが結構お高くてねぇ」

香水の匂いって、結構強いから中々抜けないんだよね。
スプレーボトルに入れて、そっとクレスに渡した。

「便利ねぇ。これなら宝石を痛める心配も無いし。ありがとう、ヒナちゃん」
「どういたしまして。これなら香水だろうが加齢臭だろうが、どんとこいだからね」
「加齢・・・臭?」

それまで笑顔だったクレスが、真顔で固まった。

「今、何か恐ろしい言葉が聞こえたんだけど」
「えっと・・・加齢、年齢が高くなると体臭がきつくなって・・・いや、クレスがどうのって事じゃないからね!?」

クレスは見た目綺麗なお姉さんだが、男の人。しかも、二百歳オーバー。
種族がエルフのおかげか、クレスの傍にいて「うっ」と思った事は一度も無い。

「あ~、冒険者の中にもいるんだよねぇ。依頼で町にいないと、身体を洗うなんて事もできないし。この前も、Aランクのパーティが長期以来でギルドに戻って来たんだけどさぁ。これがまたオッサンばっかりで!受付の女の子が涙目になってた。あれ絶対、帰って来て感動って感じじゃなかったよ」

ケラケラと笑いながら話すキャロル。
もうそれ以上、傷口に塩コショウはやめてあげて!

「ヒナちゃん」
「はい!」
「部屋用と洋服用。持ち歩ける物も」
「直ぐに用意します!」

地の底から聞こえて来たような低い声に、言われた三つを超高速で作って渡した。
異世界でも、この手の事はとってもデリケートなんだと、深く心に刻んだ。
しおりを挟む
感想 449

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。