正直な悪役令嬢は婚約破棄を応援しています~殿下、ヒロインさんを見てあげてください!私を溺愛している場合じゃありません!

伊賀海栗

文字の大きさ
5 / 32

第5話 プレゼンをしました

しおりを挟む

 少し良いところの商家の娘や息子といった服装で、お祭りが開催される王都を散策しています。と言っても隣を歩くのは王太子ですから、もの凄い数の護衛がこっそり見守っているわけですけども。中には我がワイゼンバウム家の護衛の姿も見えました。

 平民たちは、まさかこんなところに王太子がいるとは露程も思っていないみたいで、バレる気配はありません。
 彼らと一緒に輪になって踊ったり、花冠を編んだり串焼きをいただいたり! あまりにも楽しくて、私もアーサー様も童心にかえってはしゃぎました。私、前世を思い出してしまったせいでアラサーの感覚や価値観が混じってしまったので……くじ引きひとつでお腹を抱えて笑ったのは久しぶりです。

「あ、見てください。スミレの砂糖漬けですって! ふふ、アーサー様の瞳とおんなじ色、可愛い」

 私がそう言って路面に出ていた店を指さすと、アーサー様は長い足でぱっとそちらへ向かい瓶入りのスミレを手に戻っていらっしゃいました。

「はい、どうぞ」

「え……? くれる、んですか?」

「食べるたびに俺のことを思い出してくれるなら費用対効果としては最高、じゃない?」

 受け取った瓶の中のスミレとアーサー様の瞳とを二度見比べるうちに、みるみる顔に熱が集まっていきます。え、えーっ? だってこれ私にアーサー様のこと思い出してほしいって言ってるんですよね?

 いやいやおかしい、アーサー様はマリナレッタさんとあっという間に恋に落ちるはずです。もしかして私の苛め方が不足していましたか? そうですね、きっとそうに違いありません。

「私、さきほどマリナレッタさんのこと苛めました!」

「え? マリナレッタ……ってこないだの新入生だったね」

「はい。さんざん罵倒してやりました。私は嫌な女で、彼女は健気にも苛めに耐える可憐な女性です。だから彼女の訴えを聞いてあげていただければと」

「なるほど、やっぱり彼女が俺の予言書における運命の相手というわけだ。時季外れの入学生だからもしかしてとは思ってたけど」

 アーサー様がくすくすと笑っています。おかしなことなんて言ってないのに。
 私の手から瓶を抜き取って、紙袋に。そのまま私の手をとってアーサー様が歩き出しました。前方には大きな公園が。

「少し木陰で休もうか」

「いいですね。あ、果実水のお店もあるみたい!」

 リンゴとオレンジの果実水を手に、公園内へ入ります。平民の憩いの場なのでしょうか、遊歩道がどこまでも続く大きな公園でした。中心には芝生が広がって、人々が思い思いに過ごしています。私たちは遊歩道の脇に並ぶベンチへ。

「俺の運命の相手について、もう少し教えてもらっても? すぐに相思相愛になると言うからどんなものかと思っていたが、今日の今日まで彼女になんの気も起きなかった。つまり、情報が不足しているんじゃないかと思ってね」

「えっえっ、あんな美少女と出会って何も思うことなかったんですか?」

「生憎、綺麗な女性は見慣れてる」

 なんてチャラッチャラした発言でしょうか! そりゃあ、王城には美しい方が多く出入りしますけど。うーん、やっぱり原作におけるアーサー様はマリナレッタさんの内面に惹かれたということですね。それでは微力ながらこの私がプレゼンをいたしましょう!

 アーサー様は意気込む私に微笑んで、オレンジの果実水を口に含みました。喉が上下に動き、小さく息を吐きます。

「マリナレッタさんは男爵家の次女でした。小さな領地で領民に愛され奔放に生きてきましたが、事故でお母さまとお姉さまを失ったことで一転、女主人としての最低限の知識や教養が求められるようになりました」

「馬車が滑落したんだったね。車体に細工がしてあったのではないかって疑惑もあって、こちらにも話だけは聞こえてきたよ」

 後妻となった女の悪知恵です。後妻は計画的に男爵家の乗っ取りを進めています。今もなお。
 ですがそれはマリナレッタさんのプレゼンとは関係ありませんし、いずれアーサー様が突き止めることですからここでは伏せておきましょう。

「進学予定のなかったマリナレッタさんは急遽、聖トムスン王立学院へ。王都を中心に活躍するブルジョアジーより資産の少ない男爵家ですから、彼女にまともな貴族教育は施されていませんでした」

「なるほどよくある話だね」

 ここで言う「まともな」は、学院で通用する程度のという意味です。平民から見ればいっぱしのお嬢様に見えるでしょう。
 私は頷いて続けます。

「彼女はそんな境遇ながら家のため、病に伏せるお父様のため必死に学びます。苛めに耐え、孤独に耐え、貧乏に耐え、それでも笑顔を浮かべて!」

「健気だ」

「アーサー様と恋に落ちるも、エメリナに目をつけられることとなった彼女の生活はさらに苛烈なものに」

「うん?」

 私は拳を強く握り、横に座るアーサー様へ向かって前のめりに訴えます。

「エメリナはもう本当に容赦がなくて! 水を掛けるとか階段上から突き飛ばすとか、さらには男子生徒に襲わせようとしたり! 人の心はあるのかしら!」

「落ち着いて?」

「……失礼しました。結局マリナレッタさんはご自身がアーサー様に相応しくないと考え、出しゃばらないようにと学院のパーティーでは壁の花。ああなんてかわいそうなの」

「そのひどい苛めも、エメリナが嫉妬したからって聞いたけど」

「ええそうです。そうでなければマリナレッタさんに興味さえ持たなかったと思います」

 アーサー様は、ぎゅっと握った私の拳を包むように大きな手を載せました。あったかくて優しい手です。
 少しだけ熱のこもったスミレ色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめました。

「予言書ではなく現実の君はどうなの? 以前は嫉妬しないようにすると言っていたけど、実際のところは……彼女と親しくしてみたらわかるかな」

「わっ、私のことは今は関係ありませんーっ!」

 慌てて彼の手から拳を引き抜きリンゴの果実水を煽ると、アーサー様はよく通る声で盛大に笑いました。

 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

転生令嬢は捨てられた元婚約者に微笑む~悪役にされたけど、今さら愛されてももう遅い~

exdonuts
恋愛
前世で酷く裏切られ、婚約破棄された伯爵令嬢リリアーナ。涙の最期を迎えたはずが、気づけば婚約破棄より三年前の自分に転生していた。 今度こそもう誰にも傷つけられない——そう誓ったリリアーナは、静かに運命を書き換えていく。かつて彼女を見下し利用した人々が、ひとり、またひとりと破滅していく中……。 「リリアーナ、君だけを愛している」 元婚約者が涙ながらに悔やんでも、彼女の心はもう戻らない。 傷ついた令嬢が笑顔で世界を制す、ざまぁ&溺愛の王道転生ロマンス!

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...