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ハニーアンバー1号店Ⅱ

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「アンナリーゼ様って、たまに?ものすごく領民のこと考えているよね。
 僕たちが考えついていないような……城で働いていたりしたら見落としてしまうような
 そんなところをついてくる。
 どこから、その発想が出てくるのか、僕はそういうアンナリーゼ様にいつも驚かされるよ」
「いや、それだけじゃないですよ!セバス様。
 たぶん、アンナリーゼ様が言った通り、領地の商人が他領から仕入れているものは……
 他の領地の商人が仕入れているより比べても高いのです。
 同じもので同じ産地のものでも、トワイス国で買う方が安いものもあるのです。
 それを考えると、領地全体の商人が他領に舐められていたということと、高くても買う
 だろうから、高値で売れと何領かは結託しているのではないでしょうか?」
「その可能性もなくはないわな。
 アンナが、ちょっとしゃべっただけでもこれだけの根拠がでてくるんだ。
 例えば、似たようなものなら、隣国のトワイスから買えば安くなるようなものとかあったんじゃ
 ないか?」
「あると思うわ!
 例えば……蜂蜜とかね。トワイスの王都で売っていた値段の3倍から5倍はアンバー領ではするのよ。
 おかしいと思わない?
 だから、アンバー領には一切の甘味がないのよ!」
「あの、アンナリーゼ様、それは、今、関係なくないですか?」
「いや、アンナの甘味はとても大事だとウィルが語っておったぞ。
 そう考えると、この領地改革の根幹は、アンナの甘味への執着によって進められるわけだが、
 それを満足いくよう支えるのが俺たちの仕事だ」
「あぁ、なるほど……それは、とても大切な役目ですね!」
「アンナリーゼ様から甘味を取ると、大変なことになりますからね……」


 三人はとても納得って感じで頷きあっている。
 私……そんな風に思われていたのね……なんだか、ちょっと、おかしな子じゃない!


「別に暴れたりしませんから!甘味はなくても大丈夫よ?」
「いやいや、説得力にかけるよ……だって、見ているだけでお腹いっぱいになって
 胸やけしそうな生クリームたっぷりケーキに追生クリームした上に糖分たっぷりの紅茶とか
 飲んでいたじゃない?」


 セバスは、覚えていたのか……私が大好きなあの生クリームたっぷりケーキに追生クリームを3杯くらいした上に、めちゃくちゃ甘い紅茶を飲んで、ものすごく至福な時間を過ごしていたことを……


「アンナよ……体は何ともないのか?」
「何ともないですよ!食べた分、あの頃はウィルと体を動かしてましたからね!」
「ウィル様がいつも地面にへばりついているのは、それでだったんですね……」
「それは、どういうことだ?」


 ノクトの知らない学園時代の話に興味をひかれたようで、ニコライに話を聞き出そうとしていた。
 そんなの聞いてもおもしろいことなんて、何もないのにだ。


「アンナリーゼ様主催の『秘密のお茶会』をする前に、必ずウィルと3試合すると決め事があるんですよ。
 僕は、その決め事がいつ決まったとかは知らないんですけど、お茶会はアンナリーゼ様の挨拶でなく、
 ウィルとの模擬剣のカンカンという音からいつも始まります。
 その後も呼び出されて出てったり、あと公女様の近衛とかも呼び出してましたよね?
 僕たち黙ってましたけど……」
「……セバス、知ってたの?」
「えぇ……一応」
「なんだ?ウィルは、アンナと逢引きできると喜んで行ったら、その先で待ち構えてた
 のは、模擬剣持ってニコニコ笑うアンナだったら……なんていうか、ご愁傷様って感じだな……」
「なんでよ!ウィルも模擬試合は望んでいたことでしょ?」
「そうとは、限らないんじゃないか……?」


 ノクトは分けありげに私を見てため息をつく。ウィルが可哀想だと言って。
 どこも可哀想ではない。
 嬉々として剣をぶつけあっていたのだから……多分、私とウィルは、お互いに対してこれ以外の感情の出し方がわからないのだ。
 だから、いつまでたっても二人で向かい合うときは、大体、剣を握っている。
 愛だの恋だのを表現するには、物騒かもしれないが、これが私たちの形だったのだろう。
 恋愛ではなく友愛であり、恋慕ではなく思慕なのだが……


「それで、お店の名前なんだけどね!」


 いきなり話がそれていったので、あぁ、はいはいとちょっと投げやりな感じでみんな聞いている。
 これ、大事だと思うんだけど……何?
 私とウィルを恋愛でくくりたかったのだろうか?

 残念ながら、私たちにはそういうのはない!断言してもいい!
 お互いを慕う気持ちはあれど、そういうのではないのだ。
 うん、ないはずだ。私には、ウィルに憧れはあれど、恋愛感情はなかった。
 ウィルのことはウィルに聞かないとわからないけど、私という『人』が好きだと言われている。
 だから……そうなのだと私は信じている。
 その前提が崩れるのであれば、信頼はしても側に置くことができなくなるから。
 わかったうえで、側で支え続けてくれているなら、私は、ウィルに返せるものが何もないことになる。
 ウィルが側にいてくれるからこそ、私は好きなことをして無茶ができるのだ。
 ウィルだけでなく、セバスたちにもいつでも離れて言ってくれて大丈夫だと言ってある。
 ウィルやセバス、ナタリーを手放したくないという我儘は言葉にせずずっと胸の中におさめているので、これ以上この不毛な話をしたくなかった。


「もぅ!大事なんだから、聞いてよ!」
「聞いてますよ!姫さん!」


 ノクトが茶化して『姫さん』なんて言ってくる。


「もういいです!
 お店の名前は、『ハニーアンバー』ってことで、あなたたち、きびきび働くように!」


 それだけいうと、いったん休憩をしようかとなり、私は執務室から逃げ出した。
 決して、ウィルに恋心が……とかではないのだが、執務室の空気感は居たたまれなかった。


 私、ちゃんと、恋愛してきたもの!

 ちゃんと……?

 …………。

 ウィルとのそれは……違うわよ!そう、心の中のもやもやを払いのけるのであった。
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