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1章
【34】ルーシの悩み
しおりを挟む3層目に着くと、みんな座り込んでしまった。
疲労困憊ね。
リネットが残っている薪をばらまき、助けた2人にポーションを飲ませる。保険で持ってきていた奴だから2人分しかない。
2人の無数の切り傷、噛み傷は消えたけど、血が足りないのか脱力している。
「‥‥ありがとうございます」
男の子はディオって言ったかしら。もう1人のティチって娘は震えている。
「あなた達、何してくれてんのよ!」
ヴィオラが胸ぐら掴む勢いで言う。
「あんた達!どうした。なにがあった?」
グフリア達が通路を駆けて来た。
「あら、偶然ね」
普段通りのトーンでニコラ。でも相当顔色が悪い。
「どうしたにゃ。みんにゃボロボロにゃ」
セドが事情を話す。
「あんた達、なんて事してんだい!」
「ホントにゃ。自分達だけならまだしも、他人も巻き込んで」
話を聞いただけでこの怒り様。
タブーだったのかな。彼らは相当な事をやらかしたらしい。 実際、相当だったし。
「そうですう。死んで詫びればいいんですう」
コリティスは以外と辛口。見た目とのギャップがひどい。
「それはないよ。折角助けたんだから」
とセド。体力が回復してきて少し余裕が出たみたいね。
「でもなんで犬笛なんて使ったのかは聞きたいわね」
通路にずっと居るのも落ち着かないので、すぐ側の広間に移動した。広間内のゴブリン退治はグフリア達がしてくれたわ。
ディオ曰く、4人は同じ施設で育った孤児で、同い年だったので一緒に冒険者になったらしい。
4人の仲は良かったが、死んだ2人は昔から言う事聞かないヤンチャな子達だったみたいで、4層目に行ったのも犬笛使ったのも彼らの独断だったそうな。
「2人だけで行かせるわけにも行かなかったから」
とディオ。ただ、彼自信も少し舐めてかかってたらしい。
「子供の頃から狩りはしていて、犬笛はその時からたまに使ってました。でもその時は野良犬が数匹寄ってくるかゼロかだったので、今回も同じ様なモノだろうと思っていたと思います」
ディオはほとんど下を向いたまま話す。まぁ顔見て話せないわよね。
「浅はかね」
「今までに誰かしらから話聞いたりしなかったの?」
「‥‥ギルド登録以来、まともにお話したのはグフリアさん達が始めてです」
「それってついこないだじゃないか。あんた達って何時から冒険者やってんだい?」
「半年前からです」
「そんなにやってて今まで誰とも話してないなんて変じゃない? 冒険者同士ならまだしも、ギルド職員ともなんて、それって職員の怠慢かい?」
「いえ。私達が原因です」
彼女達の施設では『女神様から頂いた尊い加護を無闇に使用するのは冒涜で愚か者のする事』という教えがあるそうな。
「凄い教育ね。逆にわたし達から見たらそっちが愚か者に見えるわ」
「俺達の方が変なんじゃないかって気付いては居たんですが、2人は頑なに見下してしまってて」
そう教えられて育ったんなら仕方ないわね。逆に気付いたディオ達が凄いわ。
「施設の教育って家庭の躾みたいなものにゃ?あんまり他人が口出す事じゃにゃいけど、変にゃ」
「施設って全部で何人位居るの?」
「出稼ぎに出ている人達も含めると100人は居ると思います」
「100人て大所帯ね。その数にまでなったら宗教扱いで、教会が黙ってなさそうだけ」
「ていうかあ、出稼ぎってなんですかあ?」
「成人した人は施設を手伝うか、外で稼いだお金を送金してるんです。そのお金で俺達育ったし、下の子もまだいっぱい居るので」
それは素敵ね。ちゃんと育っている感はあるから変なのはその教えだけなのかしら。
話を聞き終えて、アホな事しやがったけど悪い子達ではないってみんな思ったんじゃないかな。
死んだ2人も仲間置いて逃げようとはしてなかったみたいだし。
「遺体と魔石を回収したいんだけど、手伝ってくれないか?」
セドがグフリアに言う。
「いいよ。なんなら、あんた達ボロボロだからあたし達だけで行ってきても構わないよ」
「いや、まだコボルト残ってるからそっちをお願いしたい」
「分かった。任されるよ」
編成は討伐隊のグフリア達3人を先頭に、ヴィオラ、リネットの魔石回収班。遺体収容でセドが後方に着く。
「ルーシはみんなを守っててくれ」
ニコラとディオ達は満身創痍なので3層目で待機。
ディオは志願してたけど、
「実力知らないし、スキルは使わない疲労困憊なガキなんて足手まといでしかないよ」
とグフリアに断られてた。たぶんルーシが抜けたのも似たような理由でしょう。
と言うのもこの編成はグフリアの意見が大きい。
後方気にして戦いたくないとか。
回収スピードと、いざと言う時上空に逃げられるから回収班はヴィオラとリネットが選ばれ、セドが1人なのは、
「あんたなら1人で大丈夫でしょ」
ですって。
「グフリアは男に厳しいにゃ」
「スパルタですう」
「そんなんじゃないよ。コボルト100匹居たってセドリックは倒せないだろ」
だいぶ認められてるのねセドは。でもちょっと心配。
「セド、ナナチャが一緒に行くって言ってる」
「本当かい?それは助かるな」
「ミュー」
アタシはセドの頭に乗り換えた。
「任せてだって」
「それじゃ、とっとと魔石も死体も回収して飲み行くにゃ」
「ナミル、そんな言い方不謹慎ですよお」
「仲間でも友人でもにゃい自業自得で死んだ奴の為に、仲間と友人が危険に晒されるんだから。軽口くらい許してくれってにゃ。」
なんか、憎まれ口叩くわりに、仲間思いな感じがヴィオラに似てるなぁ。
「結構そばに残ってるね」
階段の氷壁は既に溶けていた。
4層目は落ち着きを取り戻しているが、降りた付近にまだ20体は居る。
「散らばってるより楽じゃない?」
とグフリア。
「サクッとぶちかまして来るにゃ。コリコリ宜しく」
「その呼び方するなだしい」
緊張感の無い3人が降りていく。コリティスは呪文を唱えながら。
「~~ゲーノモス、ニュンペー『砂塵』」
強い風と共に砂埃がコボルト達を覆い去っていく。
今ので大半のコボルトが目を殺られたみたい。
「行くよ!」
グフリアの得物は、柄の短い片手用ハルバートと薔薇のトゲみたいなスパイクがいっぱい付いた小丸盾。
右手でハルバートを振り降ろし、突き刺し、左手のスパイクシールドで殴り殺す。
グフリアのイメージまんまの戦い方ね。
にゃーにゃー五月蝿いナミルは両手の短剣と脚で煙させていく。サンダルからはみ出してる爪がえげつない。
目潰し食らってるのもあって階段周辺のコボルトを易々と倒し、先に進んでいく。
因みにコリティスはレイピアを握ってはいるが2人の後ろで魔法でサポートしてる。
セドとアタシの目的地には20分かからず辿り着き、2人の亡骸を担いで来た道を戻る。
幸いにも帰り道でモンスターと遭遇することはなく、アタシはただセドの頭の上に乗ってるだけだった。
グフリア隊とヴィオラ班は、アタシ達が戻った時にはもうダンジョンの中心は越えていた。
グフリア達強いわね。でもセドとヴィオラだって負けないし、ウチの方がスタイリッシュなんだから。
ルーシ達の元に戻り、一旦遺体を降ろす。
4層目よりも明るいので傷のエグさが目立つ。
全身傷だらけで特に胸と背中が酷い。心臓をえぐり取ろうとしたんじゃないかって傷跡だ。
ディオとティチは礼を言った後、声を殺しながら泣いていた。
我慢しようとしても漏れる嗚咽に心が痛む。
1時間ほどでみんな帰ってきたのでそのまま街に戻る事になった。
リネットが先行で飛んでいき、馬車を取ってきてくれたので、遺体を他人の目に晒さずに済んだとディオが礼を言う。
ギルドで事情を説明し、ディオ、ティチと代表でセドが聴取を受ける。
グフリアが魔石の分配があるから残り、他は先に酒場に行っておく事にした。
さすがに楽しめないわね。ナミルも無理に明るく振る舞ってる様に見える。
セドとグフリアは意外と早く戻ってきた。
後の2人は手続きあるし、酒場に来るような心持ちじゃないので、先に分配済ませて別れたらしい。
「あんた達、本当に良かったのかい?」
酒場に来る前にウチのパーティーが話し合っといた、遠慮されない程度しか貰わないってのがグフリアには気掛かりだったらしい。
「あたし達は自分達が倒した分は貰ったから文句ないけど、残りってほぼほぼあんた達が倒したんでしょ?」
魔石は500個以上あったらしい。 それを2パーティーで60個づつ貰い、残りはディオ達に譲った。
コボルトは魔石が幾らになるのか知らないけど、60個あれば大銀貨6枚にはなるでしょうね。
「火葬するのもタダじゃないし、急に2人も欠けたらパーティー成り立たないでしょう。そしたら当分稼ぐのも大変じゃない」
あの子達、仕送りもしてるしね。
大銀貨38枚以上は貰ったとして、人独りなら2ヶ月働かなくても残る額だけど、それで死んじゃったら割に合わな過ぎるわね。
「あんた達、優しすぎだにゃ」
「別に、元々採集してたからってだけだよ」
たぶん今日は夕食取ったら直ぐ帰るのかな。
酒場にディオ達が来た。
「今日はありがとうございました。あと、ご迷惑もお掛けしてすみませんでした」
と頭を下げる。
「もう知らない仲じゃにゃいから大丈夫にゃ」
「これからどうするの?」
「明日火葬してから施設に連れて帰ろうと思います」
「そう」
「向うなら家族がいっぱいいるんで、そっちで弔ってやりたくて」
「その後はどうするんですかあ?」
「まだ決めてないですけど、俺は冒険者続けようと思ってます」
「私は‥‥」
こんな事になったんだもの、簡単に答え出せないわよね。
「戻って来て苦労するようならウチ頼りなよ。なんとかしてやれるかもしれないからさ」
「そうね。グフリアは顔が広いから相談乗って貰いなさい」
「はい。ありがとうございます。それじゃあ‥‥」
ディオ達が帰ってから程なくして、アタシ達もお開きになった。
「明日の朝帰るから、今日は早く寝な」
セドもしんどそう。結果的には4層目に行った目的は達成出来ただろうけど、後味悪く思ってるんだろうなぁ。
2人とも体を拭いてそうそうに床に着いた。
「ねぇ、ナナチャ。」
ルーシから念話してくるなんて珍しい。
「なぁに?」
「ボクの大切な人って誰?」
「急にどうしたの?」
「ナナチャが言ってた、ボクの血を飲ませてもいい人って誰なんだろう。」
「ああ、そうねぇ‥‥ ルーシが大切に思う人だから、アタシじゃ断言出来ないけど、パーティーのメンバーとか、ガイウス邸の人達とか? 一般的には家族とか仲間とか友人とかよね。」
「‥‥僕に家族っているの?」
あ、アタシ余計なこと口にしたわ。
「あのね、メルヴィルさんと心の中でお話した時ボク見たんだ。ぼくの中の記憶。いっぱい在った。家族かなって人もいっぱい居た。でも全部ボクの記憶じゃない気がしたんだ。ボクってなんなんだろう‥‥」
あぁ、なんて事でしょう。そんなに前から気付いて悩んでいた事に気がつかなかったなんて。
これはちゃんと話さなきゃ行けない時ね。
「ルーシ、アタシはサーリアの日記を読んだだけで本当の事なのかも分からないんだけど」
アタシはアタシが知り得る彼の出生を話してあげた。
「そっか‥‥ 教えてくれてありがとう。 ‥‥そっか。ボクは人じゃなかったんだ」
「それは違うわよ!ルーシは歴とした人よ」
「でも‥‥」
「アタシを見て。こんな姿してるけどアタシだって人よ。人の心持ってる。なのに、だから人の姿してて人の心持ってるルーシは間違いなく人よ」
「‥‥ ありがとう」
こんな話ししてても取り乱さない彼。まだ感情が備わってないんじゃないかって不安になったけど、そうじゃないみたい。
「じゃぁボクの大切な人はナナチャだね」
「あらウレシィ。照れちゃうわ。でも、大切な人って1人じゃなくてもいいんだからね。アタシと同じくらいに思える人が居たらその人も大切な人だって言っていいのよ」
「うん。わかった」
「それじゃぁ、そろそろ寝ましょうか」
「うん。おやすみナナチャ」
「おやすみルーシ」
‥‥
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