【完結】それでもあなたが欲しい~背徳の恋だとわかっていても~

夏目若葉

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Thank you for your love

Thank you for your love②

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「それでも私、亮平さんを心から愛してるの」
「奥さんとは戸籍上夫婦なだけで、所詮紙切れ一枚で繋がってるんだって、心のどこかで思ってるでしょ?」

 そう口にしてしまってから、佐知は「乱暴な言い回しでごめん」と小さく謝った。

「だけどね、妻って立場は強い。例えばの話だけど、屋島さんが会社で急病で倒れたとする。そしたら真っ先に連絡をもらうのは奥さんだし、もし入院したら病院への対応や彼の世話をするのも奥さんなんだよ。美耶には直接連絡は来ないし、見舞うことさえ許されない。この差は大きい」

 佐知の言葉が胸に突き刺さった。
 亮平さんになにかあったとき、そばで寄り添うのは奥さんなのだろう。それは色恋ではなく家族としてだけれど、私には踏み込めない領域だ。

 彼と奥さんは紙切れ一枚の関係なんかじゃない。
 私のほうがスマホで繋がっているだけの、土台もなにもない不確かな関係なんだ。
 さよなら、と告げられて連絡を絶たれたら終わる。

 だけど、ただ“好き”という純粋な感情だけで私たちは求め合っていると信じている。

「屋島さんが離婚しないのなら、美耶とは結婚できないのよ? ずっとコソコソ付き合うつもり?」
「……わかってる」

 今後彼とデートするときは注意して隠れて会わなければいけないし、奥さんにバレないように早い時間に解散するようにしないと……。
 きっと、我慢することも増える。
 そんな状態で会い続けても亮平さんは私のものにはならないのだ。

 佐知と話したあと自宅に戻った私は、少し頭を休ませようと思ってもあれやこれやと考えてしまって。
 脳がオーバーヒートしそうだった。

 私がしていることは世間的に言えば人の道にそむく“不倫”。
 既婚者にもてあそばれているのに、相手を信じきっているバカな女に映るだろう。
 亮平さんだって、ただの“浮気男”で、妻を裏切る最低の夫だ。

 だけど私たちは普通の不倫とは違って純愛で、本気で愛し合っているのだから、どんなに非難されても関係ない。
 わからない人たちにわかってもらう必要はない。

 ……そう思い込んでいた。ふたりだけの世界に浸っていた。
 でも、亮平さんはそれで幸せでいられるだろうか。
 
 私とこのまま付き合えば、亮平さんだって既婚者だという負い目を感じずにはいられないはず。
 そうなれば彼にいつも「ごめん」と謝らせることになる。

 不倫の代償として私自身は地獄に落ちてもいいけれど、彼はダメ。
 きれいごとだと笑われるかもしれないが、彼には常に幸せでいてほしいと願っているから。

 奥さんの情緒不安定を自分のせいだと責め続けるだけの人生ではなく、ポジティブに、笑って生きていってほしい。
 私にまで気を使いすぎて、彼の笑顔を消してしまうのは嫌だ。
 考えれば考えるほど、どんどんそっちの方向に思考が傾いていく。

「どんなに大好きで愛していても、突き進んじゃいけない恋があるんだね」

 家で缶ビールをあおりながらひとりごとが漏れる。
 焼け付くような感情が私の胸を苦しめ始めるのと同時に、目から大粒の涙がポロポロとこぼれた。

「辛くても、終わりにしなきゃ……」

 実際に言葉にしてみると、胸の中が切り刻まれたような猛烈な痛みが走った。
 まるで体の一部を失ったかのよう。

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