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Thank you for your love
Thank you for your love①
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***
私は亮平さんと一線を越えた。
“日陰の身”……そんな言葉が私の胸にのしかかる。この先誰にも彼との関係は言えやしない。
だけど、それもこれも全部承知だ。
亮平さんとの付き合いに覚悟を決めた矢先、佐知が就業後に渋い顔で声をかけてきた。
「美耶、ちょっと話せる?」
猛烈に嫌な予感がした。こういうときの勘はなぜか当たるものだ。
社内で誰もいない通路の隅に移動すると、佐知が周囲を見回したあと小声で話し始めた。
「私ね、今日……桧山物産の人たちが話してるのをたまたま聞いちゃったの。『屋島さんって既婚者なのにモテますよね』って言ってた。……彼、結婚してるみたい」
「…………」
顔から一気に血の気が引いた。
そうだ、佐知には亮平さんと付き合っていることを話してしまっていた。
それで彼が既婚者だと小耳に挟んだのなら、彼女は混乱するに決まっている。
「え、美耶は知ってたの? 最初から?」
特に驚きもしない私の様子を目にし、佐知は眉根を寄せて詰問した。
私は力なくふるふると小刻みに首を横に振る。
「私も知ったのは最近」
「屋島さん、結婚指輪をしていないから気づかなかったね。最低だよ、ずっと騙していたなんて。ありえない!」
「違うの、そうじゃないの」
憤る佐知の腕に触れれば、彼女が怒っているのがよくわかった。
だけど誤解はしてほしくない。亮平さんだけを悪者にするわけにはいかない。
「亮平さんは深い関係になる前に伝えてくれた。自分は既婚者だから、ここまでにしようって。でも私がそれでもいいって言ったの。どうしても彼が欲しかったから」
「美耶……」
佐知が苦虫を噛み潰したような顔で私の名を紡ぐ。
「で? 屋島さんはなんて? 奥さんと離婚するとでも言った?」
「離婚は……しないって」
「ほら~。美耶はかばってるけど、最初に食事に誘ってきて口説いたのは屋島さんのほうでしょ? 結婚してることは真っ先に伝えるべきなのにしなかった。男は結局ずるいのよ!」
たしかに佐知の言い分も一理ある。
嫌われるのが怖かったというのは言い訳とも取れるし、ずっと独身のフリをしていたのは事実だから。
「実は私も不倫の経験があるの」
「え?!」
佐知の発言に驚いて目を見開くと、彼女はバツ悪そうに私から視線を逸らせてうつむいた。
佐知も過去に不倫を? 彼女は恋愛にハマるタイプとは思えないので、にわかに信じがたい。
「私の不倫相手はね、奥さんとはもう冷えきってる、離婚間近だ、愛情なんてないって口癖みたいに言ってたんだけどね。本当は仲良し夫婦で、子ども含めて家庭円満だった。私はウソばかりつかれていたのに、それを信じちゃって。いつか彼と結婚したいって夢まで見てたのよ。バカでしょ?」
「佐知……亮平さんのところは事情が違うみたいなんだよ」
「屋島さんの家庭環境を私が知るはずないけど、美耶には私と同じような辛い思いはしてほしくない」
佐知は私のために苦言を呈してくれているのだ。
いくら私の脳が恋愛に支配されていても、そこはしっかりと理解できる。
私は亮平さんと一線を越えた。
“日陰の身”……そんな言葉が私の胸にのしかかる。この先誰にも彼との関係は言えやしない。
だけど、それもこれも全部承知だ。
亮平さんとの付き合いに覚悟を決めた矢先、佐知が就業後に渋い顔で声をかけてきた。
「美耶、ちょっと話せる?」
猛烈に嫌な予感がした。こういうときの勘はなぜか当たるものだ。
社内で誰もいない通路の隅に移動すると、佐知が周囲を見回したあと小声で話し始めた。
「私ね、今日……桧山物産の人たちが話してるのをたまたま聞いちゃったの。『屋島さんって既婚者なのにモテますよね』って言ってた。……彼、結婚してるみたい」
「…………」
顔から一気に血の気が引いた。
そうだ、佐知には亮平さんと付き合っていることを話してしまっていた。
それで彼が既婚者だと小耳に挟んだのなら、彼女は混乱するに決まっている。
「え、美耶は知ってたの? 最初から?」
特に驚きもしない私の様子を目にし、佐知は眉根を寄せて詰問した。
私は力なくふるふると小刻みに首を横に振る。
「私も知ったのは最近」
「屋島さん、結婚指輪をしていないから気づかなかったね。最低だよ、ずっと騙していたなんて。ありえない!」
「違うの、そうじゃないの」
憤る佐知の腕に触れれば、彼女が怒っているのがよくわかった。
だけど誤解はしてほしくない。亮平さんだけを悪者にするわけにはいかない。
「亮平さんは深い関係になる前に伝えてくれた。自分は既婚者だから、ここまでにしようって。でも私がそれでもいいって言ったの。どうしても彼が欲しかったから」
「美耶……」
佐知が苦虫を噛み潰したような顔で私の名を紡ぐ。
「で? 屋島さんはなんて? 奥さんと離婚するとでも言った?」
「離婚は……しないって」
「ほら~。美耶はかばってるけど、最初に食事に誘ってきて口説いたのは屋島さんのほうでしょ? 結婚してることは真っ先に伝えるべきなのにしなかった。男は結局ずるいのよ!」
たしかに佐知の言い分も一理ある。
嫌われるのが怖かったというのは言い訳とも取れるし、ずっと独身のフリをしていたのは事実だから。
「実は私も不倫の経験があるの」
「え?!」
佐知の発言に驚いて目を見開くと、彼女はバツ悪そうに私から視線を逸らせてうつむいた。
佐知も過去に不倫を? 彼女は恋愛にハマるタイプとは思えないので、にわかに信じがたい。
「私の不倫相手はね、奥さんとはもう冷えきってる、離婚間近だ、愛情なんてないって口癖みたいに言ってたんだけどね。本当は仲良し夫婦で、子ども含めて家庭円満だった。私はウソばかりつかれていたのに、それを信じちゃって。いつか彼と結婚したいって夢まで見てたのよ。バカでしょ?」
「佐知……亮平さんのところは事情が違うみたいなんだよ」
「屋島さんの家庭環境を私が知るはずないけど、美耶には私と同じような辛い思いはしてほしくない」
佐知は私のために苦言を呈してくれているのだ。
いくら私の脳が恋愛に支配されていても、そこはしっかりと理解できる。
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