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Thank you for your love
Thank you for your love③
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亮平さんの奥さんがどこまでの情緒不安定なのかはわからない。
最初にそれを聞いたときには、ホストに貢いで勝手に借金をしたのは奥さん本人なのだから、彼のせいにするのはひどいとすら思った。
だけどそんな奥さんに寄り添う決心をしたのもまた、彼自身なのだ。
無理強いされてもいないし、離婚したいとも思っていない。
それなのに私が彼のそばにいると主張するのは、独りよがりで一方的だと気づいた。
亮平さんだってこんな人生は予想だにしていなかったはずだが、彼はきっとこの生き方をやめないだろう。
だったら私だけは、彼を苦しめる存在になりたくない。
とはいえ、うだうだ悩んで結論を出すのに二週間かかった。
私は亮平さん中毒だ。彼を求めて喉が渇く。
けれど少しばかり水分を得ても、そのあと逆にもっともっと渇いてしまうと知っている。
今が一番辛い。私はこんなんでこの先生きていけるだろうかと不安になるくらい。
でも、考えあぐねて出した結論は変更しない。してはいけない。
『金曜日、一緒に食事しない?』
私は亮平さんにメッセージを送り、食事に誘った。
場所はもう決めてある。ネットに洒落た料理の写真が掲載されていたフレンチレストランだ。
約束の金曜になり、事前に予約をしておいたそのレストランで彼と待ち合わせた。
「美耶、お疲れ様。素敵な店だね」
私よりあとでやって来た亮平さんは、いつものようにやさしい笑みをたたえつつ辺りを見回す。
「亮平さんもお仕事お疲れ様です。ここね、個室があるし雰囲気もいいでしょ?」
このお店を選んだのは、完全個室の席が何室かあったから。
彼が結婚しているのを知らなかったころはまったく気にしなかったけれど、今は無防備ではいられない。
料理はコースのみだが、値段は思ったほど高くはなかった。
シャンパンを注文してふたりで乾杯をする。
程なくして前菜が運ばれてきた。スタイリッシュな盛り付けが美しく、まさに芸術品だ。
「……元気?」
メイン料理を食べ終えたときに突然、亮平さんが複雑な表情で私に尋ねた。
私はドキッとしながらも、小首をかしげながら「え?」と聞き返す。
「電話をしても、メッセージを交わしても、なんだか美耶が元気ない感じがして……」
亮平さんは私をよく見てくれているから、ここで無理に笑顔を作ってもすぐにバレてしまう。
最近の私の変化にも気づいているのだ。なにもかも彼にはお見通しなのだろう。
「全部俺のせいだよな。ごめん」
「ごめんはいらないよ。私、亮平さんに謝らせたくないの。惨めになる」
真剣に彼の瞳を見つめながら言うと、亮平さんは納得するように深くうなずいた。
「謝らなきゃいけないのは私のほう。あなたを悩ませて、さらなる重荷を背負わせてしまってるよね」
「そんなことない。辛い思いをさせてるのは俺なんだから。俺は既婚者で、美耶の全部を受け止めきれないくせに、好きな気持ちを止められなかった」
彼の口から“好きな気持ち”という言葉が自然に出たことで、こんな局面なのに私の口もとが少しだけ緩んだ。
「ちゃんと私を好きでいてくれたんだもんね」
「ああ、もちろん。俺は美耶にウソはつかない」
ただの男と女として愛し合っていた、心を通わせ合っていたと再確認したのだから、もう十分だ。
私は意を決して亮平さんを見据えた。
最初にそれを聞いたときには、ホストに貢いで勝手に借金をしたのは奥さん本人なのだから、彼のせいにするのはひどいとすら思った。
だけどそんな奥さんに寄り添う決心をしたのもまた、彼自身なのだ。
無理強いされてもいないし、離婚したいとも思っていない。
それなのに私が彼のそばにいると主張するのは、独りよがりで一方的だと気づいた。
亮平さんだってこんな人生は予想だにしていなかったはずだが、彼はきっとこの生き方をやめないだろう。
だったら私だけは、彼を苦しめる存在になりたくない。
とはいえ、うだうだ悩んで結論を出すのに二週間かかった。
私は亮平さん中毒だ。彼を求めて喉が渇く。
けれど少しばかり水分を得ても、そのあと逆にもっともっと渇いてしまうと知っている。
今が一番辛い。私はこんなんでこの先生きていけるだろうかと不安になるくらい。
でも、考えあぐねて出した結論は変更しない。してはいけない。
『金曜日、一緒に食事しない?』
私は亮平さんにメッセージを送り、食事に誘った。
場所はもう決めてある。ネットに洒落た料理の写真が掲載されていたフレンチレストランだ。
約束の金曜になり、事前に予約をしておいたそのレストランで彼と待ち合わせた。
「美耶、お疲れ様。素敵な店だね」
私よりあとでやって来た亮平さんは、いつものようにやさしい笑みをたたえつつ辺りを見回す。
「亮平さんもお仕事お疲れ様です。ここね、個室があるし雰囲気もいいでしょ?」
このお店を選んだのは、完全個室の席が何室かあったから。
彼が結婚しているのを知らなかったころはまったく気にしなかったけれど、今は無防備ではいられない。
料理はコースのみだが、値段は思ったほど高くはなかった。
シャンパンを注文してふたりで乾杯をする。
程なくして前菜が運ばれてきた。スタイリッシュな盛り付けが美しく、まさに芸術品だ。
「……元気?」
メイン料理を食べ終えたときに突然、亮平さんが複雑な表情で私に尋ねた。
私はドキッとしながらも、小首をかしげながら「え?」と聞き返す。
「電話をしても、メッセージを交わしても、なんだか美耶が元気ない感じがして……」
亮平さんは私をよく見てくれているから、ここで無理に笑顔を作ってもすぐにバレてしまう。
最近の私の変化にも気づいているのだ。なにもかも彼にはお見通しなのだろう。
「全部俺のせいだよな。ごめん」
「ごめんはいらないよ。私、亮平さんに謝らせたくないの。惨めになる」
真剣に彼の瞳を見つめながら言うと、亮平さんは納得するように深くうなずいた。
「謝らなきゃいけないのは私のほう。あなたを悩ませて、さらなる重荷を背負わせてしまってるよね」
「そんなことない。辛い思いをさせてるのは俺なんだから。俺は既婚者で、美耶の全部を受け止めきれないくせに、好きな気持ちを止められなかった」
彼の口から“好きな気持ち”という言葉が自然に出たことで、こんな局面なのに私の口もとが少しだけ緩んだ。
「ちゃんと私を好きでいてくれたんだもんね」
「ああ、もちろん。俺は美耶にウソはつかない」
ただの男と女として愛し合っていた、心を通わせ合っていたと再確認したのだから、もう十分だ。
私は意を決して亮平さんを見据えた。
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