36 / 38
祝福の鐘?
しおりを挟む今朝のことがあってから、天堂は妙に俺に絡んでくるようになり、毎度のように白木に振られ昼休みに昼飯を一緒にしながらその訳を聞いてみると
「ん?なんか、海道くんと一緒にいると女の子たちが僕に来なくてね。なんでだろうね、はははっ」
「今度は女除けか...」
いや、知らんのかよ。と彼女自身もよくわかっていない様子で、久留米の男除けとはまた違った効用が彼女にもたらされているのは確かだとは思うが、今度は女除けとして使われているのは少々癪だった。
「ん、嫌だったかい?」
彼女はおやつ抜きを突きつけられたゴールデンレトリバーのような切なそうな表情でそう聞いた。
「....構わねぇよ。」
今までは上手く行ってたとはいえ、今朝のような冤罪や女子生徒たちの暴走など、なまじ芝春を通して似たような事を対処した経験か、彼女の苦労を察して甘んじて受け入れる事にした。
「っ....ははっ...君は、優しいんだね。」
言葉数は多くなくとも此処にいて良いと、彼の広い優しさに触れた彼女は彼にしか見せない女の子らしい仕草で頬に手を当てて微笑んでいた。
「別に俺は....・・」
その後もたわいも無い話をして、昼休みの峠を越えた頃、飲み物が切れたため買いに行って、屋上に戻ると天堂は誰かと話し込んでいる様子だった。
「....私、ずっと前から。天堂くんの事が好きでした。付き合ってください!」
「......(早めに帰るか)」
「魚住さんの気持ちは素直に嬉しいよ。」
取り込み中だったのと、ハンバーガーセットが昼食だった彼は大した荷物もなかったため少し早いが教室へ戻ろうとしたが、事態はあらぬ方向へと向かっているようだった。
「本当っ?!私も!」
「ん?あー、その....」
やんわり断るための前置きを肯定的な意味と捉えられたのか、天堂は壁に追いやられてどう彼女を傷つけないか方便を考えていた。
「天堂くんっ、私....もっと、天堂くんを....」
「え...ぁ、ちょっ.....」
しかし、彼女の気持ちはそれだけでは収まらないようで、色々とおっぱじまりそうだったが、一応は男性としての立場にいる天堂は押し退けるかどうかあぐねており、天堂の秘密がばれかねない程の距離まで追い詰められていた。
ーーーードンっ!
その時、ドアが勢い良く開き、二人だけの時間は粉砕された。
「......ん」
「......あ」
「...え?」
良い噂を聞かない男が屋上に現れ、取り込み中の彼女らは一斉に彼の方を向いた。
(....こっから、どうすっかな)
事情を知っている彼は取り敢えずはそれを阻止したものの、ここからどうするかは即興で考えるしかなかった。
「....天堂、俺とは遊びだったのか?」
「....えっ?!は、うぇっ?!」
海道くんの爆弾発言に、女子生徒は学園の王子様の新情報に驚きのあまり、天堂から素早く離れて口を手で覆っていた。
「っ....いや...これは、君は遊びなんかじゃっ!」
腹を括った海道の助け舟を理解した天堂は、妙に様になっている演技で安っぽい昼ドラに乗っかった。
「良いんだ。天堂が、そうなら....」
「違うっ、僕は初めからずっと....」
海道は切ない表情で顔を逸らし諦観的な事を言うと、天堂は彼にしがみついて顔を埋めた。
「....あ、えっと....ごゆっくり....」
完全に海道と天堂だけの空間になったのを感じた女子生徒は、若干頬を赤めながら立ち去っていった。
「「......」」
「....行ったかい?」
階段を下る音が聞こえなくなった所で、天堂は彼に顔を埋めながらそう聞いた。
「あぁ.....ふぅ、もう離れていい。」
「っ、あ...そうだったね。はは....」
一向に彼から離れなかった天堂は、名残惜しそうにゆっくり彼から離れ、それを誤魔化すように切なさを滲ませながら微笑んだ。
「....(流石は王子か)」
ちょっと目を離した隙に、まぁまぁなピンチに遭遇していた彼女もまたイベントごとには事欠かないようで、本当に自分がスタンドのように女除けとして機能しているのだと実感した。
「んぅ、なんか失礼な事考えてない?」
王子とはいえ女の勘は備わっているようで、真っ白な頬袋を膨らませながら不服そうにまんまと彼の考えを言い当てた。
「それよりも、そろそろキツいだろ」
「ぐっ.....まぁ、そうだよね。」
今年一年、彼女の男装は完璧で俺と一人?位しかわからなかったが、今朝のようなイレギュラーや今回迫られた事も、本来ならば事態を覆すには真実を話す必要があった。
「そも、そうまでしてやる必要があるのか?」
「あー、そういえば話してなかったね。このしきたりは天堂家代々の続くものでね。初めは・ーーー」
彼女が言うには、武家人時代にどうしても女子しか生まれない年があり、男系継承主義も相まってか世継ぎが決まらない事態に陥ったらしい。しかし、それでも当主を決めなくてはならないため、名目的に男として長女を当主にした。
すると、どういう訳か数多の戦場で武功を挙げるようになり、多大な領地を獲得した結果、今では不動産業を基盤として多種多様な分野への事業投資を積極的に行なった事で今の天堂家があるらしい。
「・・ん、ゲン担ぎって事か?」
話を聞く限りでは、そういう解釈に至った。
「うん、まぁ.....それでなんだけど、それを始めた当主はその後、豪傑な武将を婿養子に迎えてさらに繁栄したとかで.....」
彼の解釈は合ってるには合っているが、彼女が言うには強き男になる事で更なる強い男を縁結びするという意図があるようだった。
「....そうか、まぁ頑張れ」
「っ.....」
『ーーー・・飛鳥、わかってるな?』
嫌に色々と合点はいったものの、皆まで聞きたくなかった彼はその場を静かに去ろうとするが、彼女に止められてしまった。
「君は、なぜそんなに何でも持っているんだい?」
「ん?」
彼女は顔を伏せながら放った言葉は、俺には似つかない文言だった。
「知力も、膂力も、夏の期間だけで僕を遥かに上回るまで至った。それに、父さんからも認められて.......15年間積み上げてきた僕は君に負けた。」
「あ?」
いきなりなんの話かと思えば、彼女はぽっと出の俺に負けた事をつらつらと話し始めた。
「..何か秘密があるのかな、教えてくれるなら...僕は何でもするよ。さっき助けてくれたお礼と、勝利報酬もあるからね。」
「おい、それはこの前の質問でチャラじゃないのかよ。」
借りるのはともかく、貸しをつけるのも貸し付ける相手によってはリスクになるのだと今更ながら痛感した。
「そんなの父が許すわけないよ。何でも言って...僕こう見えて結構...」
彼女は普通の男子高校生だったら歓喜狂乱しそうな甘い言葉を囁きながら、壁を背ににじり寄って来た。
「は?.....ちょっと待て、俺はただ...」
明らかに雰囲気が変わった彼女は王子というよりも、主人公を惑わす妖艶の魔女のようで、彼女の甘く切ない毒牙が鼻腔を通いつつも、大層ではない答えを躊躇いなく話そうとした。
「ただ?!」
すると、彼女はサラシ巻き越しに胸を押し付けながら節操なく身を乗り出してきた。
しかし、彼が持つ答えは、普遍的で黄金律に最も作用する因子で、劇薬的なものではなかった。
「運が良いだけだ。」
「.........え?」
「っと....俺はジィさんの遺伝子を色濃く受け継いだだけで、俺自身の人間性は特筆した物はない。その点、お前は十二分に俺より勝っている。」
きょとんとしている彼女の華奢な肩を掴んで引き離しながら、彼は名目上のステータス値よりも人間性の方が評価されるべきとらしくない事を豪語していた。
「....そうか」
先までの彼女が納得できるような回答ではなかったが、彼女は妙に大人しくなり、顎に手を当てて神妙な面持ちを浮かべていた。
「.....(とりあえず収まったか?)」
「.....わかった。」
彼女の顔色を窺っていると、何か腑に落ちたのか一転して晴れやかな表情で、蒼く澄んだ海のような瞳が彼を射抜いた。
「っ....そ、そうか、じゃ....」
「待って」
「?」
射抜いた者を全て呑み込んでしまうような彼女の瞳を逸らしつつ、とりあえずは場が収まったとしてその場を離れようとするが、彼女はまだ終わっておらず、彼女は彼の前に跪いた。
「....なら、僕と結婚しよう。」
ーーーードーンっ!
「「「「ダメーっ!!」」」」
王子様さながらのプロポーズをされた途端、彼が飲み物を買いに行った時から付けていた久留米やソフィア、青鷺らがドアを突き破って異議ありを申した。
10
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる