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Study93: still「それでも」
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「待って、真崎くん、ちょっと待って!」
殴りかかりそうな真崎を必死で止める。
「 ── っいた」
思わず前傾姿勢になったら結束バンドが皮膚を擦って、鋭い痛みが走った。
あまりの痛みにかけようとした言葉を失う。
「………真崎くん」
真崎にいつもの余裕も冷静さもない。
苛立ちや焦りや不安を身体中に纏っているように見える。
名前を呼ばれ、夢月を見る真崎の目に迷いが揺れた。
「とりあえず………」
迷いを振り切るように真崎が園田から手を離す。
「彼女、返して貰いますね」
真崎がそう言うと夢月に向かい歩を進める。
園田に背を向けた真崎に、夢月はドキリとしていた。
あの襲撃犯が園田だったと言うことは、真崎は一度、園田に斬られている。
今回もナイフを持っているかもしれない。
今になってそんな不安が芽生えた。
真崎が背を向けている分、夢月は園田を瞬きせずに凝視する。
「高橋先生、貴女は本気で彼と?」
苦々しく真崎を睨みつけていた園田が、夢月に視線を移した。
園田も幾分冷静さを取り戻しているようだ。
「ええ、私が付き合っているのは真崎くんです」
「………二股、ですか?」
「ち、違います!」
「だけれど貴女は婚約しているじゃないか!」
「それは私達の関係を隠す為に、清水先生がついてくれた嘘です」
清水の名を出したとたんに園田が怯んだ。
思った通り、園田は勘違いをしている。
こんな大それた勘違いをすると言うことは、それなりの根拠があると言う事で、誘拐まで実行したのは思い詰めるだけの信頼性の高い情報が入ったと言う事。
「私と清水先生はフェイクなんです」
園田の顔色を変え、夢月を見る瞳に後ろめたさを滲ませた。
真崎が夢月の前にしゃがみ込み、表情を曇らせる。
そうして腑に落ちたようだった。
「………あー、そー、蓮絡みかよ」
小さく呟いてズボンのポケットから何かを取り出した。
「夢月、ごめん」
パチンと音を立てバタフライナイフを開くと、手首の結束バンドを切る。
真崎がそんな物を持ち歩いていた事に夢月は言葉を無くした。
『夢月はオレが守る』
GPSにナイフ、真崎はどれだけ備え警戒していたのだろうか………
夢月は自由になった手を真崎の首元に回す。
怖くない訳がない。
「マジで寿命縮んだ、夢月が消えて」
夢月の体を受け止め、真崎の腕が背中に回り力が込められた。
「真崎くん、ありがと………」
真崎の耳元に頬を寄せ、夢月は今になって震え出す指先に気づく。
「貴女、高校生を相手に本気なんですね」
茫然と佇みながら園田がうわ言のように呟いた。
それは侮蔑や非難ではなく、まるで相槌のようで、清水への想いの丈や葛藤を表しているように聞こえた。
「それでも………」
園田も偏見や世の中が決めた常識に心を痛めながら、清水への想いを抱えてきたのだろうか。
夢月は溢れてきそうな涙を堪え、続ける。
「それでも、好きになったらどうにもならないから」
「 ………… 」
「園田さんもそうでしょう?世間に後ろ指さされても、好きな気持ちは止められないでしょう?」
「そう、ですね………」
園田が寂しそうに応える。
清水は性別など関係なく自分本位な恋愛をしてきた印象が強い。
園田は清水とどんな関係を築いていたのだろうか。
園田は誘拐をして何をしたかったのだろうか。
殴りかかりそうな真崎を必死で止める。
「 ── っいた」
思わず前傾姿勢になったら結束バンドが皮膚を擦って、鋭い痛みが走った。
あまりの痛みにかけようとした言葉を失う。
「………真崎くん」
真崎にいつもの余裕も冷静さもない。
苛立ちや焦りや不安を身体中に纏っているように見える。
名前を呼ばれ、夢月を見る真崎の目に迷いが揺れた。
「とりあえず………」
迷いを振り切るように真崎が園田から手を離す。
「彼女、返して貰いますね」
真崎がそう言うと夢月に向かい歩を進める。
園田に背を向けた真崎に、夢月はドキリとしていた。
あの襲撃犯が園田だったと言うことは、真崎は一度、園田に斬られている。
今回もナイフを持っているかもしれない。
今になってそんな不安が芽生えた。
真崎が背を向けている分、夢月は園田を瞬きせずに凝視する。
「高橋先生、貴女は本気で彼と?」
苦々しく真崎を睨みつけていた園田が、夢月に視線を移した。
園田も幾分冷静さを取り戻しているようだ。
「ええ、私が付き合っているのは真崎くんです」
「………二股、ですか?」
「ち、違います!」
「だけれど貴女は婚約しているじゃないか!」
「それは私達の関係を隠す為に、清水先生がついてくれた嘘です」
清水の名を出したとたんに園田が怯んだ。
思った通り、園田は勘違いをしている。
こんな大それた勘違いをすると言うことは、それなりの根拠があると言う事で、誘拐まで実行したのは思い詰めるだけの信頼性の高い情報が入ったと言う事。
「私と清水先生はフェイクなんです」
園田の顔色を変え、夢月を見る瞳に後ろめたさを滲ませた。
真崎が夢月の前にしゃがみ込み、表情を曇らせる。
そうして腑に落ちたようだった。
「………あー、そー、蓮絡みかよ」
小さく呟いてズボンのポケットから何かを取り出した。
「夢月、ごめん」
パチンと音を立てバタフライナイフを開くと、手首の結束バンドを切る。
真崎がそんな物を持ち歩いていた事に夢月は言葉を無くした。
『夢月はオレが守る』
GPSにナイフ、真崎はどれだけ備え警戒していたのだろうか………
夢月は自由になった手を真崎の首元に回す。
怖くない訳がない。
「マジで寿命縮んだ、夢月が消えて」
夢月の体を受け止め、真崎の腕が背中に回り力が込められた。
「真崎くん、ありがと………」
真崎の耳元に頬を寄せ、夢月は今になって震え出す指先に気づく。
「貴女、高校生を相手に本気なんですね」
茫然と佇みながら園田がうわ言のように呟いた。
それは侮蔑や非難ではなく、まるで相槌のようで、清水への想いの丈や葛藤を表しているように聞こえた。
「それでも………」
園田も偏見や世の中が決めた常識に心を痛めながら、清水への想いを抱えてきたのだろうか。
夢月は溢れてきそうな涙を堪え、続ける。
「それでも、好きになったらどうにもならないから」
「 ………… 」
「園田さんもそうでしょう?世間に後ろ指さされても、好きな気持ちは止められないでしょう?」
「そう、ですね………」
園田が寂しそうに応える。
清水は性別など関係なく自分本位な恋愛をしてきた印象が強い。
園田は清水とどんな関係を築いていたのだろうか。
園田は誘拐をして何をしたかったのだろうか。
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