尽くされ男と尽姉妹

霞ヶ丘霞

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   第三話 入学式前日

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 晴は二日ぶりに、実家の自分の部屋で寝ていた。朝いつもどおり、咲希と凪沙が寝ているのを起こさないように静かに起きて、一階の洗面台に向かう。
「やっぱこっちの方が慣れてるなぁ」
 そんなことをつぶやきながら顔を洗って、歯磨きを済ませ、リビングに向かう。これまた見慣れた景色だ。陽菜が朝ごはんを作り、小春が料理が乗った皿を並べ、春花がごはんをごはんをよそう。光はというと、いつもどおりソファに座りながら、テレビでニュースを見ている。今日の運勢やら天気予報やらを重点的に見ているようだ。その他のコーナーやニュースは興味なさそうに見ている。
「光も手伝った方がいいんじゃないか?」
「はーい」
 そう言って光はキッチンの方へ向かった。こうやって言うことを聞いてくれるから本当に良い子達だ。
陽姉はるねえ俺も何か手伝おうか?」
「ううん、もう準備はできたから、じゃあ、咲希と凪沙を呼んできて」
「わかった」
 そう言って、咲希と凪沙を呼びに行った。


 朝食を済ませたあと、また来ると言って小春と一緒にマンションに帰った。
「さて、入学の準備もできてるし、今日は何も予定はないな…」
 すると、小春がじぃっと視線を向けてきた。そして、両手を合わせ、思いついたという様な表情をした。
「じゃあ、どこか出かけようよ!」
「まぁ、特にすることもないし、どこか行くか」
 そう言って同意すると、小春はとても嬉しそうに微笑んだ。
「やったぁ!」


 妹とデートすることになった。
 特にすることもなかったし、流れで同意したのはいいが、兄妹とはいえ男女で出かけるといったらデートと定義することになる。妹なのでドキドキする、なんてことはない、とは思う。晴は、そんなことを考えながら小春の着替えを待っていた。兄妹なんだから別に気にしないのに、と小春は言っていたが、晴にとっては、兄妹でもさすがに同じ部屋で着替えるのは目のやり場に困る。そもそもの話、以前小春がそう言うので同じ部屋で着替えたところ、途中で恥ずかしくなったのか、晴に物を投げつけるという事件があった。
「別に、外に出なくてもいいじゃん」
「小春は絶対、途中から恥ずかしくなってくるからね?それに、にあるものをに投げつけてくるから、怖いんだよ」
 すると小春は頬を膨らませ、むぅと唸った。
「もうそんなことしないもんっ」
 そんな小春を見てため息が溢れた。
「小春、世の中の妹に一緒に着替えをしたがる妹なんていないぞ?」
 そう言うと小春は、いっそう頬をふくらませる。
「世の中の妹がおかしいんだよ、お兄ちゃんは優しいし、かっこいいし、世の中の兄はよっぽど駄目駄目な兄なんだね」
「いや、小春……」
 俺も、その駄目駄目な兄の中に入るところだったんだよ?と言おうとして、これ以上何か言うとせっかく出かけようとしていたのに、小春が機嫌を悪くしそうだったので、止めておく。
(ほんと、小春は可愛いなぁ……)
 そう思ってしまう自分は甘いなぁと、晴は思った。
「まぁ、いっか、さ、どこに出かける?」
「うーん、そうだなぁ」
 そう言いながら二人は外に出た。そして目的地もなく、歩き始める。
「とりあえず、駅を目指そうか」
 そもそも、駅に行かなければどこにも行けない。

 結局、電車に乗って最寄りのショッピングモールに行くことになった。
「さ、どこから周る?」
「もう、端から端まで周っちゃお!」
 小春はそう言って、機嫌良さそうに歩き出した。こういう場所に来て、困ることが一つあった。それは視線だ。なぜなら隣にいるのは、誰がどう見ても、百人が百人、異口同音にして言う、それも絶世が付く美少女だ。陽菜や他の妹も、それに負けないくらいの美少女っぷりだが、やはり一番は小春だ。恐らく母晴子の遺伝が最も強いためであろう。母は昔、モデルをやっていたこともあり、それ相応の美人といえる。そしてそれを未だにキープしていて、全くその年齢を感じさせない美貌は、一緒に歩いていて年の離れた姉弟と間違われたほどだ。小春は母とはちょっと違う、可愛さも備えた美人さだ。なので、自然と周りの視線を集めてしまう。こいういう場所に来たときはいつも、この羨望や嫉妬の視線に当てられて、バテてしまっていた。
(そんな視線を注がれても、隣にいる美少女は、彼女ではなく、妹なんだよなぁ……)
 すると、そんな視線を気にする晴に気づいたのか、小春が心配そうな顔で覗き込んできた。
「お兄ちゃん、大丈夫…?」
 このままだと小春が遠慮して、帰ろうか?と言いそうだったので、頑張って平静を装う。
(小春とせっかく来たんだ、小春も楽しそうだったし、そこを俺だけの都合で邪魔する訳にはいかない)
 そう心の中で決意を固め、また歩き出す。
「お兄ちゃん、無理しなくていいんだよ…?」
「小春、大丈夫だから、ね?次は、どこ…」
 そう言いかけた瞬間、小春が晴の腕にぎゅっとしがみついた。
「お兄ちゃん無理してる…」
 すると思わず、意表を突かれた顔をしてしまった。
「ほら…」
「はぁ、ほんと小春は感が良すぎる…」
 そう、ため息混じりで言うと、小春はどこか誇らしげな顔をした。
「だって、妹ですから」
 小春はそう言って、ふふっと微笑んだ。
 その台詞言ってみたかったんだろうなぁと思いながら、小春の微笑ましい姿に自然とえみが溢れる。
「あ、そうだお兄ちゃん、ちょっとカフェで休憩しない?」
 そう言って、すぐそこにあるカフェを指差す。
「そうだな、休憩しようか」
 カフェに入ると、女性の店員が丁寧に接客をしてくれる。
「お二人様でよろしかったでしょうか」
「はい」
 最初、女性の店員は小春の容姿に、まるで豆鉄砲をくらったかのような顔をしていた。そして、これはいつもそうなのだが、その次に晴を見て微笑ましそうな顔をする。
(だから、彼女じゃないんですって…)
 そう内心で思いながら、周りの生暖かい視線や、嫉妬の様な視線をなるべく気にしないようにし、席に座った。
「俺は、とりあえずコーヒーでいいかな」
 アイスもいいと思ったがちょっと季節的に早いかなと感じた。
 そして、小春は?と視線を向けると、意を決した表情をしていた。
「ど、どうした…?小春…?」
「お兄ちゃん、私もコーヒーにする」
 なぜ、意を決したような顔をしていたのか、合点がいく。
 そして、店員が来て注文を取り始めた。
「ホットコーヒーを2つで」
 店員はもう一度注文を繰り返すと、ごゆっくりどうぞと言って去っていった。
「だ、大丈夫なのか?小春、ソフトドリンクの方が…」
 そう言うと、小春はむっとした表情を作り、目じりに涙を滲ませ、晴に抗議してきた。
「大丈夫だもんっ、もう高校生なんだから、コーヒー、くらい…飲めるもん……」
 段々弱々しくなっていく小春の口調に微笑ましさを覚える。
 そう、小春は甘党なのだ。昔から甘いものが好きで、辛いもの、苦いもの、っぱいものが苦手だった。それは晴も同じだった、さすがにブラックで飲むつもりはない、砂糖を入れないとコーヒーは飲めないが、小春はそれすらも飲めない。恐らく砂糖増し増しでないと口につけることもできなかった。この話は中学一年生のときのものなので、今は分からないが。
「それにね、飲めないと、ずっと味覚が一緒だったお兄ちゃんに置いて行かれているようでいやなの…」
「なるほどね」
 そういう理由があったのかと晴は理解した。小春は意外と寂しがりやでもあったので、コーヒーを飲みだした晴に置いて行かれている気がして、少し寂しかったのだろう。
「生まれたときから、ずっと一緒で、味覚も好みも毎回一緒で、それで喧嘩したりもしたね」
「そんなこともあったな」
「でも、いつの間にかお兄ちゃんのことが好きで好きでたまらなくなってた」
 そう言うと、小春は段々顔を赤らめていった。自分で言った言動で羞恥に染まる小春を見て、さっきの言葉を思い出した晴も少し恥ずかしくなった。
「まぁ、そういうことなら、止めるわけにもいかないか…」
 晴はそう言ってため息を吐き、砂糖を少し多めに持ってきた方がいいと思った。
「お待たせいたしました」
 そうこうしているうちに店員がコーヒーを持ってくる。そして、コーヒーをそれぞれテーブルに置きながら、店員はにこやかな表情をして、
「すごく仲のいいカップルですね、羨ましです」
こう言った。
 それに対して、別に何も言わなくていいかとも思ったが、小春の為にも一応訂正しておく。
「い、いえ、兄妹ですので…はは」
 晴はそう言って苦笑を浮かべる。すると店員は、錆びついた機械のような首使いで小春に視線を向ける。
 そうなんですか?と視線を向けられた小春は少し不機嫌に晴を睨みつけながら、「はい…」と頷いた。
「も、申し訳ありませんっ…!」
 店員はそう言って、何度も平謝りし、店裏に消えていった。
「勘違いさせたままでも良かったのに」
 まだ不機嫌そうにそっぽを向いてる小春は、唇を尖らせていた。
「い、いやさすがに駄目だろ?小春のためにも」
 その言葉が嬉しかったのか、少し機嫌を直した小春は、お詫びに、帰ったら何か言うこと聞いてねと言って、コーヒーに砂糖とミルクを入れ、口につける。
「っ……!?お兄ちゃん…!」
「ん?」
「飲める…!」
 そう言って、子供みたいにはしゃぐ小春を見て、晴は微笑んだ。
 そして、コーヒーも飲んで一休みした後、次にどこに行くかを決めていた。
「小春は何か買うものとかないのか?ほら、春物とか、ちょっと早いけど夏物とか」
「んー、そうだね、春物の服をちょっと買いたいかも」
「じゃあ、そうするか」
 そう言ってカフェを出て、服飾系が集まっているフロアへ向かった。
 すると、後ろから晴や小春にとっては聞き慣れた声が飛んできた。
「あれ?晴くん?」
 そして、後ろを振り向くとそこには幼馴染である、橘小菜たちばなさなが立っていた。


 晴と小春の高校入学まであと1日!
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