13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第1章 青春期

視線の先にあるもの

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いつもの学園、いつもの席。

カトリーナ・エーレンベルクは、開いた本のページをぼんやりと指でなぞっていた。

数日前からの疲れが抜けない。いや、それどころか蓄積され続けている。昨日もまともに寝ることができなかった。

目の奥が重い。
身体もどこか鈍く、鉛のように動かしづらい。

以前なら、寝不足でも気力で何とか持ち堪えようとした。
けれど、今はもう、その気力すら湧かない。

本の内容がまるで頭に入ってこない。
文字がただの黒い線の羅列に見えて、次の瞬間には意味が霧散していく。

ぼんやりとページを流していたそのとき——

「お前、随分ひどい顔をしているな」

低く冷ややかな声が、耳を打った。

瞬間、心臓が跳ねる。

隣を見ると、ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンがいつの間にか腰掛けていた。

彼の金の瞳が、じっとこちらを覗き込んでいる。

「……何のこと?」

表情を崩さないように努めるが、ヴィクトルの視線は鋭かった。

「目の下のクマが濃い」

そう言いながら、彼の指先がひんやりと頬に触れた。

驚く間もなく、彼の指がすっと目の下をなぞる。
その感触が、ひどく生々しく感じられた。

瞬間、カトリーナの背筋が硬直する。

——気づかれた?

「最近、まともに寝ていないんじゃないか?」

ヴィクトルの声は淡々としていたが、何かを探るような色を帯びていた。

その視線に、耐えられなかった。

「……何でもない」

カトリーナは視線を逸らし、そっけなく答える。

「何でもないわ」

もう一度、念を押すように繰り返す。

しかし、ヴィクトルはまるで動じる様子がない。

「何でもないならいいが——お前のことだ、どうせくだらないことに執着しているんだろう」

「……くだらないこと?」

カトリーナは思わず睨みつけそうになったが、すんでのところで表情を抑える。

「俺に何かを隠したいなら、もう少し上手くやれ。見え透いている」

ヴィクトルは薄く笑う。

——こいつには知られたくない。

家でのことも。
自分がどれほど無駄な努力をして、どれほど報われない日々を送っているのかも。

ヴィクトルに知られたら、どう思われるだろう。

哀れみか?
同情か?
それとも……憐れんで、優しくするのか?

どれも、耐えられない。

カトリーナは彼の顔を見ないように、ゆっくりと本のページをめくる。

「何もないわよ。ただの寝不足」

そう言って、読みもしない文字を目で追った。

ヴィクトルは、それ以上何も言わなかった。

だが、その視線だけは、なおもカトリーナを追い続けていた。
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