あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない!

ハートリオ

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04 悩める王女

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「…はぁ…」

今日だけでもう数え切れないほどの悩ましい溜息をまた一つ。

物憂げな瞳に長い睫毛が影を落とす。

「‥ッ‥」

いたたまれない様に彷徨わせた瞳は鏡に映る泣きそうな自分を捉える。

(何て顔…自分の無力さに嫌気がさすわ…私は強くあらねばならないのに…)

苦々しく視線を逸らす悩める乙女はピウス・カラクテリスティカ、18才。
カラクテリスティカ王国第一王女である。

そんな彼女がいるのはアッロガーンス王国王都にある修道院の質素な小部屋。
侍女どころかメイド1人いないベッドと机と小タンスだけのシンプルな部屋。

一国の王女が暮らす部屋とは思えないが、修道院長がピウスの母と旧知の仲であるこの修道院での滞在は母が生前に決めた事。

15年前、ピウスの母カラクテリスティカ正妃は憐れな娘が無理なく嫁げるようにといくつかの取り決めをした。

先ずはピウスが15才の年にアッロガーンス入りし、住まいは王宮ではなく修道院としてアッロガーンス王立学校にて学び、言葉を身につけ文化などを理解すること。
王宮に入り王太子妃教育を受けるのは王立学校卒業後とすること…

予定通り15才でアッロガーンス入りし修道院に身を寄せたピウス。

だがカラクテリスティカ王国はピウスの為の費用を出さないと言い出した。

ピウスの滞在費用は母国が持つと決めてあったのに――元側妃の嫌がらせである。

困った顔の修道院長にピウスは特別扱いは要らない、皆と同じ生活を望むと告げ実際にそうして、更に奉仕活動にも出来る限り参加している。

清貧かつ奉仕活動に忙しく動き回る生活は存外苦ではなく逆に充実している。

ここでのそんな暮らしももう3年になる。

カフェでテナークスに別れを宣言されたのは半年前。

正式な婚約破棄の呼び出しを待っているうちにあっという間に時が過ぎ…

王立学校卒業6日前となってしまった。

そう、ピウスは6日後には王立学校を卒業する。

(テナークス殿下は一体どうする御積もりなのかしら?)

卒業と同時に修道院を出てアッロガーンス王宮に入り、王太子妃教育を受けて結婚となる予定――

は、もう過去の予定。

王太子とは半年も前に終わっている。

彼がカフェから去って行く姿を見たのが最後で。

それまでは王立学校で同じクラスだったが、偶然かそれとも王太子の意向なのかピウスは別室で個人授業を受ける事になり王太子と教室で顔を合わせる事も無くなり。

半年間、姿を見かける事すら無かった…

(そもそも、王太子との関係が変わったのは私がアッロガーンス王国にやって来たその日からだったのよね)

あの日起きた事はピウスの中でいまだ未解決でくすぶり続けている。

アッロガーンス王妃は敵認定でいい。

執拗に閨を求められる度にやはり王太子もあれに関与していたのかと不信感が増すばかりで――

小さな頃は何の陰りもなく見つめ合えた瞳を直視出来なくなり――

そして今、別れを宣言されたまま半年が過ぎ去っている。

(こんな時どうしたらいいの?正解が分からない)

これは間違いなく窮地だ。

このままでは――

ピウスはブルリと身震いする。

(アッロガーンス王妃は恐ろしい人…何をされるか分からない…)

オーバーではなく命の危険がある。

何を考えているか分からない王も味方にはなり得ない。

アッロガーンス王家に信頼できる人がいない中でピウスはどうしたらいいか分からず途方に暮れている。

(…お母様…私はどうしたらいいの…)

ベッドに座っていたピウスはツイと立ち上がり机の引き出しの奥から母からの最後の手紙を取り出し広げる。

母の美しい文字を指でなぞり
もう暗記している内容を読み返す。

(お母様の仰る通りよ…でもそれを貫くには私は無力過ぎて…)


ココンッ

ハッ‥!

こんな夜更けに窓を叩く音?
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