あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない!

ハートリオ

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05 王女は決意する

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ピウスは音がした気がする窓に近付く。

気のせい‥よね?

だってこの権威ある修道院は警備が厳しいし
この部屋は高い塔の天辺にあるのだし――

コココンッ

気のせいではない…

恐る恐るカーテンを少し開け外を覗けば…

「‥あ!アクー‥」

ピウスは顔見知りである黒髪黒目の神秘的な美丈夫にホッとするが。

「シッ‥お静かに。
こちらを届けに参りました」

アクーメンはそう言って懐から手紙を出しピウスに差し出す。

「‥まぁ手紙ね!ありがとう!
あの、どうぞ入って。
お茶でも‥」
「とんでもございません。
主に叱られます。
私はここで。
出来れば一言でもいいのでお返事を頂けたらと…」
「‥あ!あぁそうよね(こんな夜更けに男性を部屋に入れるわけにいかないわよね)‥では少し待ってね」

ピウスは急いで手紙を開きたいのだがはやる心のせいか震えて手こずってしまう。

寒いのにしかも高い塔なのに窓の外で待たせている男に『ごめんなさいね、急ぐわね』と言いながらやっと手紙を開いて食い入るように文字を追えば――

「‥え!?‥なッ‥」

何てこと。
こんな事があるだなんて…

手紙には長年の婚約者テナークスと男爵令嬢の親密な関係が記されていた。

男爵令嬢の存在は知っていたけどそこまで親密だとは知らなかった…テナークス殿下は既に理想の『優しい女』を見つけていた…なのに何故正式に婚約解消しないの?…ハッ…もしかして卒業パーティーで婚約破棄!?…でも…それにしたって男爵令嬢が私に何も言ってこないのは解せないわ…まさか――

ピウスは手紙から目を上げる。
手紙を持つ手が震えている。

もしかして――そういう事?

(だったら…私は戦うわ!)

ピウスは決断する!

(妃に相応しい者…正当な権利を持つ者が妃になるべきだもの!)

机の上の便せんにサラサラとペンを走らせ手紙のお礼とお願いを簡潔にしたためる。

アクーメンはその様子を目の端に映しながら…
立てばスラリと高身長の体躯を縮めて置物の様に身動き一つせず待っている。

(…もし誰かにその姿を見とがめられてもきっと美しい彫刻だと思うわね…)

そんな風に思いながらアクーメンに手紙を託すピウス。

興奮の為か少し息が弾んでいる。

「先ほどは死にそうな顔をされてましたが…
今は良い表情をされております」
「…えっ?」
「とても魅力的です」
「え、ええ!?」

無駄話をするイメージが全然無いアクーメンさんがそんな事を言うなんて?

すっかり面食らったピウスが『揶揄わないで』と言おうとした時には彼は既に闇夜に消えており。

ピウスは肩をすくめて窓を閉めて。

(良い表情って?)

思わず鏡を覗き込み確かめる。

(私…こんな顔も出来るのね)

そこにはキッと目を開き決意に満ちた――強そうな女がいる。

鏡に頷き拳を握る。

卒業まで6日。

半年前に別れを宣言したまま放置の王太子殿下、
私この6日間であなたを振り向かせます!

私達の運命を変える為に――
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