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22 側近ストゥディウムの憂鬱
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翌日も同じ様に馬車留めで王太子の登校を待っていたピウス。
馬車を降りて来る王太子に話し掛けようと近付いて行くと…
「申し訳ございません、王女殿下。
王太子殿下は落ちこぼれ教室までドロースス男爵令嬢をエスコートされますので。
お声掛けはご遠慮頂きたいとのことです」
そう言って来たのは昨日はいなかった王太子の側近――
王太子が男爵令嬢と付き合うようになってからは遠ざけられていた側近ストゥディウムがピウスの前に立ちはだかり王太子に近づくのを阻止するが…
体を固くし眉尻を下げ目を伏せた様子はピウスに対する申し訳なさで溢れている…
王太子は馬車の中に戻ってしまったのでピウスは気の毒な側近に声を掛ける。
「…お久しぶりね、ストゥディウム様。
少し痩せたのではなくて?」
「‥あ!いえ…お久しぶりです、私は変わりません。お優しいお言葉ありがとうございます。…王女殿下は益々光り輝く様に美しく尊く…まるで春の女神が舞い降りられたかの様で…心の震えが止まりません…」
「まぁ…ふふっ、ありがとう。…それが本当ならこんな風にテナークス殿下に避けられる事はないのでしょうけど…」
そう言って目を伏せる美しい人に。
ストゥディウムは堪らない気持ちで歯噛みする。
これほどに美しく尊い婚約者が歩み寄ろうとされているのに、あんな下品なだけの男爵令嬢の言いなりになって――我が主は気が触れておしまいになったのか!?
「いいえ本当にお美しいです…テナークス殿下は正気‥いえ平常心を無くされているようで…でも必ず元の殿下に戻られるはずです!‥そうすれば‥」
「ありがとう。ストゥディウム様は相変わらずお優しいことね‥やはり少し痩せた様ね‥そんなに悩んでは駄目よ?人の心はどうすることも出来ないのだから…ね?」
「‥ッ!‥は、はいっ!‥あ、ありがとうございますっ‥」
優しい言葉に感激して涙目になるストゥディウム。
真面目な側近の悩みの深さは如何ほどかと心の中で嘆息するピウス。
「…申し訳ないのだけれど…テナークス殿下にランチをご一緒出来ないか聞いてくださる?私今日もお弁当を作って来たの…」
「‥なっ!ピウス殿下の手作り弁当ッ…う、羨ましい‥分かりました、すぐに聞いて参ります!」
目を丸くして一礼し王太子達が乗る馬車に駆けて行くストゥディウム。
「‥殿下!ピウス殿下が弁‥」
「遅い!ピウス姫と長々と何を話し込んでいたのだ!?」
開口一番文句を言われて内心ムッとするストゥディウム。
「久しぶりにお会いしたのでご挨拶を。王女殿下には痩せたのではとお心遣い頂きました」
王太子の素行不良のせいで痩せるほど悩んでいるのに当の王太子は気遣いの言葉どころかいきなり早朝に呼びつけ王女殿下に断りを入れるという用事だけ言いつけて更には文句まで…
呼吸法を駆使し何とか気持ちを抑えて冷静に答えるストゥディウムだが王太子は
「お前はピウス姫と話してはならん!にべもなく冷たい態度で追い払えばいいのだ!」
「!?‥『追い払う』だなんて何て無慈悲な仰りよう――殿下、お忘れではありませんか!?ピウス殿下は殿下の大切な婚約者様なのですよ!?」
「さ、最初が肝心なんだ!つ、つけあがらせちゃ今後の為にならん!冷たくせねばッ…追い払わねばならんのだッ…」
わなわなと唇を震わせ言い放つ王太子の胸中は――
(母上のアドバイスによれば私がピウス姫に冷たくお灸を据えて今までの事を反省させイニシアチブを取れば彼女は私に従順に従う様になるらしい…あ…あられもない姿で床に這いつくばれと命じれば素直に這いつくばるであろう女奴隷の様に…ハァ、
そう…時には恥ずかしい道具まで駆使するかもしれない私の要求全てに従順に従わせめくるめくセック…結婚生活を繰り広げる為に私は心を鬼にしなければならないのだッ…ハァ、ハァ…)
――まぁまぁろくでもない。
馬車を降りて来る王太子に話し掛けようと近付いて行くと…
「申し訳ございません、王女殿下。
王太子殿下は落ちこぼれ教室までドロースス男爵令嬢をエスコートされますので。
お声掛けはご遠慮頂きたいとのことです」
そう言って来たのは昨日はいなかった王太子の側近――
王太子が男爵令嬢と付き合うようになってからは遠ざけられていた側近ストゥディウムがピウスの前に立ちはだかり王太子に近づくのを阻止するが…
体を固くし眉尻を下げ目を伏せた様子はピウスに対する申し訳なさで溢れている…
王太子は馬車の中に戻ってしまったのでピウスは気の毒な側近に声を掛ける。
「…お久しぶりね、ストゥディウム様。
少し痩せたのではなくて?」
「‥あ!いえ…お久しぶりです、私は変わりません。お優しいお言葉ありがとうございます。…王女殿下は益々光り輝く様に美しく尊く…まるで春の女神が舞い降りられたかの様で…心の震えが止まりません…」
「まぁ…ふふっ、ありがとう。…それが本当ならこんな風にテナークス殿下に避けられる事はないのでしょうけど…」
そう言って目を伏せる美しい人に。
ストゥディウムは堪らない気持ちで歯噛みする。
これほどに美しく尊い婚約者が歩み寄ろうとされているのに、あんな下品なだけの男爵令嬢の言いなりになって――我が主は気が触れておしまいになったのか!?
「いいえ本当にお美しいです…テナークス殿下は正気‥いえ平常心を無くされているようで…でも必ず元の殿下に戻られるはずです!‥そうすれば‥」
「ありがとう。ストゥディウム様は相変わらずお優しいことね‥やはり少し痩せた様ね‥そんなに悩んでは駄目よ?人の心はどうすることも出来ないのだから…ね?」
「‥ッ!‥は、はいっ!‥あ、ありがとうございますっ‥」
優しい言葉に感激して涙目になるストゥディウム。
真面目な側近の悩みの深さは如何ほどかと心の中で嘆息するピウス。
「…申し訳ないのだけれど…テナークス殿下にランチをご一緒出来ないか聞いてくださる?私今日もお弁当を作って来たの…」
「‥なっ!ピウス殿下の手作り弁当ッ…う、羨ましい‥分かりました、すぐに聞いて参ります!」
目を丸くして一礼し王太子達が乗る馬車に駆けて行くストゥディウム。
「‥殿下!ピウス殿下が弁‥」
「遅い!ピウス姫と長々と何を話し込んでいたのだ!?」
開口一番文句を言われて内心ムッとするストゥディウム。
「久しぶりにお会いしたのでご挨拶を。王女殿下には痩せたのではとお心遣い頂きました」
王太子の素行不良のせいで痩せるほど悩んでいるのに当の王太子は気遣いの言葉どころかいきなり早朝に呼びつけ王女殿下に断りを入れるという用事だけ言いつけて更には文句まで…
呼吸法を駆使し何とか気持ちを抑えて冷静に答えるストゥディウムだが王太子は
「お前はピウス姫と話してはならん!にべもなく冷たい態度で追い払えばいいのだ!」
「!?‥『追い払う』だなんて何て無慈悲な仰りよう――殿下、お忘れではありませんか!?ピウス殿下は殿下の大切な婚約者様なのですよ!?」
「さ、最初が肝心なんだ!つ、つけあがらせちゃ今後の為にならん!冷たくせねばッ…追い払わねばならんのだッ…」
わなわなと唇を震わせ言い放つ王太子の胸中は――
(母上のアドバイスによれば私がピウス姫に冷たくお灸を据えて今までの事を反省させイニシアチブを取れば彼女は私に従順に従う様になるらしい…あ…あられもない姿で床に這いつくばれと命じれば素直に這いつくばるであろう女奴隷の様に…ハァ、
そう…時には恥ずかしい道具まで駆使するかもしれない私の要求全てに従順に従わせめくるめくセック…結婚生活を繰り広げる為に私は心を鬼にしなければならないのだッ…ハァ、ハァ…)
――まぁまぁろくでもない。
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