あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない!

ハートリオ

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50 動くアッロガーンス王

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アッロガーンス王妃はクピドゥスににこやかに語り掛ける。

「…クピドゥスちゃん、テナークスは『光り輝く王太子』と言ってね、何人もの側妃が必要‥」
「あーソレ知ってっから!ババアは引っ込んでてくれる?」
「まぁ!?…あぁそうね、ついこの間まで平民だったんですものね。アッロガーンス王家語が出来たって普通の礼儀作法は分からないのね?まぁ後で私が仕込んであげるわ。それよりテナークスはあなたに『光り輝く王太子』の事説明済みなのね。信頼してるってわけね…あなたとは違ってね!」

そう言って憎々し気にピウスを睨めつける王妃。

「母上!私がピウス姫にこの事を隠して来たのは母上が『言うな』と…『たくさんの側妃を娶ることがバレたら逃げられる』と言ったから…あぁ全部だ!母上のいう通りにしたせいでこんな事になったんだ!」

テナークスは頭を抱えぐしゃぐしゃとかきむしる。

信頼していた。

女性の事なら女性の意見を聞くのが正解なのかと思っていた。

母が自分にとってマイナスになる様な事言うはずないと信じ切っていた――

「テナークス?やめて頂戴、頭から血が出ちゃうわ!私は何も間違った事なんて言ってない‥」
「間違いだらけでしょう!『女の子は冷たい男が好きだから誉めちゃいけない、冷たい態度の方が好まれる、プレゼントを上げるとつけ上がるからダメ、手紙やカードに返事をしない方が関心を引ける…』――今客観的に考えればおかしな事ばかりだ…なのに私は馬鹿みたいに信じて――馬鹿だった!救いようがない馬鹿だった!」
「まぁ、テナークスは馬鹿なんかじゃ‥」
「うるさい!もう私に何も言うな!二度とその声を聞きたくない!」
「テ、テナ…あぁほら!これよ!王女のせいで私のテナークスが変になってしまった!酷い女だわ!魔女に違いないわ!冷たくて酷くて‥」
「やめろ!ピウス姫を悪く言うのは許さない!――いや、今更口を噤んでも許しはしない!お前は私の最愛に毒を盛った人殺しだ!」
「あぁッ…テナークスッ」
「いい加減にしないか!」

アッロガーンス王が漸く止める。そして…

「こうなってはピウス王女殿下との関係は終わりだ。テナークスの不貞による婚約解消という事にするしかあるまい。――それと妃が王女殿下に薬物を盛った件は妃に毒杯を呷ってもらい幕引きとする」

王にあまりにも簡単に極刑を言い渡された王妃がギョッとして

「なッ何ですって!?陛下!?どうして私がッ!?」
「自分で認めただろう。王女殿下に薬物を盛ったと。他国の王女殿下を害しておきながらただで済むはずがないだろう――それに…お前は私にも盛ったな?あの時私は変だった…あれは酒に酔ったのではない…酒では説明がつかない…まともならお前など絶対相手にするはずがないのだ」
「へ、陛下…くッ…」

アッロガーンス王が言う『あの時』とは19年ほど前、王妃がテナークスを身ごもった晩のこと。
確かに王妃はその時国王に媚薬を盛った。ワンチャンを求めて気楽に盛った。そしてほぼ意識が飛んだ国王に抱かれまんまとテナークスを身ごもったのだ。

ずっと王妃を疑い排除したいと願って来た国王は絶好のチャンスを逃さなかったのだ。
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