あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない!

ハートリオ

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52 こんな事があるだなんて

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「婚約破棄されるような無能な恥知らずは我が国には要らないわ!王家から除籍した上で国外追放処分とする!分かったわね、ピウス!今後カラクテリスティカ王国へ入国することは許さないわ!」

ピウスに近付きそう声を上げたのはカラクテリスティカ元側妃(現正妃)である。

自国の王女が理不尽な婚約破棄&国外追放を言い渡されたのだから本来なら抗議すべきところを『話に乗る』形で除籍&国外追放を宣言する。

そして横にいるピウスの父、カラクテリスティカ国王に『良いですね?』と聞く。

ピウスはゆらりと父であるカラクテリスティカ国王を見る。

「…ああ、仕方ない」

国王は顔色を悪くしながらも頷く。

ピウスはカラクテリスティカ国王から視線を外す。

二度と見ることは無いだろう…

元側妃は嬉々として叫ぶ。

「国王がお認めになった!承認された!この瞬間からピウスは王女でもなければカラクテリスティカ国民でも無い!ほほほほほ!今日は何て素晴らしいの!――そうだわ!丁度いいから前正妃も除籍処分にするわ!良いですね?」

カラクテリスティカ国王はまたも『ああ、仕方ない』と返す。

「…お母様は強い愛国心を持ちカラクテリスティカ王国に尽くした正妃でした。カラクテリスティカ国王陛下はそんなお母様までも除籍すると?」

抑揚のない声でピウスが尋ねる。

ピウス本人は気付いていないがそれは亡き正妃にそっくりであった。

「…し、仕方ないのだ」

ピウスは『こんな事があるだなんて…』と心の中で呟いた後静かに声を出す。

「分かりました」

あまりの憐れさに会場中が言葉を失う。

何故この美しい王女が婚約者に、その家族に、そして母国の家族にまで裏切られなければならないのか――

会場を去ろうと静かに歩き出す美しい王女を見つめ胸を痛める人々…

その時、カラクテリスティカ現正妃が信じられない事を言い出す。

「お待ち!今身に着けているドレス一式をこの場で脱いでお行き!」

誰もが耳を疑いカラクテリスティカ現正妃を見れば、現正妃の顔にありありと浮かぶ醜すぎる愉悦の表情に吐き気を覚える。

何という血も涙もない事を!
どいつもこいつも人の心が無いのか!?
一体どうすればそこまで醜くなれるのだ!?

騒めく会場はカラクテリスティカ現正妃への非難一色である。

だが現正妃…元側妃の耳にその非難は届かない。

元側妃はピウスの母――前正妃アマータを今でも憎んでいる。

元側妃は子爵家の生まれ。
父は商売で大成功し巨万の富を築く。
その父の財力で側妃になれた子爵令嬢は王宮に入り驚く。
国王としての資質を持たない王に代わって類まれなる才知でカラクテリスティカ王国を支える正妃は美しくたおやかな風情…
誰もが感謝し憧れる正妃に元側妃は激しく嫉妬する。憎む。
自分は平凡な容姿に能力。
欲深さだけが人並外れている。
武器は父の金の力だけ。

そもそもはカラクテリスティカ王。
ギャンブルにはまり大きな借金を抱え困り果てていた。
そんな王に資金援助をしたのが元側妃の父で――
王のギャンブル狂いは今でも続いており、金を出してくれる側妃に王は頭が上がらない。
カラクテリスティカ王国は今や元側妃の一族に乗っ取られた形だ。

何もかも手に入れたはずの元側妃だがそれでも尚前正妃を憎み続けており、その娘であるピウスを徹底的に潰してやりたいというどす黒い欲望でいっぱいなのだ。

元側妃は立ち止ったまま動かない――身動きすら出来ないでいるらしいピウスの背中に向かって言い渡す。
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