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料理人、異世界転移する

みんなで食べると美味しい

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 アリアさんの説明によると、この世界には魔法や魔物という生き物がいる。

 魔法とは魔力を持っている者は誰でも使えるが、戦いに使えるくらいの魔力を持つ者は限られている。

 それに魔力があっても、魔法を使う才能がなければならない。

 ゆえに、魔法使いそのものが少ないらしい。

「へぇ、それでは魔法使いは貴重なんですね?」

「ああ、それ故に傲慢になったりもするが。威張ったり、他者を見下したりな」

「それは良くないですね。別に、それが傲慢になって良い理由にはなりませんから」

 父親から虐待を受けてた俺ならわかる。
 稼いでることが、暴力を振るって良い理由にはならないことを。
 そして親父殿にも言われた。
 本当に強い人は、謙虚な姿勢をする人だということを。

「……ああ、その通りだな。いやはや、フレイムベアーを倒したのにお主は謙虚だ」

「それはそうですよ。俺自身の力ではなく、あくまでも神様がくれたモノですから。貰った力で威張るほど腐ってはないつもりです」

「しかし、あいつらはその力で威張って……まあ、やめておこう。それで属性は、火、水、風、土、光、闇の六種類となっている。これが日付にもなっていて、4周回ったら一ヶき月となる」

「なるほど……」

「他には何かあるか?」

 実は、先程から気にはなっている。
 兵士の方々が、俺を遠巻きに見ているというか……怯えている?
 最初は、上官であるアリアさんがいるから近寄ってこないと思っていたが。

「その、兵士の方々の様子が……」

「……ああ、その件か。それについてはすまない。おそらく、お主の強さに恐れたのだろう。フレイムベアーを一撃で倒せる存在など、この辺境では一握りしかいない」

「あっ、そういうことですか」

「彼らにも悪気があるわけではないので許してほしい」

「いえいえ、アリアさんが謝ることないですよ。それに、そういうのには慣れてますから」

 この見た目とガタイのせいで、高校生辺りから避けられることは多かったし。
 変なのにも絡まれるし、同世代には怖がられるし散々だったなぁ。

「私は怖くないからな?」

「へっ?」

「まだ会って間もないが……お主は強いが、優しく誠実な人だと思っている……言いたいのはそれだけだ」

「……ありがとうございます」

    どうやら、慰めてくれたらしい……アリアさんは良い人だな。
 その後も一日は二十四時間とか、一年は三百六十日とか。
 簡単な魔法の使い方などを教えてもらいつつ、あっという間に時間が過ぎていく。
 そして、俺の鼻が完成だと告げた。

「よし、できましたね。これがフレイムベアー鍋です」

「おおっ! 美味そうな匂いだっ!」

「おや、できましたか」

「キャンキャン!」

「ええ、兵士さん達の分もあるのでお好きに食べてくださいね」

「「「おおぉぉぉぉ!!」」」

「皆の者! 聞いたなっ! 順番に並んでもらうが良い! タツマ殿に感謝を!」

「「「はっ!!」」」

 アリアさんの号令により、二十人くらいの兵士たちが一列に並んだ。
 俺はおたまですくって器に入れ、兵士達に手渡していく。
 そして、それが終わったら自分達の分を用意する。

「ハク、待たせたな。お前は生でいいから先に食べても良かったのに」

「ワフッ!」

「みんなで食べた方が美味しいと言っていますね」

「なるほど……ハク、よくわかってるじゃないか。飯は大勢でワイワイと食べたほうがいい。特に、こういう鍋とかはな」

「た、食べても良いだろうか? 先程から辛くて美味そうな香りが……」

 アリアさんのいう通り、先程から良い香りが鼻に抜けていく。
 それは食欲を刺激し、よだれが出そうになる。

「ええ、召し上がれ」

「では、頂くとしよう——美味いっ! 柔らかい肉は口で溶けて……熱くてピリ辛で身体が温まりそうだ。何より、味に深みがある」

「これはいけますね、疲れ切った身体に染み渡ります。傷ついた兵士達にも良さそうですし。というか、おかわりをしたいです」

「キャウン!」

 その様子を見つつ、兵士たちの様子も見てみる。

「うめぇぇぇ!」

「なんだこれ!? どうしてこんなに肉が柔らかくなる!?」

「あつっ! うまいっ!」

 どうやら、評判は悪くなさそうだ。
    熊は疲労回復促進もあるというし、彼らにとってもいいだろう。
 俺もスプーンを使って、口の中に入れる。

「 かぁぁ~うめえ! ホットな辛さと醤油茸の出汁がマッチしてるな!」

 一度焼いた肉を煮込んでることで、肉がきちんと柔らかくなっている。
 何より熊は栄養素が豊富だ。
 体の疲れは飛び、体そのものが喜んでいた。

「タツマ殿! おかわりをしても良いだろうか!?」

「もちろんですっ! 量だけはありますからねっ!」

「私も!」

 それに続いて兵士の方々も声を上げる。
    料理を提供したことで、少し俺に対する恐れが消えたらしい。
 そういえば、前の世界でも似たようなことはあったな。
 初めて来たお客さんに怖がられても、料理を食べさせると緩和したことを。
 そうだ、料理は俺と人々を繋ぐものでもあったのだな。

「俺もだっ!」

「頼むっ!」

「はいはい! まだまだあるから大丈夫ですよっ!」

 それに応えて、再び器によそっていく。

 その食べる姿を見ながら思う。

 やはり、みんなで美味しいものを食べるのは幸せな気分になると。
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