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料理人、異世界生活を始める

都市レガリア

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 ……ん? なんだ? 息ができない……!

「プハッ!? ……犯人はお前か、ハク」

 どうやら、俺の顔の上に乗っていたらしい。
 夢じゃなかった……そうか、俺は異世界に来たのか。
 昨日の今頃は、まだあっちの世界にいたんだよなぁ……めちゃくちゃ濃い一日だった。

「クゥン?」

「いや、『どうしたのー?』じゃないから。それはこっちのセリフだよ」

「おや、起きたようだな」

「あれ? アリアさん?」

借りていたテントから、アリアさんが顔をのぞかせる。
どうやら、すでに朝の時間らしい。

「おはよう、ハクにタツマ殿」

「キャン!」

「おはようございます。ハクも起こしてくれてありがとな」

「ワフッ」

その後、昨日の残りにパンを浸して食べる。
これはこれで、なかなか美味い。
食べ終わったら、ささっと片付けて馬に乗る。 

「さて、準備はいいか?」

「ええ、平気です」

「キャン!」

「よし……皆の者! 都市レガリアに帰還するぞ!」

 アリスさんの号令により、馬に乗った兵士達が動き出す。
 俺もハクを乗せて後を追う。

「うむ、平気そうだな」

「ええ、この子がいい子ですから」

 実は、乗馬経験はあるから乗ることはできる。
 親父さんには、本当に色々なことを仕込まれた。
 罠の仕掛け方、猟銃の扱い、乗馬などの遊び、剣道、そして料理……あげればきりがない。
 今後、俺が一人でも生きていけるように色々と教えてくれたのだろう。
 俺を引き取ったとき、すでに親父さんは還暦を過ぎていたし。
 
「これなら心配はいらないな。ここから都市レガリアまでは数時間で着く。昨日寝る前に言ったが、お主の具体的な処遇は着いてから決めるとしよう」

「ええ、それで構いません」

「昨日街道沿いの魔物は駆逐したから、そうそう出会うことはないと思うが……って、言ってるそばから来たのか。森の主を倒した影響かもしれない」

アリアさんの視線の先を見ると、何やら緑色の皮膚をした化け物が走ってくる。
俺の知る知識でいう、ゴブリンに間違いなかった。



【ゴブリン】

最下級の魔物だが、徒党を組んでやってくる。
繁殖率が高く、見つけ次第排除を推奨。



「ケケー!」

「グカカー!」

「なるほど、あれが魔物と」

「魔物の特徴は二足歩行で人類に近い構造をしていること、倒すと魔石になるということだ」

「ふむふむ、わかりやすくて良いですね。それで、俺はどうしますか?」

「ゴブリン程度なら、タツマ殿が出るまでもない」

その言葉通り、兵士の方々があっさりと片付ける。
どうやら、見た目通り強くはないようだ。
そして、アリアさんが魔石を見せてくれる。
それは宝石のようなものだった。

「これには魔法を込めることができる。火、水、風、土、闇、光などを。それや魔獣を使役して、この世界の人々は生活を送っている」

「へぇ……といっても実感が湧かないですが」

「それはそうだろう。都市に行ったら、案内しよう」

「ありがとうございます」

 そうして走り続けること、数時間後……大きな壁が見えてくる。
 そのまま進み門の前に到着すると、銀色の鎧を着た男性が駆けてくる。
   細くて金髪のイケメンで、まるで俺とは正反対の容姿だ。

「これはアリア様! ご無事でなによりです!」

「ローレンスか、心配をかけた。とある旅人に助けられな。身の保証は私がするので、悪いが中に入れて欲しい」

「ふむ……身体検査と身分を確かめないので?」

「ああ、私の一存で決めた」

「………なるほど、畏まりました」

 そうして、あっという間に手続きが済んで門の中に通される。
 どうやら本人が言っていた通り、それなりに偉い立場らしい。
 それ目当てで助けたわけじゃないが、有難いことには違いない。
 門をくぐったら、すぐに馬を預けて……都市の中を眺めると、そこには知らない世界が広がっていた。

「おおっ……!」

「ふふ、珍しいか?」

「ええっ! それはもう!」

 道行く人は西洋系が多いが、俺みたいのもチラホラいる。
 カレンさんのような人、獣の顔に人の体を持っている人もいた。
 身長の小さいずんぐりしたおじさんもいる。
 それらが一堂に会し、話をしたり商売をしていた。
 まさしく、異世界という感じだ。

「まずは落ち着いて話せる場所が必要か……よし、すぐ横に部屋があるから借りよう」

「はい、わかりました」

 ハクを抱っこしたまま、アリアさんとカレンさんについていき、門の横にある建物に入る。
 中は十畳ほどの広さで、机と椅子がいくつかある簡易的な部屋だった。
 そこから奥に行き、扉をあけて狭い部屋に通される。
 イメージは尋問室や面会室に近い感じだ。

「よし、これでひとまず安心だな。ここは音が漏れない作りになってるから平気だ」

「ええ、そうですね。タツマ殿にアレをしますか?」

「ああ、持ってきてくれ」

「アレですか?」

「まあ、まずは席についてくれ」

「は、はぁ」

 とりあえず言われた通りに、指定された椅子に座る。
 そして対面にはアリアさんが座った。
 すぐにカレンさんが水晶?を持ってきて、俺の前に置く。

「では、これに手を置いてくれ」

「わかりました」

 俺は動揺しつつも、大人しく手を置く。
 すると、水晶の真上に映像が浮かび上がる。

 「うお!? びっくりした……」

「……やはり、尋常じゃない強さか」

「え、ええ、フレイムベアーを倒せるわけですね」

 そこには、何やら文字やローマ字が書いてある。

  ◇

   真田 辰馬 35歳   人族

 体力  A +  魔力     C+

 筋力   A    知力   C+

 速力   B+     技力   B+

 【ギフト】 環境適応  言語理解  食眼

 ◇

 なんだか、ステータスみたいなものか?
 アリアさんに説明を求めようと振り返ると……固まっていた。
 俺は仕方ないので、そのまま待つことにする。
 ちなみに、ハクは腕の中でスヤスヤ寝ています。
 時折、プープーと鼻を鳴らしながら……うちの子が可愛いんですけど?

「す、すまない、予想以上だったものでな」

「そうなんですか?」

「まずは、そこから説明をしないといけないか。簡単に言えば、この世界においてお主を倒せる者は少ないというレベルだ。ほとんど最強クラスと言って良い」

「……なるほど」

「そうだな……不公平なので、私のも見せるとしよう」

するとアリアさんが俺の横に立って、水晶に手を置く。
その際に銀髪が俺の頬にあたり、その香りに年甲斐もなく動揺してしまう。
……いかんいかん、今は説明に集中だ。



アリア-テスタロッサ   26歳

   体力   C   魔力C

   筋力   C知力  C+

    速力  C+技力  C+



こうしてみると、俺とはだいぶ違うのがわかる。
というか、二十六歳なのか……十歳差はなくてよかった。
いや、だからどうしたって話なのだが……。

「ふむふむ、これでどれくらいの強さなんですか?」

「これでも、この世界では強い部類だ。そうだな……説明しよう」

 そしてアリアさんの説明をきく。
 まとめるとこんな感じだ。

   ◇
 上から順に、S+,S,A+,A,B+,B,C+,C,D+,D,E+,Eの12段階。
 普通の一般人が、E~E+。
 街の一般兵士などが、D。
 戦いを生業にできるのが、D+。
 一人前と言われるのが、C。
 一人前の壁を越えたのが、C+。
 ベテランと言われるのが、B。
 一流と言われるのが、B+~A。
 超一流と言われるのが、A+。
 人外と言われるのが、S。
 前人未到と言われるのが、S+。
   ◇

 こんな感じらしい。
 いわゆる、英雄と呼ばれる人でもB+~A+。
 能力値には個人差があり、ほとんどの人はB以上にはいけないと。

 「ふんふん、俺はA+~B+が半分以上あるから相当高いですね」

「高いなんてものじゃないさ……全く、次にステータスの説明をしよう」

 次にステータスの効果の説明を受ける。

 体力……スタミナや、強健さを表している。
 魔力……魔法を使う際のスタミナや、魔力に対しての頑丈さを表している。
 筋力……単純な力と頑丈さを表している。
 知力……賢さと知識量を表している。
 速力……素早さを表している。
 技力……器用さを表している。
 

 
俺が息がきれなかったり、突然目が良くなった理由がわかった。
足も速いし、力も増している。

「それにステータスは魔物を倒すことで上がっていく。魔獣を倒しても上がらない。あとは人によって上限があるくらいか」

「わかりやすい説明ありがとうございます。それで、このギフトとは?」

「それこそがお主が迷い人の証拠だ。ギフトは神の祝福といい、与えられる者は限られる」

 「なるほど、大体わかりました」

  俺がパニックを起こしていない理由は環境適応。
  異世界なのに言葉を理解しているのが言語理解。
  あの鑑定みたいな能力が食眼ってわけだ。

「さて、こんなものでいいかな?」

「ええ、ありがとうございました」

「ふふ、それを聞いても変わらないか」

「はい? どういうことですか?」

「実感が湧かないだろうから言っておくと、あのレッドベアーを倒せるのは一握りしかいない。それくらい強い魔獣を、お主は倒したということだ」

「……とりあえず、受け入れます」

 まるで実感はないが、自分の体が以前とは違うのはわかりきっている。
 アリアさんが言うなら、そういうことなのだろう。

「カレン、私がいった通りだろ?」

「ええ、そうですね。どうやら、立派な御仁のようです」

「えっと?」

「すまない、タツマ殿。カレンがお主を試したいというので……」

「当たり前です。自分の強さを知った瞬間に変わる者はいますから……とはいえ、申し訳ありませんでした」

「い、いえいえ! ……その、当然のことだと思いますから」

「寛大な心に感謝いたします」

「ふふ、私の目に狂いはなかったな」

 自分が怪しい存在なのは重々承知の上だ。

 突然現れた謎の強いおっさん……改めて考えても怪しさ満載である。

 出会ったのがアリアさんじゃなかったら、こうはいかなかったかもしれない。

 こればかりは神様ではなく、アリアさん自身に感謝をしなくてはいけないな。






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