悪役転生の後日談~破滅ルートを回避したのに、何故か平穏が訪れません~

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
31 / 42

ささやかな宴

しおりを挟む
……ん? 何やら良い香りがする?

ふと目を開けると、目鼻立ちがはっきりした美女がいた。

「おっ……! って、エミリアか」

「すぅ、すぅ……」

「というか、何で俺にくっついて寝てんだ? あぁ、寒かったのか。ったく、お陰で心臓が飛び跳ねたぞ」

どうやら、寝てしまっていたらしい。
そして、多分釣られてエミリアも。
さらに隣を見れば、ユキノもいてまだ眠っていた。

「ところで、さっきのいい匂いは……」

「兄貴、起きやしたか。そろそろ、飯ができますぜ」

「アイザック、すまんな。こっちは、この通りのんびりしてたっていうのに」

「へへっ、体力にだけは自信あるから平気っす。それに魔法使うっていうのは精神力を使うって聞きましたし」

確かに魔法は少し特殊だ。
使うと体力ではなく、魔力という人が本来持っているモノを使う。
それを使いすぎると命の危険に繋がることから、生命力を使っていると言われている。
故に回復させるには、寝るのが一番だとも。



その後、カリオンやニールにもお礼を言って二人を起こす。

「ふぁ~よく寝ましたね」

「は、恥ずかしいですわ……! 殿方に寝顔を見られるなんて……」

「別に良くないですかー? いずれ、ご主人様には違うところも見せるわけですし。まあ、私が先かもしれないですけど」

「何を言ってますの……っ!? ふぇ!?  破廉恥ですわ!」

「えー? そうですかねー?」

「ア、アルスに聞かれてしまいますの……!」

俺はそれを聞こえないふりして、鍋を見つめる。
それはコトコトと音を立て、味噌の香りがして鼻腔をくすぐる。

「アイザック、美味そうだな」

「兄貴、あの二人……」

「アイザック、美味そうだな。これは熊鍋か?」

「へ、へいっ! 少し臭みがあったんで、香草と一緒に焼いてから煮込みやした。そこに山菜や野菜をぶっ込んで味噌で仕上げましたぜ」

「ふむふむ、実に美味そうだ。そうだ、まずは飯にしよう」

「へいっ! すぐによそいます!」

俺は今、恋愛事に構ってる場合ではないのだ。
まずはスローライフの生計を立てなくてはいけない。
……決して逃げているわけではない。

「ほら、カリオン達もこっちにきてくれ」

「主人よ、そうすると見張りが……何より、我々も一緒によろしいのですか?」

「今更何を言ってる、もうお前達は仲間だろうに。それに、これがあるから平気だ、炎よ我の身を守りたまえ——ファイアーサークル炎陣

「おおっ! 我々を囲うように仄かに火が……」

「この範囲なら燃え移らないし、敵が来たら反応できるだろ。さあ、一緒にゆっくり食べてくれ」

「はっ!  皆の者! 主人のご厚意に感謝を!」

その後、他の獣人達も囲んで鍋パーティーを始める。
全員に行き届いたところで、アイザックに挨拶を求められた。
どうやらしないと食えなさそうなので、仕方がないのでやることに。

「えー、みんなお疲れ様。とりあえず、誰もかけることなく探索1日目を終えられそうで一安心だ。今日は暖かい飯を食って、明日の探索に備えよう。無理だと思ったらすぐに帰還する……ではいただきます」

「「「「「いただきます!」」」」」

「ハフ、アツっ……うまっ」

器から湯気の出た熊肉を口に含むと、肉が口の中でとろけていく。
熊の甘みと味噌の旨味が合わさって、相乗効果を生み出している。
そういや、熊鍋といえば味噌とは聞いたことあったな。

「あーんむ……あつつ……んー! トロトロで美味しいです!」

「フーフー……あ、熱いですけど、これは美味しいですの!」

「熱いですよぉ~! でも美味しいから止まりません~!」

女性陣にも好評のようだ。
確か美肌効果とかもあったし、栄養面でも豊富だったはず。
鉄も手に入るし、これは良い魔獣を見つけたかもしれん。
……ただし、倒せる者が限られるか。

「かぁー! 我ながらうめぇ! 酒が欲しくなるぜ!」

「かかっ! それには同意ですな!」

「二人共、好きに飲んでいいぞ。俺の蒼炎は二日酔いにも効くはずだ」

「なんと!? じゃあ、持ってきたから開けちまうか!」

「おおっ、良いですな!」

こっちの男連中も、上手くやってるな。
これもアイザックの人柄のなせる業だろう。
曲者揃いのスラム街の住民を纏めていただけはある。
そこでふと、同年代の男友達がいないことに気づく。

「まあ、傲慢だったから仕方がないか」

記憶を取り戻す前の俺は、それはもう悪役に相応しいダメっぷりだった。
実の母を早くに亡くし、父に相手にされないことも理由だが、可愛がられる弟のことを疎ましく思っていた。
使用人には当たり散らすし、いわゆる構ってちゃんだった。
それを拗らせ、邪神に取り憑かれる羽目になったわけだ。

「友達がいっぱい居る弟を妬んでもいたっけ」

だが結果的には良かったのかもしれない。
友達などいたら、巻き込んでしまっていた。
すると、アイザックとカリオンが隣に来る。

「兄貴っ! なにをしょんぼりしてんすか!」

「そうですぞ! 我々と一緒に飲みましょう!」

「おいおい……まあ、いいか」

俺は貰った酒を温め、熱燗のようにする。
それをぐいっと飲み干す。
すると、喉がカーッと熱くなってきた。

「……っ、身体がポカポカしてきたな」

「あっ、ずるいっす!」

「その、主人よ……」

「わかってるさ、ほら……これでいいか?」

二人のコップにも熱を灯してやる。

「あざます! ……くぅー! 熱燗うめぇ!」

「冷えた身体が温まりますな!」

「ちょっと~! 男子ばかりでずるいですよ~!」

「その、私もお酒を飲んでみたいですの!」

「わたしですぅ!」

「はいはい、わかったよ」

その後、全員分の熱燗を作って乾杯をする。

友達はいないが……こうして仲間がいるならいいか。

綺麗な星空を見上げながら、そんなことを思うのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!

碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!? 「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。 そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ! 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...