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第三章
29話 姉様は女神?
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しばらくすると、男たちは目を覚ましはじめた。
マントの帽子をとると、中には育ちの良さそうな顔つきの男もいて驚いた。
「私はアルベルト子爵の息子だぞ! こんな扱いしていいと思ってるのか!?」
その中には、爵位を持つ人間の息子も混じっていたのだ。しかも、みんな跡取りではない第二子や三子だった。さすがに私もこれには驚愕だ。
そして、他の雇われの男たちもすべてそういった身分の男たちに雇われたのだという。
「誰の指示です?」
彼らはバツが悪そうに顔を背ける。
すると、チェイスが容赦なく子爵令息を殴る。
「ひっ……! 顔はやめてくれ! 父さんにばれたら困るだろ!」
「はあ。まずいとわかっているのにこんな愚かな真似を……。人を雇うのはまだしも、直接手を下そうとしたのはさすがに、嘆息するしかないですよ」
「しょうがないだろ! 昨日手紙で言われたんだから! 全部ビアンカのためだ!」
やっぱり……。
こんな風に襲わせるなんて姉様も焦っている。この結婚は絶対に潰されたくないのね。
でも、その焦りが仇となったわね。これで、ビアンカ姉様の手下たちが判明した。
ほんとに姉様は私のことを舐めすぎている。
だけど、相当姉様に入れ込んでいるようだ。どうせ姉様の美貌と口の巧さにのせられたんだろうけど。
「……姉様とはどこでお知り合いに?」
私は子爵令息に問う。
「パーティーで……。俺、兄さんへのコンプレックスが強いんだけど、彼女はそんな俺を包み込んでくれて肯定してくれたんだ。俺は彼女に想いを伝えた。彼女は自分も俺のことが好きだと言ってくれた。だけど、婚約者がいるから深い関係にはなれないと。でも俺はそれでよかった。彼女が欲しがるものはなんでもあげたし、どんな願いも叶えた。ここにいるやつみんな同じだと思う」
「しかし、姉様はあなたたちを利用しているんですよ」
「わかってる。利用されてたとしても俺たちは彼女の力になりたいんだ! 彼女は俺たちを救ってくれた女神だから!」
はぁ、呆れた。
どうやら姉様は何かしらのコンプレックスや闇を抱えている人間を選び、ハニートラップを仕掛けていたようだ。
そして、ここにいる人たちはまんまとその罠にかかってしまった。
おそらくフィリップ様は、キース夫人がノアを可愛がるあまり、ノアにコンプレックスを抱き、自己肯定感が低くなってしまっていた。そこに、姉様はつけ込んだのだろう。
ほんとに、姉様はどこまでも最低な人。
ちっとも女神なんかじゃないのに。
その後、私は彼らを訴えないと約束し、彼らを解放した。
まだ、彼らには使い道があるだろうから。
そして姉様には私を襲うのに成功したと言うように命じておいた。彼らにとってはそちらの方が都合がいいので喜んで受け入れてくれた。
姉様にはすべてうまくいっていると思い込んでおいてもらわないとね。
「そうだチェイス。私のこと一発殴ってくれない?」
「は?」
さすがのチェイスもこれには驚いたらしく、キョトンとした顔で目を丸くした。
「姉様に、襲われたってことを信じてもらうにはそれくらいしなきゃ。魔物だしできるでしょ!」
私が自分の右頬を叩いてチェイスに示すと、彼は嫌そうに顔を顰めた。
「普通にイヤだよ」
「そこをなんとか! 自分では手加減しちゃうだろうし。お願いっ!」
私は真剣にチェイスを見つめる。すると、彼はしばらくして観念したように嘆息した。
「わかったよ。やればいいんでしょ。歯食いしばりなよ」
そしてチェイスは私の右頬をグーで殴る。少し手加減されたのか、吹っ飛ばされることはなかった。
しかし、口の中は切れたらしく口の端からたらりと血が流れる。
私は血を拭ってチェイスに笑いかける。
「うん、ちょうどいい出血量。ありがとう、チェイス」
するとチェイスもふっと表情を和らげた。あの無垢な笑顔とは別の笑みだった。
「なんか最初は気まずかったけど、チェイスって結構話しやすいかも」
「あっそ」
今度は少しそっけない。
こんな風にやり取りしていると、チェイスがノアの母親の心臓を奪っただなんて信じられない。
だけど、彼は魔物だ。距離感だけは間違わないようにしないと。
マントの帽子をとると、中には育ちの良さそうな顔つきの男もいて驚いた。
「私はアルベルト子爵の息子だぞ! こんな扱いしていいと思ってるのか!?」
その中には、爵位を持つ人間の息子も混じっていたのだ。しかも、みんな跡取りではない第二子や三子だった。さすがに私もこれには驚愕だ。
そして、他の雇われの男たちもすべてそういった身分の男たちに雇われたのだという。
「誰の指示です?」
彼らはバツが悪そうに顔を背ける。
すると、チェイスが容赦なく子爵令息を殴る。
「ひっ……! 顔はやめてくれ! 父さんにばれたら困るだろ!」
「はあ。まずいとわかっているのにこんな愚かな真似を……。人を雇うのはまだしも、直接手を下そうとしたのはさすがに、嘆息するしかないですよ」
「しょうがないだろ! 昨日手紙で言われたんだから! 全部ビアンカのためだ!」
やっぱり……。
こんな風に襲わせるなんて姉様も焦っている。この結婚は絶対に潰されたくないのね。
でも、その焦りが仇となったわね。これで、ビアンカ姉様の手下たちが判明した。
ほんとに姉様は私のことを舐めすぎている。
だけど、相当姉様に入れ込んでいるようだ。どうせ姉様の美貌と口の巧さにのせられたんだろうけど。
「……姉様とはどこでお知り合いに?」
私は子爵令息に問う。
「パーティーで……。俺、兄さんへのコンプレックスが強いんだけど、彼女はそんな俺を包み込んでくれて肯定してくれたんだ。俺は彼女に想いを伝えた。彼女は自分も俺のことが好きだと言ってくれた。だけど、婚約者がいるから深い関係にはなれないと。でも俺はそれでよかった。彼女が欲しがるものはなんでもあげたし、どんな願いも叶えた。ここにいるやつみんな同じだと思う」
「しかし、姉様はあなたたちを利用しているんですよ」
「わかってる。利用されてたとしても俺たちは彼女の力になりたいんだ! 彼女は俺たちを救ってくれた女神だから!」
はぁ、呆れた。
どうやら姉様は何かしらのコンプレックスや闇を抱えている人間を選び、ハニートラップを仕掛けていたようだ。
そして、ここにいる人たちはまんまとその罠にかかってしまった。
おそらくフィリップ様は、キース夫人がノアを可愛がるあまり、ノアにコンプレックスを抱き、自己肯定感が低くなってしまっていた。そこに、姉様はつけ込んだのだろう。
ほんとに、姉様はどこまでも最低な人。
ちっとも女神なんかじゃないのに。
その後、私は彼らを訴えないと約束し、彼らを解放した。
まだ、彼らには使い道があるだろうから。
そして姉様には私を襲うのに成功したと言うように命じておいた。彼らにとってはそちらの方が都合がいいので喜んで受け入れてくれた。
姉様にはすべてうまくいっていると思い込んでおいてもらわないとね。
「そうだチェイス。私のこと一発殴ってくれない?」
「は?」
さすがのチェイスもこれには驚いたらしく、キョトンとした顔で目を丸くした。
「姉様に、襲われたってことを信じてもらうにはそれくらいしなきゃ。魔物だしできるでしょ!」
私が自分の右頬を叩いてチェイスに示すと、彼は嫌そうに顔を顰めた。
「普通にイヤだよ」
「そこをなんとか! 自分では手加減しちゃうだろうし。お願いっ!」
私は真剣にチェイスを見つめる。すると、彼はしばらくして観念したように嘆息した。
「わかったよ。やればいいんでしょ。歯食いしばりなよ」
そしてチェイスは私の右頬をグーで殴る。少し手加減されたのか、吹っ飛ばされることはなかった。
しかし、口の中は切れたらしく口の端からたらりと血が流れる。
私は血を拭ってチェイスに笑いかける。
「うん、ちょうどいい出血量。ありがとう、チェイス」
するとチェイスもふっと表情を和らげた。あの無垢な笑顔とは別の笑みだった。
「なんか最初は気まずかったけど、チェイスって結構話しやすいかも」
「あっそ」
今度は少しそっけない。
こんな風にやり取りしていると、チェイスがノアの母親の心臓を奪っただなんて信じられない。
だけど、彼は魔物だ。距離感だけは間違わないようにしないと。
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