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第三章

33話 すべて奪ってあげる

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今日は決戦の日だ。私は黒いドレスに身を包み、覚悟を決めた。髪に挿したブローディアの髪飾りは私に勇気を与えてくれた。

「私も招待してもらえるとは驚きました」

「……ビアンカがどうしてもと言うからだ」

お父様はため息をつく。完全に私のことを厄介者として扱っているのだ。

姉様が私を招待したのは、私に幸せな姿を見せつけるためだろう。

「レイラ! そのドレスよく似合ってるわ!」

姉様が天使のような笑顔で手を合わせた。

「そうですか。私も姉様のドレス姿が楽しみで仕方がありません」

これから、姉様はドレスの準備に入る。その前に私たちは挨拶を交わしにきたのだ。

「ええ。楽しみにしていて」

「ビアンカ」

お父様が姉様を呼ぶ。少し涙目なのに気づく。私はその嘘くささに口角が上がるのを手で隠した。

「お前は、私にとって女神だ。血は繋がっていなくとも、君が娘で誇らしいよ」

「私もですわ、お父様」

「それに比べて実の娘のレイラといえば……」

「あら、そんなこと言ってはレイラが可哀想ですわ~」

「うむ……。とにかく、幸せになるだぞ、ビアンカ」

「はい!」

こんな会話は慣れっこなので、半分聞き流していられる。しょうもない寸劇が始まったなぁ~くらいに思っている。

「ではそろそろ出るか」

「はい」

私たちは、ブライズルームから出る。

今日で、姉様からすべて奪ってやる。
私が今までされてきたように。


■■■

「新婦が入場いたします」

その声が響くと、会場が少しざわつきはじめる。
私は入場扉の方に目を向けるが、おもしろくて吹き出しそうになったので、慌てて目を逸らした。

姉様のドレス! あれは流石に派手すぎる!
色はアイボリー色で控えめだが、異常なほどフリルやレースが多い。そして、ゴテゴテの装飾品。あれでは、クリスマスツリーではないか。

一番お金がかかっているドレスかもしれないが、かえって不恰好だ。
せっかく側だけは美しいのに、もったいない!

欲張りすぎたんだろうなぁ、姉様。

一緒に選んだはずのアンジェロ様も、驚愕の表情で目をひん剥いている。元々大きな目がさらに大きくなっている。
装飾品は姉様の独断なのかも。

姉様は得意満面でお父様と入場する。そしてお父様の手からアンジェロ様へと託される。

お父様は涙を流していたが、多分嘘泣きだろう。
内心ではほくそ笑んでいるに違いない。この結婚は、下級貴族であるお父様にはメリットが多い。

調子を取り戻したアンジェロ王子は、にっこりと微笑み、姉様をみつめる。そして、二人は永遠の愛を誓い合う。
まぁ、私が永遠になんてさせないけど。

その後、来客たちは料理を楽しみ始め、会場では賑やかな雰囲気になる。

「それでは、ビアンカ様のご友人が欠席ということで、妹君のレイラ・ローズブレイド嬢にお祝いのご挨拶をしていただきます」

隣に座っていたお父様が驚いたようにこちらを見る。私は微笑をたたえ、前に出る。

挨拶をするはずだった友人は、姉様の手下令息の内の一人の婚約者だった。彼女は姉様の裏切りに気づいていなかったので、私が教えた。もちろん、証拠と一緒に。

だから、結婚式になんて来るはずがない。
すべて計画通りだ。

姉様も目を見開いてこちらを見ている。「余計なことを言うとどうなるかわかっているわよね?」という視線がひしひしと伝わってくる。

隣のアンジェロ王子は、私を歓迎する笑みなのだろうが、私には阿保面にしか見えなかった。

来客は、私の髪や瞳を見て気味が悪そうに眉を顰めた。

でも私の髪は変じゃない。
今日もドレスの色と合わせてオセロみたいでいい感じだ。私は今の自分に自信が持てる。

私は深呼吸をする。

「お姉様、ご結婚おめでとうございます。みなさんも私が魔女と呼ばれているのはご存知ですよね? しかし、ビアンカ姉様はいつも私を庇ってくれました」

ビアンカ姉様がほっとしたように胸を撫で下ろした。

でもね、姉様。本番はこれからなんですよ?
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