マネージャーに性欲管理されてます

大安大吉

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46話

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『――――なんでこの番号を知っている?』
「俺が修二さんのスマホをチラ見した時に覚えた。修二さんに教えてもらったわけじゃないよ」

 今まで数多くの台本を暗記してきた。隼人にとって電話番号程度は朝飯前だ。
 仙崎との生活の中で何度もこの番号が表示されるのを見ていた。そして彼はそれに仕事だと言って電話を取っていた。つまり――――。

「ユウキさんは、修二さんの部下でアフロディーテの店長さんであってる?」
『――――……だとしたら?』

 明言することを避けているが声に動揺があった。電話も切られない。
 この通話が仙崎に知られたら彼は怒るだろうか。
 そんな考えが頭をよぎるが、隼人にも譲れない部分がある。

「ちょっと聞きたいことがあって電話してみました。ユウキさんは俺が海外のオーディションを受ける事になったの知ってる? 〇〇監督の映画なんだけど、その人もしくは関係者がお店の客だったりしない?」
『どうだかな。個人情報を教えるわけないだろ』
「えっと、その監督が店を利用してるとかそういうのはどうでもいいかな。修二さんとその人とでどんな取引があってオーディション枠を貰えたのか知りたい。具体的には、この件を喜んで引き受けたら何かヤバい事に関わることになるんじゃないかってのと、オーディションが出来レースなんじゃないかってこと」
『……お前何を知った』

 声のトーンが一段下がった。何かを察したらしい。
 隼人は情報を得られそうな気配を感じ、覚悟を決めて知ってしまった事実を告げる。

「修二さんが俺をずっと隠し撮りしてた。睡眠薬を盛って俺の身体で遊んでた。あとは俺が思っている以上に権力持ってる人物だってことぐらい」

 隼人が見てしまったファイルには、隼人の日常を隠し撮りした大量の動画が保存されていた。
 日付ごとに分類され、さらに食事、入浴、睡眠とわけられ、ある日からは自慰行為の様子も記録されて個別ファイルに保存されていた。
 日付が正しいなら、盗撮は仙崎と住むようになってすぐに始まっていたらしい。
 目を疑いたくなった。知ってしまった時の衝撃は、この先一生忘れることは出来ないだろう。
 引っ越す前から撮られていて、引っ越してすぐに与えられた部屋にも、そしてあの地下室にもたくさんの隠しカメラで二十四時間撮られていた。
 
『あー、なるほどね。で、別れたいから情報収集ってわけか?』
「いや、別れるつもりはないけど」
『はあ!?』

 電話の向こうの人物は、素っ頓狂な声を出して驚いている。
 なかなか現実では聞くことのない発声に、隼人は頭の片隅で演技の参考になるな、と冷静に思考した。

「だから、別れるつもりはないって」
『なんで!? そんなことされたら普通は別れるだろ!』
「普通はそうだね。見た時は俺も引いた。でも俺俳優だし、撮られるのは慣れてるっていうか、表にさえ出さなければまあいいかなって」
『ええっ!? いいのか!? それでいいのか!?』
「気にしなければ店にある防犯カメラと一緒だよ。ただ睡眠薬使うのはさすがにアウトだと思ってる。どうりで最初のセックスの時にすんなり入ったわけだよ」

 まったく起きる気配のない隼人に仙崎が玩具を使っている映像を見た。きっと身体を繋げることを初めから想定していたのだろう。どれだけ睡眠が深くても、あんなことされて起きないはずがない。あの頃、寝入る時と起床する時の感覚が妙だった。きっとあれは睡眠薬の効果だったに違いない。

『ほんとに別れないのか? いや、店を預かる者としては従業員達の平和のためにも仲良くやってくれるのが理想だが、個人的にはオススメしないぜ。あの人、独占欲強すぎ権力持ちすぎのヤバい人だから』
「社長にも言われてた。俺もこの件で何となくそこは自覚した。それでも別れるつもりはないよ」

 そこまで広くない会議室で、隼人はぼんやりと自分の内側を分析する。仙崎と別れない理由。
 正直、自分でも分からないごとが多い。仙崎のやっていることは、犯罪レベルの執着度だ。
 それでもふわふわした明確な形にならない想いを言葉にしていく。

「これは俺が元々そうだったのか、それとも修二さんのせいでそうなったのかわからないけど、俺は修二さんぐらい重く激しく愛されて初めて愛されている喜びを実感できた。二十四時間撮影してそれをしっかり項目ごとに分けて、お気に入りフォルダをいくつも作っちゃって、仕事も俺の世話もあるのにあれは愛がなければ出来ない量だ。盗撮されるのはまだ抵抗あるけど、裏を返せばそれほど俺のことが好きだってことでしょ。修二さんの頭の中は俺のことだけを考えてるってわかって安心する。多分、俺にはこれくらい重い愛で丁度いいんだと思う」
『マジか……。すげぇお似合いってことじゃん。俺は心から祝福するよ。あの人と付き合える人間がこの世にいると思わなかった』
「あはは、どうも。……でも、愛されてたって俺にも譲れない所はある」
『オーディションが出来レースじゃないかって?』
「そう。もし修二さんの力で初めから決まってるなら、俺はそんなつまらない仕事は受けたくない。オーディションって決まってるなら、ちゃんと自分の実力で勝ち取らないと。それに一方的に圧力かけて得るものなんて、いずれ何処かのタイミングで暴露されるよ。コネってお互いに利益が出る関係であるからこそ成り立つものでしょ?」

 隼人に感心したようで、電話相手は息を呑んで驚いたように言葉を漏らす。

『お前、思ってた以上に色々と考えてるんだな』
「これでも芸能界で成り上がってきたからね。そっちも闇深いんだろうけど、この業界も黒い所は多いよ。落とし穴はどこにだって空いてるし、それをちゃんと回避できる人間が生き残るんだ。……まあ、母親のことがあったからそんなに偉そうに言えないんだけどさ」
『まあそういう時もあるさ』

 顔も知らない相手に慰められて、思わず苦笑いが浮かんでしまう。今にして思えば、あの時の自分はとても視野が狭くなっていた。こうして客観的に見れるようになったのは間違いなく仙崎のおかげだ。とはいえ、だ。

「修二さんの行動は俺の考えの遥か上を行くからさ、何かヤバいことあるんじゃないかって疑いたくなるんだよね。俺じゃあ修二さんが何やるかわからないし聞いても煙に巻かれるだろうし、社長は修二さんに頭が上がらないみたいだからユウキさんに電話してみた」
『なるほどね。いいぜ、教えるよ。結論から言えば出来レースではない。あくまでオーディションに参加できるだけだ。何故なら監督が芸術家肌の実力重視の人間で、どれだけ金を積まれても自分の好きなように作品を撮る人だからだ。確かにうちの店の客の一人だから、その縁で今回オーディションに参加できるけどその先はお前の実力次第だ。向こうはオーナーに可愛がられてる人間をちょっと見てみるかってぐらいの感覚だろうさ』

 隼人のオーディションへの疑惑は杞憂だったらしい。
 それならそれでいいのだ。仙崎の裏の顔を知ってまだ日が浅いから、彼がどの程度やれてしまう人なのか分からなかった。どうやらそこまで権力でゴリ押しすることは無いらしい。

「いいね。断然やる気が出てきた」
『ああでもオーディションの結果に関わらず、セックスパーティーには誘われるかもな。あの監督の趣味だと何でもありの乱交パーティーが開かれると思う』
「うわぁー、それは嫌だ。参加したくない」
『ははっ、大丈夫大丈夫。仙崎さんがお前を他の人間に触らせることなんてまず無い。でも視姦させるぐらいのことはあるかも』
「それでも嫌だな。でもお願いされたら押し切られるかも。……う~ん、まあ確定してるわけじゃないし今は置いとく。教えてくれてありがとう。オーディションは受けることにするよ」
『おう、頑張んな。…………ちょっと待て。お前、これ何処から電話してる?』
「事務所の会議室。念のため盗聴器を仕掛けられてるかもしれない物は外に出してる」
『へー、やるね。でも、そこまでされてるかも知れないって思ってるのに、それでも仙崎さんのこと好きなのか? 俺が言うのもなんだが、あの人かなり闇深いぞ。』
「うん、好きだよ。何か他にも隠し事があるのはわかってる。知らない振りなんていくらでも演じられるけど、わざわざ聞くつもりはないよ。修二さんはそういうのを知らない俺が好きなんでしょ、多分。あんなに格好良くて相手には困らなそうな人なのに、手段を選ばず俺を囲い込んで愛してくれるなんて可愛いじゃん」
『…………そう言えるのはお前だけだよ。荒れるとマジで怖いから、俺等の平穏のためにも末永くよろしく頼む』
「あはは、了解」



 
 エレベーターを下りて駐車場への扉を開くと、お目当ての車はすぐ目の前に止まっていた。隼人が乗り込めるように移動させたのだろう。そんな気遣いに口角を緩めながら、隼人は助手席のドアを開ける。

「おまたせ~、スマホ見つかった」
「見つかって良かった。では帰りましょうか」
「オッケー。ね、英語の勉強はすぐ始めるの?」
「もちろんです。厳しくいきますよ。罰則も有りにしましょうか」
「それってエロいことでしょ」
「当たりです」
「やっぱりね。修二さんはしょうがない人だな~」
「隼人も好きでしょう?」



「そうだね、修二さんにされることは何でも好きだよ」










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