春の記憶

宮永レン

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 それから程なくして、私は県外の別の会社へ勤めることになった。

 新たな職場には私よりも三つ年下の秋野という男がいた。

 年下だけれど、立場上は先輩である彼はいろいろとわかりやすく業務を教えてくれたり、冗談を言ってその場を明るくしたり、人を引き付ける天性の才のようなものを持っていたように思う。

 秋野から交際を申し込まれた時、私は忘れられない人がいると伝えたが、彼はそれでもかまわないと言ってくれた。少し考えさせてほしいとは言ったものの、一人でいる寂しい心に秋野の存在は温かかった。

 過去の失恋に蓋をして前に進むことは悪いことではないだろう。それでも時々、夢に悠樹が出てきた日には、心が乱れてうまく笑えなくなる。

 心の片隅にはいつも悠樹の存在があった。

 秋野はそのことに気づいているのか、いないのか、付き合って一年以上が経っても無理に聞き出そうとはしなかった。

 この春、私は秋野と結婚することが決まっている。

 挙式を目前に控え、自分は本当にこれで良かったのか、ここ数日とみに迷うようになっていた。

 このまま秋野と結婚してもいいのか?

 他に幸せになれる道があるとしたら?

 わかっている。

 私はいまだに悠樹に別れを告げたことを後悔しているのだ。
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