16 / 32
第二章 変わらないはずだと信じたものさえ遠ざかるから
青四季海と、陽菜ではなく、同級生の鮎草亜由歌
しおりを挟むオイルはペニスに沿って垂らされ、下腹部と内腿へ手のひらで塗り広げられた。その感覚だけでも、ぞくぞくとしてしまう。
「そういえばさ、海くん、最近ある特定の女子と仲いいらしいじゃん」
「いきなりなんの話ですか、そしてなんですかその口調は」
「鮎草亜由歌さん、でしょう? つき合ってるの?」
またその話か、と思う。
とはいえ陽菜は単純に訊いているだけだろうから、クラスの同級生に囃されるのとは違い、腹は立たない。海は、ただありのままを述べるだけだった。
「つき合ってないです。仲はいいですけど。亜由歌はかわいいし、人柄もいいですしね」
先日教室で言ったことを、簡潔にまとめて告げた。
「そうだよね、鮎草さんてかわいいよねー。眼鏡がよく似合ってる。取ってもかわいいけど、してるほうが私は好きかなー。海くんはどう?」
「おれはどちらでも。亜由歌がしたい恰好をすれば、それでいいと思います。おれから亜由歌への好感度が高いので、どんな服装や装飾品でも、よく似合ってかわいく見えてしまいそうですけど」
海からは見えなかったが、陽菜は半眼になって言った。
「……あなたたち、それでつき合ってないの?」
「それで、とは? いくらおれからの好感度が高くても、亜由歌の気持ちのほうが大事ですし」
「そっか……青四季くんて、そんな感じなんだ……これは大変だなあ」
「? なにがですか?」
「ううん。もしつき合ってるなら、こういうことするのは悪いなって思っただけ」
「おれも、もし特定の彼女ができたら……こういうことはしないと思います」
オイルを塗り広げていた陽菜の手に、意志が込められたのが感じられた。
海の両胸の突起が軽くつままれる。
「鮎草さんとつき合ってれば、こんなふうにさせちゃうのかな?」
「んっ、……亜由歌は、そんなこと、……あ、……しません……」
海には見えないが、おそらくは人差し指か中指で、乳首がぴんぴんと弾かれる。
普通にやれば少し痛い愛撫だが、オイルのおかげで引っ掛かりがなくなり、淡い快感が海に注ぎ込まれていた。
「青四季くん、初めてのオイルの感想はどう?」
「ぬるぬるして、気持ちいいです、……う」
陽菜は、海に攻められている時はあまり饒舌ではなかったが、攻める側になるとまた違うらしい。
海も陽菜には気を許しているために、本音で話しているうちにどんどん体もほぐれていく。
陽菜の指が、わき腹を斜めに撫で、腰骨の横をするすると指先でなぞる。
似たような触れ方を、海は陽菜にしたことがあった。
試しに自分で自分に触れてみたこともあるのだが、自分をくすぐるのと同じで、あまりぴんと来なかった。しかしこうして陽菜に触られていると、かなり効果的な愛撫だということが分かる。
ただでさえ硬くなっていたペニスは、完全に勃起してしまう。まだ直接触れられていないのにこうなってしまうのは、待ちわびているのを見透かされているようで、海には恥ずかしくて仕方がない。
「先生……」
そう言って、海は腰をわずかに浮かせる。
控えめにねだり方だったが、充分に陽菜には伝わった。
「いいよ。いくね……」
陽菜の手が両手とも海から離れた。
そして、ペニスの先端が、暖かくて柔らかいものに包まれる。
どうやら両手で、左右からくるんでいるらしい。
「ああ……!」
「んふふ、どう? こうすると入れてるみたい?」
陽菜は一度オイルを手に足したらしく、先ほどまでの上半身の愛撫よりも、たっぷりとした液体の感触をが伝わってきた。
ぐち、ぐち、と粘ついた水音を立てて、手が上下する。
「わ、……からない、ですよ、……おれ……入れたことは、ないから……」
「入れたことは? じゃあ、入れられたことはあるの?」
手の動きが少し鈍った。
こんなことを訊かれるとは思わなかったが、陽菜にとっても無視できないほど、興味を引かれているらしい。
「少しだけ、あ、ですけど……ああ」
「どんなふうに? 相手、男の人?」
「うああ……そう、です、……いっとき、歌舞伎町のあたりで、男が好きだっていう人たちのグループと仲良くなったことがあって、その時……ふざけて……あ、そ、そこっ!」
「そうなんだー。無理矢理じゃなかったのね?」
オイルまみれの手は、根元のあたりをゆるゆるとしごくが、微妙に流暢さに欠けており、そのもどかしさに震える先端が不満げにしゃくり上げた。
その不満を見て取ったのか、手は一度幹を離れると、先のほうを強めに握って上下してくる。
握る時はおそるおそる気遣う気配があったが、一度動き始めると、だんだんと容赦がなくなっていく。
「ああ、ああ……! ち、違います……優しく、してもらいました……あ、あ」
「へーえ。じゃ、海くん、童貞だけど処女じゃないんだ」
ペニスをかわいがっている手はの主は、その話に興奮したのか、力と速さがさらに増していった。
「で、でも、す、少しだけですよ……そんなに、ちゃんとは……あ!」
「ふんふん、ちゃんとはしてないのねー。でもそんな話、あんまり人にしちゃだめだよ。特に、仲のいい女子とかにはさ」
先生が訊いたんじゃないですか、と反論するには、ペニスの中で快感がたぎり過ぎていた。
そして、仲のいい女子と聞いて、海は亜由歌を思い浮かべてしまう。
着想と妄想が連動して、海は、閉ざされた視界の中で、亜由歌にしごかれている自分を想像した。
びくん、と腰が跳ねた。
「あ、」と海が声を上げたのは、オイルまみれの手が、腰に弾かれてつるりとペニスを放してしまったからだった。
しかしすぐに再びペニスはとらえられ、海は「……ああ!」と息を漏らす。
「あーあ、興奮しちゃった? ……誰か、私以外のこと考えちゃったの? 仲のいい女子って聞いて、誰の事思い浮かべちゃったのかな?」
海の脳裏に、亜由歌の姿がはっきりと形作られた。
彼女が今、海の足の間にしゃがみ込んで、懸命にペニスをしごき立てているところが思い浮かんでしまった。
やめろ。
こんなのはよくない。
さっき、自分で言ったことだ。亜由歌はそんなことはしない。
そう否定する海をあざ笑うように、想像上の亜由歌は、上気した頬の上で、欲望に潤んだ瞳を眼鏡の奥で光らせている。
亜由歌の姿のイメージが、どんどん解像度を上げていく。
亜由歌が……亜由歌が、おれを……
亜由歌の手で、おれを、こんなに気持ちよく……
もしこのまま耐えていれば、やがて口でも……
亜由歌の、くち……
「あ、あっ!」
「どうしたの青四季くん、いっちゃう!? じゃあ、激しくするね!」
その言葉からワンテンポ遅れて、ぐちゅぐちゅぐちゅ、と水音が激しくなる。
いつしか、海も自ら腰を突き上げていた。
二週間、体内で暴れまわる性欲に耐えに耐えてきた少年の体が限界を迎えようとしていた。
精液は、もう取り返しがつかないところまで殺到してきている。
「い、いきますっ! ま、また出ちゃう……い、いっぱい、出ますッ!」
「いいよ、青四季くん! いっぱい出していいよ! でも、一個だけお願い聞いて!」
「お、お願いっ?」
「教えて。さっき思い浮かべた女の子は、鮎草亜由歌さん!?」
なんで、それを。
そうは思ったが、海はもう思考を展開できる状態ではなかった。
ただ、正直にがくがくとうなずく。
「なら、名前呼んであげて! 鮎草さんの名前! それで、いく時はいきますって言ってあげて!」
「そんな……こと……」
できない。しちゃいけない。
しかし、暗い眼前に、亜由歌の笑顔が大写しで現れると、もう我慢できなかった。
「で、出るっ! 亜由歌、おれ、いっちゃうっ! 亜由歌……ああ……! い、いくっ!」
どくん、と深く脈打って、ペニスから精液が勢いよく飛び出した。
手をかざすように頼む余裕さえなかった。
いけない、と思う間もなく、二弾三弾の射精が起こる。
ぱたぱた、と音を立てて、海の体と防水シーツに、密度の濃い液体が落下した。
なにも言うことはできず、身じろぎもできない。
今度も、陽菜が体を拭いてくれているらしく、腹や腰の肌にタオルの感触がした。しかし、それすらいとわしい。
「わあ、凄い……。これは、凄い量だね……。溜めてた?」
答えられない。
やがて、体を拭き終えた陽菜が、ベッドを離れる気配がした。タオルをゆすぎに行くのだろう、と海はぼんやり思った。
しかし。
「青四季くん、どうだった、今日の私の手?」
そんな声が部屋の入り口から降ってきた。
無視するわけにもいかず、海は浮かんだ言葉をそのまま口にする。
「よかったですよ……おれ、こんないき方、初めてです……」
「そっか、そんなによかったんだ。そうだよね、いっぱい出たもんね。気持ちよかったよね」
分かりきったことを、口に出して応酬したいお客は少なくなかった。
だから海は、そういうものだと思って、「そうです。全部出ちゃいました。気持ち良すぎたから……」と告げる。
ただ、その快感は、最後に亜由歌を思い浮かべたせいでもあったのは、自覚している。
背徳感が性感を上昇させるという話は聞いたことがあったが、そんなものはもっと年齢を重ねて、性行為を冗長だと感じる人間が意識するものだと思っていた。
(悪いことしたな、亜由歌には……。好きな人がいるって言ってたのにな……)
自慰になるみを使うのはだめで、人にいかされる際に亜由歌を使うのはいい、などとは理屈が通らない。
快感は凄まじかったが、反省も大きい夜だった。
「でも先生、これで終わりでいいんですか……? おれも、あなたを……」
「いいのいいの、今日はこれで。お疲れ様っ」
そう言い残して、陽菜は、今度こそ洗面所へ行ったようだった。
海は改めて、全身を弛緩させる。
眠ってしまわないようにするのが精いっぱいなくらい、脱力していた。
陽菜は、洗面所で水を出し、、隣に連れてきた女子に小声で告げた。
「手、よく洗ってね。どう? 満足した?」
女子は無言のまま、こくん、と深くうなずく。
「よかったじゃん、気持ちよかったって。うまくできたね。たぶん青四季くん、女の子にいかされるの、そんなに慣れてないんだと思うよ。先のほうとか、敏感そうだったし。いいなあ、私だって、青四季くんにしてもらったことはあるけど、彼をいかせたことはないんだからね」
再び女子はこくこくとうなずく。顔を真っ赤にしながら。
「じゃ、音立てないように気をつけて、今のうちに出て行きなね。服に精液とかオイル、ついてないよね? ……オーケー。じゃ、頑張ってね。応援してる」
そうして鮎草亜由歌は、この部屋に入ってから一言もしゃべらないまま、マンションを後にした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる