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なぜか乙ゲーの攻略キャラに転生してしまった俺は、悪役令嬢の可愛さに惚れました

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 そんなある日、いつものようにエトワールがアツコに注意をしていた。

「アツコ嬢、あなた昨日、授業が終わった後で先生にプリントを取りにくるように頼まれていましたのに、行きませんでしたわね。先生が困っていらっしゃいましたわよ。頼まれた仕事を放棄するなんて、無責任ですわ!」
「わ、わたし……」

 アツコが隣にいたニコラスに視線を送った。

「アツコは昨日、気分が悪くなって僕が彼女を寮まで送ったんだ。だから、アツコがプリントを取りに行けなかったのは仕方ない」
「でも、それでしたらどなたか別の方に、ニコラス様にでも先生に伝言をお願いすることもできたはずですわ」
「きっと、そんな考えも回らないほどに、気分が悪かったんだよ」

 俺はそれを聞き、あれ? と思った。昨日の夜、隣の部屋からアツコのクスクス笑いが響いているのを俺は聞いていた。そこは、あざ可愛い弟キャラのルイードの部屋だ。

 男女別れている寮は、行き来が禁じられている。気分が悪いといって部屋に帰った人間が、その夜に男子寮の男のひとり部屋に忍び込んで笑ってるとか、おかしくねーか?

 そう考えてると、ニコラスがエトワールを睨みつけた。

「エトワール、以前から君は冷たい女性だと思っていたが、なんて思いやりがないんだ! 病人さえも気遣うことができないだなんて……
 アツコを見習いたまえ! 彼女のように優しく思いやりに溢れた女性はいない!」

 エトワールが眉を寄せ、唇を噛んで震わせた。

「もう、結構ですわ!」

 くるりと背を向け、大股で歩き去っていく。

「アツコ、大丈夫かい?」

 去って行った婚約者を心配する様子など微塵もみせず、ニコラスが怯えた様子のアツコを抱き締めた。

「えぇ、ありがとう。エトワールって、怖いわね……」

 俺は、エトワールが小さくなる姿を見ながら、心がモヤモヤした。

 あいつって、冷たいのか? 俺には、そんな風に見えないが。

 気になっちまって、エトワールが歩き去った先へと追いかけていった。

 校舎裏の木の影に、あいつがいた。

「……おい、大丈夫か?」

 声をかけられ、振り向いたエトワールの瞳が濡れていた。思わずドキッとする。

「なんでもありませんわ」

 エトワールは目尻の涙を拭い、「失礼いたします……」と言って去って行った。

 男に頼ろうとするアツコとはまったく違う、孤高のエトワールが凛として美しく俺の目に映り、彼女が視界から消えても瞼の裏からその姿が離れなかった。
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