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甘い時間

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 着いたのは、リアムが公爵として居を構える屋敷だった。それを認めたジュリアンはフードを被り、顔を隠した。もし、自分達の関係が知られでもしたら大事になってしまう。

 門番が遠くからリアムの姿を認めると門をさっと開け、リアムは馬の歩みを止めずにそのまま邸宅内へ入った。敷地内の厩舎へと近づくにつれ、次第に馬の歩みがゆっくりとなり止まった。

 リアムが強くジュリアンを抱きしめていた腕を離し、ひらりと馬から降りる。

 馬を労うようにポンポンッと頭を優しく撫でると、馬もそれに応えて甘えるようにシドの方へと首を傾けた。何も言葉を交わさずとも、信頼関係が築かれていることが伝わってきた。それをジュリアンは微笑ましく見つめた。

 なんか、こういうリアム見るのっていいな。温かい気持ちになる……

 そう思っていると、突然ふわっとジュリアンの躰が浮いた。

「わっ!?」

 リアムがジュリアンの腰を掴んで馬の背から下ろし、酒場の時のように肩に担いで移動しようとしていた。

 また……

「まっ、待ってリアムっ!!」
 「チッ、またかよ。今度は何だ?」

 ほんとリアムって、動物に対しての扱いの方が優しいんじゃないかって思っちゃうよ……

「荷物みたいに運ばれるのは、嫌だ……」

 すると、リアムは少し考えた後、ジュリアンをゆっくりと地面へ下ろして立たせた。今度は自ら立膝をつくと、恭しく手を差し伸べる。

「お手をどうぞ、プリンセス」
「ッ……ぼ、僕はプリンセスじゃない、プリンスだ!!」

 ジュリアンは反論したが、リアムの優美な所作、甘美な眼差しを受けて、思わず顔を真っ赤にした。声を上擦らせてしまったジュリアンに、リアムがプッと吹き出した。

「おまえってほんと、からかいがいのある奴だな」
「また! そうやって……」

 言い掛けたジュリアンの手の甲に、リアムが恭しく口づける。

「ん……」

 優美でいて、どこかエロティックなその口づけが、ジュリアンを一気に淫らな気持ちにさせる。

 一瞬の口づけ、なのに……

 ジュリアンの胸が絞られるように苦しくなった。

 リアムは、すっと立ち上がると、ジュリアンの手を握ったまま、もう一方の手で腰を支えた。その直後、ジュリアンの躰が浮き上がる。

「うわっ!!」

 ジュリアンは、リアムに横抱きにされていた。

「これなら文句ねぇだろ、プリンス?」

 リアムの精悍な顔が近くに迫り、ジュリアンの鼓動が急速に速まっていく。

「自分で歩ける!」
「遠慮すんな」
「遠慮なんて……」
「誰かに会話、聞かれちまうぞ。黙ってろ」

 そう言われて黙った途端、リアムはニヤリと笑い、ジュリアンを横抱きにしたまま歩き出した。

 胸が、苦しい……

 肩に担がれていた時とは違う景色と感触にドキドキして、借りてきた猫のようにおとなしくなったジュリアンは、動揺をごまかすようにギュッとリアムの首に回した腕に力をこめると、胸元に顔を埋めた。

 男、なのにリアムにお姫様抱っこされるなんて……恥ずかしい、けど……それを上回るぐらい、すごく嬉しいかも。

 長い廊下をリアムがジュリアンをお姫様抱っこしたまま部屋へと向かい、歩いて行く。途中で誰かに会うんじゃないかとヒヤヒヤしながらも、真っ暗で人気のない静まり返った廊下には人どころか何の気配も感じなかった。

 ただ……僕の、鼓動が響くだけ……

「……なんかおまえが黙ってると、調子狂うな」

 リアムがジュリアンの顔を覗き込み、意地悪く笑う。

「もう……リアムはいつも雰囲気を壊すようなこと、言うんだから」

 ジュリアンは俯いて呟いた。

 そんな彼を見て、愛おしげに見つめるリアムの瞳に、ジュリアンは気付かずにいた。
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