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346.義昭への憎悪
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美羽も自分なりに教団内部を探ろうと類に迫ったが、そのやり方はあまりに拙く、直情的だった。
『オカダ? 誰、それ?』
演技することなく自然に出て来た類の言葉に、信じられないといった表情を見せた美羽を思い出すと、愛おしくて笑いが込み上げてくる。
ミューってほんと、穢れてないよね。
オカダリョウジなんて男、この世にいないのに。探し出せるはず、ないのにさ。
そう。『オカダリョウジ』という名前の人間など、この世に存在しない。
教団に潜入するために作り上げた、リョウの偽名なのだから。
義昭が『オカダリョウジ』と聞いて、リョウのことだと結び付けられなかったのも、無理はない。
彼の本当の名前は……吉澤《ヨシザワ》 聖陵《セイリョウ》。
そこから類が、『リョウ』という名を彼に与えた。
それ以来、彼は会う人に自分の名は『リョウ』だと名乗っていた。義昭すら、リョウの本当の名前を知っているかどうか疑わしい。
そんな美羽とは逆に、躰も、心も穢れてしまった自分を呪いたくなる。類は睫毛を震わせ、唇を噛み締め、苦悶に満ちた表情を浮かべた。
ミューは……あのビデオを見て、どう思ったかな。
怖かった? 気持ち悪かった?
僕のことが……嫌いに、なった?
美羽にあの動画を見せたのは、類の意思ではない。義昭の思惑により、そうなったのだ。
義昭は、類と美羽が廊下で喋っていたのを自室からこっそり聞いていたに違いない。そこで、美羽が自分の部屋に入るかもしれないと考え、罠を仕掛けたのだろう。
あのファイルにはロックがかかっていた。義昭が故意にロックを解除しておかない限り、美羽に見られるはずがない。
あの日、類は突然気分が悪くなり、乱される感情の波に襲われる中、閉店作業の途中にトイレに駆け込んだ。美羽に何かあったのでは……と心配して、確認したスマホに映った画面。
義昭の部屋で驚愕しながらパソコン画面を食い入るように見つめる美羽に全てを悟った時、類の全身が義昭への怒りに震えた。
あ、いつ……勝手なことしやがってぇぇ!!
あのファイルを、義昭のパソコンから削除しておくべきだったと類は後悔した。
だが、削除してしまえば、義昭は不信感を抱いてしまうだろう。
いっそ、義昭をこちら側に引き込んでしまおうか……そんなことも考えたが、嘘が下手な義昭がうまく立ち回れるとは思えない。
それに、リョウとは違い、自分の配下につけるほどの付加価値のない男だ。自分が類のために役立っているなど、爪の先ほども思わせたくなかった。
義昭は、ただの駒なのだから。
類があの動画をコピーしておいたのは、義昭が類に牙を剥いた時に脅すための材料としてとっておくためだった。
義昭は、どんな目的であの動画を美羽に見せようとしたのか。
今まで義昭の心は、類にだけ向けられていた。双子である美羽に出会った頃こそ彼女に気持ちが傾いていたものの、すぐにそれはなくなり、冷たくなっていた。
それが、最近の義昭の態度はどうだ。美羽に優しくし、好かれようとしているのが見え見えだ。それを類は、苦々しく思っていた。
もし……義昭が、あの動画を美羽に見せることで類を嫌うように仕向けたとしたのなら、絶対に許せないし、地獄の業火で焼き尽くしても足りないぐらいだ。
それとも、そうすることで類にお仕置きされることを望んでいるのだろうか……
そんな考えが浮かび、類はブルリと身震いした。
『オカダ? 誰、それ?』
演技することなく自然に出て来た類の言葉に、信じられないといった表情を見せた美羽を思い出すと、愛おしくて笑いが込み上げてくる。
ミューってほんと、穢れてないよね。
オカダリョウジなんて男、この世にいないのに。探し出せるはず、ないのにさ。
そう。『オカダリョウジ』という名前の人間など、この世に存在しない。
教団に潜入するために作り上げた、リョウの偽名なのだから。
義昭が『オカダリョウジ』と聞いて、リョウのことだと結び付けられなかったのも、無理はない。
彼の本当の名前は……吉澤《ヨシザワ》 聖陵《セイリョウ》。
そこから類が、『リョウ』という名を彼に与えた。
それ以来、彼は会う人に自分の名は『リョウ』だと名乗っていた。義昭すら、リョウの本当の名前を知っているかどうか疑わしい。
そんな美羽とは逆に、躰も、心も穢れてしまった自分を呪いたくなる。類は睫毛を震わせ、唇を噛み締め、苦悶に満ちた表情を浮かべた。
ミューは……あのビデオを見て、どう思ったかな。
怖かった? 気持ち悪かった?
僕のことが……嫌いに、なった?
美羽にあの動画を見せたのは、類の意思ではない。義昭の思惑により、そうなったのだ。
義昭は、類と美羽が廊下で喋っていたのを自室からこっそり聞いていたに違いない。そこで、美羽が自分の部屋に入るかもしれないと考え、罠を仕掛けたのだろう。
あのファイルにはロックがかかっていた。義昭が故意にロックを解除しておかない限り、美羽に見られるはずがない。
あの日、類は突然気分が悪くなり、乱される感情の波に襲われる中、閉店作業の途中にトイレに駆け込んだ。美羽に何かあったのでは……と心配して、確認したスマホに映った画面。
義昭の部屋で驚愕しながらパソコン画面を食い入るように見つめる美羽に全てを悟った時、類の全身が義昭への怒りに震えた。
あ、いつ……勝手なことしやがってぇぇ!!
あのファイルを、義昭のパソコンから削除しておくべきだったと類は後悔した。
だが、削除してしまえば、義昭は不信感を抱いてしまうだろう。
いっそ、義昭をこちら側に引き込んでしまおうか……そんなことも考えたが、嘘が下手な義昭がうまく立ち回れるとは思えない。
それに、リョウとは違い、自分の配下につけるほどの付加価値のない男だ。自分が類のために役立っているなど、爪の先ほども思わせたくなかった。
義昭は、ただの駒なのだから。
類があの動画をコピーしておいたのは、義昭が類に牙を剥いた時に脅すための材料としてとっておくためだった。
義昭は、どんな目的であの動画を美羽に見せようとしたのか。
今まで義昭の心は、類にだけ向けられていた。双子である美羽に出会った頃こそ彼女に気持ちが傾いていたものの、すぐにそれはなくなり、冷たくなっていた。
それが、最近の義昭の態度はどうだ。美羽に優しくし、好かれようとしているのが見え見えだ。それを類は、苦々しく思っていた。
もし……義昭が、あの動画を美羽に見せることで類を嫌うように仕向けたとしたのなら、絶対に許せないし、地獄の業火で焼き尽くしても足りないぐらいだ。
それとも、そうすることで類にお仕置きされることを望んでいるのだろうか……
そんな考えが浮かび、類はブルリと身震いした。
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