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しおりを挟む心配になって払いのけようとした手を止めて聞けば、「ん? してないよ 」とあっさりと返された。
「でも 」
「んー……」
気が逸れて、腕の中で大人しくしている美花の肩越し、背中に隠している鍋の蓋に浩峨が手を伸ばす。
気付いた美花が、「ちょっと、駄目っ! 」と慌てて止めようとするけれど、時既に遅く、非情にも鍋の蓋は開けられた。
「……。」
ーーーあぁ、もう絶対に馬鹿にされるっ!!
顔を両手で覆って俯く。 この後、ぶつけられる言葉を何も聞きたくなくて、美花は自分から叫んだ。
「そうよっ! 失敗しちゃったのよ、悪いっ?! 」
今、この人の目の前に映っている光景がありありと目に浮かぶ。
歪つにカットされた野菜達。 せめて味だけはと思ったのに、少しだけ目を離したら、あっという間に焦げ付いてしまった。
それでも、いつもなら無かったことにする時間があったのに、どうしようかと青くなっていたところに帰ってきてしまうなんて、どれだけタイミングが悪いんだろうと泣きたくなる。
「……帰って来るのが早過ぎるのよ 」
美花は自分の肩を抱き抱える男の白いシャツの胸元を、きゅっ……と掴んだ。
すると頭上から、ふっ……と零れる吐息。
「だって、美花ちゃんの顔が早く見たかったんだよ? 」
「なっ……に言って!! 」
嘘とも本気ともつかない言葉に、美花はカッ……と頬を染めて顔を上げる。けれど、そこにお玉でシチューを掬おうとする浩峨を見付けて、慌てふためいた。
「やだっ、やめてよっ!! 」
「こらこら、暴れないで」
クスクスと笑いながらお玉を口に運ぶ浩峨が、コロリと形の悪い人参を口の中に入れるのが見えて、美花は息を飲む。
万事休すとは、このことだ。だって、人参は……。
「大丈夫だよ、味は悪くな…… 」
直後に聞こえるガリッ……という音に、いつも優しく細めている漆黒の瞳を大きく見開いた浩峨と、バチンと目があった。
「だから、嫌だって言ったのに…… 」
途端に、ふにゃ……っと、我慢していた表情が歪んでしまう。
美花は掴んでいた浩峨の胸元を握り直すと、ガクガクと力の限り揺さぶった。
「早く出してよっ! 出してってばっ!! 」
「痛ッ……!痛いよ、美花ちゃんっ…… 」
「早く捨ててよっ! 吐き出してよっ! 」
「無理だよ、もう食べちゃった 」
ーーー食べ、ちゃった……?
サーーッ……と音を立てて、血の気が下がる。あんなの、あんな固いの……。
「何で、食べちゃうのよ 」
「美花ちゃんがいきなり揺するから、ビックリして飲み込んじゃったんだよ 」
ごほっと咳をしながら、ペロンと出した舌には浩峨が言った通り何も残ってはいない。
「でも、美味しかったよ? 」
「ばか、本当にばか……」
無意識に呟いた言葉に、浩峨がニッコリと笑う。
「美花ちゃんの気持ちが嬉しいんだよ。やったことのない料理を、僕の為に頑張ってくれたんでしょう? 」
「家には!使用人がいたから…… 」
「だよね? だったら、出来なくて当たり前。 分からないことはこれから覚えていけばいい、他のことも 」
僕も手伝うから……と耳許で囁かれて、美花がトン……と回された腕に頭を当てる。
「……ちゃんと、教えなさいよ 」
「勿論、喜んで 」
浩峨が、もう一度、クスリ……と笑った。
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