上 下
7 / 8

【クリスマスイヴ】

しおりを挟む
 その日は朝から仕事だった。お昼に仕事を終えて、美容院に行った。2人で舞台を見に行くとわかってから予約していた。
「この後どこか出掛けるの?」
いつもの美容師さんに言われたけど、デート…とは言えず、
『ダンスの舞台を見に』
とだけ伝え、カットとカラーをして、ちょっぴりオシャレにアレンジもしてもらった。
 待ち合わせは駅。
カズトがいた。いつも作業着のカズトが、ちょっぴりオシャレな格好をしていた。ドキドキした。
『お待たせ』
「待ってないよ。ちょっと早く来てサヤカが来るのを待ちたかっただけだから」
あの、最初の再会の時の無愛想で汚らしかったカズトはそこにはいなかった。ひとことひとことドキドキする。
「行こうか」
電車の中で私はダンスの話ばかりした。どんな舞台なのか、前に自分が出た時はどんなだったか、今日のホールは素敵なところだとか…。そうじゃないと、気がもたなかった。電車で座ると体が触れる。横を見ると目が合ってしまう。もうダンスの舞台とか正直どうでも良かった。
 舞台を見ている時は…
舞台に集中して、身体が勝手に動き、隣にカズトがいることを忘れて集中していたというのが正直なところで、終わって我に返ってから隣にカズトがいたことを思い出した。見られていたかもと焦った。
 カズトは笑顔だった。
「良かったよ。初めて見たけど、今度はサヤカの踊ってるのも見たいなー」
またドキドキさせる。
「せっかくのクリスマスだし、どこかでごはんしようよ」
 私たちはイルミネーションが煌びやかな街並みをぎこちなく距離感を保ちながら並んで歩いた。2人でごはんに行くことなんて今までもあった。ただ何かが違った。イルミネーションの中をくぐり抜け、ちょっぴりオシャレなレストランのクリスマスディナーを食べた。目の前にはカズトが座っている。なかなか顔を上げれずにいた。
「髪切った?」
見ていてくれたことが嬉しかった。
『待ち合わせの前にね、もともと予約してたの』
「今日はいつもと違うから…ちょっとビックリした。なんかどうしたらいいかがわからなくて…ごめんね」
『謝らないで。私も…
あっ、そうだ。』
私はカバンの底に入れておいたプレゼントを出した。彼女なら…マフラーでも重たくないよね。私は思い切って勢いよく渡した。
「ありがとう。俺、何も用意してないや」
『大丈夫、こうして一緒にいてくれてありがとう。それだけでプレゼントだよ』
私には最高のサンタさんからのプレゼントだった。
しおりを挟む

処理中です...