あんなこと、こんなこと

あんなこと、こんなこと

２

　俺より大きな井田の手が嬉々として俺のちんこをしごき、もう片方の手はなぜかタマの表面を撫でている。あれから俺の下を完全に脱がせてＭ字開脚までさせた井田は、その膝の間に陣取ってすぐにこの体勢に持ち込んだ。
　何だこれ。手際がよすぎてちょっと気持ちが追い付かない。

「……井田くん井田くん。それ怖いんですけど」
「何が？」
「何がって一応そこ急所なわけですよ。他人に触られるとか普通ないよね？　つかお前も男なら分かろうよ」
「えー、でも気持ちよくね？　自分でする時とか揉まねえの？」
「知るか」

　何が哀しくてオナニー事情を披露せねばならんのだ。

「ほーん。じゃ、タマタマのよさを教えてあげましょうかね」

　いたずらっぽく笑った井田はちんこをしごくのをやめて、両手でタマを包み込むようにやわやわと揉み始める。

「ちょっ！　お前人の話聞いてたか？」
「聞いてた聞いてた」

　袋の中身を転がすように手のひらでタマをもてあそびながら、井田の指先は会陰を撫でたり押したりしてくる。俺の興味は割と一直線に尻の穴に向かってたせいか、確かに自分ではやったことのない動きだ。悔しいけどだんだん息が上がってきて眉根を寄せていると、わざとなのか偶然なのか、会陰を行ったり来たりしていた指先が尻の穴をかすめた。思わず身体が跳ねたが、必死で平静を装う。

「あ、わり」
「う、うん」
「……」

　なんとなく微妙な空気になったのは俺だけじゃなかったらしい。ちょっと何かを考えるようにタマを揉む手を止めた井田が、俺の尻たぶを割りながら宇山を見た。

「……なー、男同士でやる時ってここ使うんだっけ？」
「!?」
「え、多分そうだと思うけど……。え？」

　今度は偶然じゃなく、はっきりと意思を持った井田の指が、俺の穴の周りをぐるぐると触り始める。万が一にも指先が入ってしまわないように、俺はそっと穴を締めた。

「ああ、うん。なんかこいつ相手だったらやれる気がすんだよなー」
「あ、それわかる」

　黙って聞いてたら、頭上で有川があっさり同意しやがった。

「いや待て待て待て。お前まで何言ってんの！　つかなんでそんな上から目線だよ。お前らがやれる気がしても俺がやれる気しねーだろが」

　思わず起き上がろうとすると、なだめるように有川に頭を撫でられ、再びあぐらの上に頭を預けさせられてしまう。
　くそ、地味に安定感がすごいな。この細マッチョめ。
　休むことなく穴の周りを触っている井田は、断られるとかこれっぽっちも考えてない口調で聞いてくる。

「えー、上からとか別にそんなつもりないけど。なあ、先っぽだけ挿れてみてもいい？」
「はあ!?」

　何の先っぽか、なんて聞くまでもない。この流れで指の先っぽなんて言うはずもないし。ジッパーの隙間からはみ出たままの井田のちんこが上を向いてる時点で、その答えなんて明らかだ。つか腹立つから口には出さないけど、井田の「先っぽ」はどう見ても竿より太くて厳しいだろ！
　そもそも、先っぽだけとか言っといてそれだけで止まれる童貞がこの世にどの程度いるというのか。

「なあ、もし痛かったらやめるし」

　言いながら、遠慮なく唾液を絡めた指をぐりぐりと押し付けてくる。心なしか息も荒い。
　やばい。こいつ口先だけで、さらさら俺の承諾なんか得るつもりねえな。
　一瞬で悟った俺は、痛いのだけは嫌で思わず穴の入り口を開いて受け入れ態勢をつくってしまった。

「お、ほら入った入った。いけそーじゃん？」
「っ！　っ！」

　唾液で濡らしただけの指が、あまりにも簡単に俺の中に滑り込む。それが俺の返事だとでも思ったのか。すっかりその気になってしまったらしい井田の指が遠慮なく穴の中でうごめいて、俺は俺で、初めて挿れられた他人の指に身体が煽あおられた。さっき井田にしごかれて勃ったまま、俺のちんこが萎える気配もない。
　だけどそれに気付かれたくはなくて、無駄なあがきでも、右手でＴシャツの裾を限界まで引っ張ってそこを隠した。

「あー……。何これ、すげーエロい」

　そこがどんなふうに見えてるかなんて、普段鏡で見てるから大体分かる。薄いながらも筋肉の付いた俺の身体は間違っても女には見えないけど、それでも男のケツだとか思えないくらいきれいでエロいだろうよ。
　知ってたけど、それでも、他人に「エロい」って評価されて腰がうずく。ぐちぐちと遠慮なく二本三本と指が足されても、いつもおもちゃで遊ぶ時と同じ要領で全部受け入れてしまった。

「うわ、すご。こんなに入るんだ……」

　宇山が横から俺の片膝をつかんで井田の手元をのぞき込みながら、唾を飲み込み思わずといった感じでつぶやいた。

「っ、うるせ。見んな」

　嘘だ。本当は見られて興奮してる。Ｔシャツの裾の中でガチガチになった先端がこすれて、気を抜いたら思わず腰を揺らしそうだ。

「な、痛くねえだろ？　なら挿れていいよな？」

　いやいやいや、痛くないのは俺のおかげなんですけど。
　いろいろ文句も言いたいが、こんだけされたら正直ここでやめられるのもつらい。それに、このままじゃ俺だけが男にケツの穴いじられて勃起してる変態になってしまう。もうここまで来たら、こいつらみんな巻き込んで共犯の変態にしてしまいたい。けど、あっさり受け入れたとは思われたくはなかった。

「……」

　思考が溶け始めた頭では、何が正解なのか分からない。
　くそ、何かあと一ひと押おししてくれたらうなずくこともできるのに。

「なあ頼むってー。やらせてくれたら飯おごるし」
「……じゃあ、先っぽだけ、なら」
「っしゃー！」

　飯につられて妥協したふりで返事したものの、指を引き抜いていそいそと下半身裸になる井田を見ていたら、ふと大事なことに気付いてしまった。

「あ、でも生はマジで無理」
「は？」
「だから今は無理」

　残念だけど。ゴムをかぶったちんこはディルドやバイブと同じだが、生のちんこはちんこでしかない。
　無理だと分かれば、染み出たエロい汁の証拠隠滅のために早く下をはきたい。それなのに、井田を手伝う気満々の宇山に足を押さえられてて身動きがとれない。というか、気が付くと俺はいつの間にか両脇にある有川の腕をすがるようにつかんでいて、慌ててその左手を離した。首の下にナニやら硬いものが当たってるけど、まあ、それには気付かなかったことにする。
　が、そんな俺をよそに、井田は「何言ってんだこいつ」みたいな顔をして首をひねった。

「でも、ゴム着けてたらいいんだよな？」
「え、……いや、まあ」
「分かった、着ける」
「は？」
「なに、お前そんなん持ってんの？」

　有川がツッコむ。言外に「万年童貞のくせに」って聞こえる。まあ、俺らもみんな万年童貞なわけだが。

「いやー、いつ何があるか分かんねえじゃん？」

　満面に笑みを浮かべた井田は、ちんこを放り出したまま部屋の隅に置いてあった鞄をあさって、透明のフィルムをかぶった小さな箱を取り出した。

「いや何もねーだろ！　哀しくなるからやめろよ、お前最後に女子と口とか利いたのいつだよ！　つかなんで箱で持ち歩くかな」

　コンビニで見たこともある、無駄に十二個とか入ってるやつだ。

「それどのくらい前に買ったやつ？　期限平気？」
「え、期限とかあんの？」
「いやあるでしょ」
「マジか……あ、平気だった。あと五年はいける」

　宇山と有川が妙に現実的なとこを突く。
　……いいけど、なんでこいつら俺を置き去りにするんだ。じっと足を開いて待ってるのも馬鹿らしくなって、宇山の手が離れた隙に腰だけ上げると、そばに置いてあったボクサーブリーフをそっとはき直した。まあ、おかげでちょっと冷静にはなった。ちなみに上半身はまだ有川に捕獲されたままである。

「あー!!　お前、なんで下はいてんだよ。ほら脱げ脱げ」
「いやー……ってかさ、ゴムとかあっても無理じゃん？　ほら、その……ローションとか？　ないと」
「ハンドクリームならあるけど。そこ、二番目の引き出しんとこ」

　まさかの有川の援護射撃である。

「お、いーじゃん。これでいけるいける」

　いやいけねーわ。慣れてると思われたらまずいから言わないけど、準備とか何もしてねえのに。
　正直なとこ、ここまでやって三人に引かれてないのは嬉しい。それに、口調はふざけたままだけど見た感じみんな勃ってるっぽいし。でも、冷静になってみればやっぱ不安だ。
　けど、このチャンスを逃のがしたら次はないかもしんない。ゆうべは家族が寝静まってからしっかり準備した上で早朝あさまでがっつりいじってたし……、もしかしたらまだいける、か？　さっき井田に散々いじられても大丈夫だったし、案外ちんこ挿れられても大丈夫なんじゃない、か？

　けどでもけどでも考え込んでる間に、有川に危なげなく抱き上げられてベッドの上に乗せられ、つながったまま箱から引っ張り出されたゴムとハンドクリームが横に並べられた。
　いやいやいや、使う分だけ出せばよくね？
　俺はすっかり定位置になった有川のあぐらにまた頭を預けさせられて上半身を固定され、なだめるように頭を撫でられている。
　いやいやいや、それもどうなんだ。
　心の中ではツッコみまくりだけど、表面上はおとなしくされるがままである。シングルベッドに男が三人も乗っかって、正直狭い。はき直した俺のボクサーブリーフをベッドに乗り切れない宇山が脱がせて放り投げると、井田が膝立ちで俺の足の間に身体をねじ込んできた。
　なんで正常位だよ、とは思ったけど黙っておく。初めてでこの人数に囲まれたら、何されるのか見えてないとさすがに怖い。
　三人は相変わらず頭上で何かいろいろ言ってるけど、耳の奥で心臓がバクバクうるさくてなんだか全部が遠くに聞こえた。こんなに興奮してるのに、現実感がまったくない。
　何だこれ。アナニーのしすぎで都合のいい夢でも見てるんじゃないのか。
　嬉々として俺の股の間で膝立ちになって、自分のちんこにゴムをかぶせてハンドクリームを塗りたくってる井田は、今さら俺が駄目だとか言ったところでやめる気なんかなさそうだ。

「……井田」
「んー？」
「さっき言ってた飯、焼肉食いたい」
「えー……。それ、食い放題んとこでもOK？」
「いいけど」
「んー、じゃあそれで決まりな」