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あれからの、あんなこと、こんなこと

4.有川の、あんなこと、こんなこと ②

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 そんなやり取りを何度も繰り返して、指先で入り口だけを小刻みに揺すり続けると、七瀬はとぎれとぎれに自分のアナニー遍歴を打ち明けた。
 くだんの蛍光ペンと七瀬とのは中学生の頃で、目移りしつつも他の棒状の類いには浮気しなかったらしい。高校生になってもまだ自分の指すら挿れたことはなく、だというのに思い切りがいいというか何というか、二年の時に親に隠れて初めておもちゃを買ってみたら今度はそっちに夢中になってしまったんだとか。それからはいろんな種類を試しつつ、週に一回の頻度で経験を積んで今に至る、と。
 しかも、実は高校の終わり頃からリアルちんこが気になり始めてて、だけど相手もきっかけもなくて、そんな中で迎えたのが『あの日』だったらしい。

 ──いやそれ、相手がおもちゃじゃなかったら普通にビッチじゃねーかよ。……危ねえ。少しでもタイミングがずれてたら、今頃こいつは俺の知らないどこかで誰かにちんこ突っ込まれてたのか。
 まあ、初めての相手が自分じゃなかったのは別にどうでもいい。そこに立ち会えただけで文句はない。ただ、これからも七瀬が井田や宇山でアナニーする時には、いつも俺のことだけを見ていればいい。
 どうやら俺は、普段は全然素直じゃない七瀬に──特に他の男に抱かれてる七瀬に──すがりつかれると興奮する性質たちだったらしい。思ってもない所で判明した、そんな独占欲だか何だかよく分からない性癖を、自分でもどうかしてると思うけど。
 
 そんなことを知ってか知らずか、俺の腕の中でじらされ続けた七瀬はちんこを先走りで濡らして、もうおもちゃなんかじゃ満足できないんだと白状した。

「準備してくる?」

 俺もすぐに挿れたかったけど、これ以上するのは男同士だと大変だ。だけど、一度身体を離そうとした俺の服を、うつむいたままの七瀬がぎゅっとつかんだ。

「……家で、してきたから」

 な ん だ そ れ 。

「ん、そっか」

 いや「そっか」じゃねーだろ俺! 何だよこいつ、最初っからやる気じゃねーか。そんな身体で澄ました顔して茶なんか飲んでたとか何なんだよ。……ほんっと素直じゃねーな。
 どうにか平静を装って、ローションを垂らした指を二本そろえて穴に差し挿れてやると、七瀬のそこは勝手に俺の指を奥へ奥へと誘い込んだ。薄く開いた唇は湿った吐息を漏らしていて、その隙間から舌を差し込めば、口の中で小さくあえぎながら尻と同じ感じで俺の舌に吸い付いてくる。
 言葉でどんなに虚勢を張っても身体は自分の欲望に忠実で、俺の腕の中でどんどん素直になる七瀬がかわいくて仕方ない。頭半分しか違わないでかい男に、まさかこんな気持ちになるなんて本当に思わなかった。

「七瀬、かわいい」
「うっせ! 何だよ……くそっ、もういいから早く挿れろって」

 俺らのちんこなんておもちゃと同じだと言わんばかりに、七瀬はすぐに挿れられたがる。だけど、俺はそんな雑なやり方をする気はない。井田や宇山と同じになんてしてやらない。結局アナニーと同じだなんて思わせない。ぐずぐずになるほど甘やかされて、いつも最後には俺にすがりつけばいい。
 涙目で懇願されるまで時間をかけて七瀬をじらしてやると、余韻を残したまま中でイきたがる七瀬の身体は、何度でも俺を受け入れた。



「なあ、もう家でやらねえんだったら、うちに置いとけば?」

 リアルちんこにハマって用済みになったおもちゃの置き場としてサイドワゴンを示すと、七瀬は翌朝、帰省する俺が家を出る前にそれを持ってきた。意外とあっさりで拍子抜けしたけど、本当は実家でどこまで隠しきれるかずっと不安だったらしい。

「はあ……。来る途中とか、今だけは絶対死ねるか、って思ったわ」

 大きめのバックパックをしっかり前に抱えた七瀬が、汗だくで疲れた顔をしながら取り出したおもちゃの数々は、目の当たりにすると壮観だった。
 聞いてたとおり種類が多くて、ただの栓みたいな形のもあれば奇妙な形のもあるし、リアルな形をしたのまである。サイズ自体も、手のひらに収まるくらいのプラグから、井田のちんこよりは小さそうだけど結構太いディルドまでいろいろだ。カタログでも見てるような気分になったし、それなりに金がかかってるとか言ってたのもうなずける。
 つか、自分の尻に挿れたものを見られたくない、とか今さら何言ってんだ。そののひとつが俺の股間にぶら下がってんのはいいのかよ。
 照れ隠しに口調が荒っぽくなる七瀬がおもしろくて、引き出しにしまう前にローテーブルの上に並べさせたそれらを、時間の許す限り一つずつ説明させた。
 形自体の遍歴としては、つるっとしたものから少しずつリアル系に移ったらしいけど、ディルドのいくつかは、吸盤で床や壁に貼り付けたり、中に骨が入ってて好きな角度に曲げたりもできる機能付きだった。で、その果てが俺らのリアルちんこってことなんだろう。相変わらず分かりやすい。
 最後に使った時のままで持ってきてしまったのか、ちんこ形の骨入りディルドの角度は俺のフル勃起に近かった。

 ◇

「あれ、珍しー。お前らだけでやってたんだ」

 秋学期が始まってしばらくった頃。学生証をなくたことに気付いて一度大学に引き返した俺が戻ってくると、先に部屋に入れておいた七瀬と宇山が、裸でベッドの上に転がっていた。
 たった今七瀬から抜いたとこだって分かる明らかに事後の体勢で、宇山のちんこの先にはゴムが重みで垂れ下がってて。七瀬はといえば、俺の前でなんか抱かれ慣れてるくせに、なぜか浮気がバレたみたいに固まってて。
 素知らぬ顔で声をかけたものの、そんな態度に引きずられたのか、なんだか俺も浮気現場に踏み込んだような気分になった。
 ……つか、なんで俺のいないとこでやってんだよ。俺が興味ないふりして手を出さない時ですら、二人に輪姦まわされながら、いつだって俺のこと見てるくせに。なんで。
 七瀬がイった形跡がないのを確認してなんとか気持ちを落ち着けようとしたけど、湧き上がってくる情動は抑えられなかった。

 思えば、この時にはもう、俺は七瀬を手放すなんてできなくなってたんだろう。
 七瀬を俺だけのものにしたいわけじゃない。それ以前に俺たちは男同士で、最終的に誰かの相手になんかなれるわけがない。
 独占欲とも恋とも違う何だか分からない執着でつながったこんな関係には、いつか終わりが来る。最近は誰も言わなくなった「彼女が欲しい」っていうぼやきを、この関係に飽きた誰かが言い出して。七瀬が先か、俺が先か、井田か宇山か、今は想像もつかないけど。
 でも、男同士なんて多分そんなもんだ。

 ◇

 ──確かに、そう、思ってたはずなのに。

 夏に始まったこの関係は、秋が過ぎ、冬が来ようとする今も変わらず続いている。とはいえ、何も変わってないわけでもない。
 いつも無理だのなんだのと騒いでいた宇山も、ちょっと背中を押してやったら意外とあっさり井田のちんこを尻の穴に受け入れた。紳士協定と井田の謎理論を知った七瀬が宇山の初めてを見たいって言いだしたのが発端だけど、放っておいても時間の問題だったかもしれない。普段からアナルプラグを挿れられて、勃起しながら嫌がりもせずに井田のちんこをくわえてたくらいだし。
 けしかけたのは七瀬自身だ。それでも実際に二人がやってんのに不満はないのかと思って聞いてみたら、逆に「お前も宇山とやりたかったりすんの?」なんて不安そうに聞き返された。
 ……そんなわけねーだろ。
 宇山どころか、他の奴にだって女にだって、今は興味がない。俺が抱きたいのは七瀬だけだ。この気持ちに名前は付かないけど、それだけは確かで。

「ぅあっ、有川っ、ありかわぁ」

 井田のちんこでイかされながら、呼ぶのは俺の名前だとかどういうつもりだよ。
 喉の奥で泣くのを我慢してるような声で呼ばれて、すがりついてくる身体をたまらず抱きしめる。抱きしめて、今度は俺のちんこを挿れて撫でてやると、七瀬はとろけた顔で身体を震わせて。

「は、ぁ、気持ちい、気持ちい」

 俺の首にしがみついたまま、耳元で俺にしか聞こえないくらいの小さなあえぎ声を漏らした。


 ──飽きるどころかもう引き返せないほどの深みにはまってしまった。と気付くのは、それからほんの少しだけ後の話。
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